緒沢タケル編8 狩猟の女神アルテミス 進軍
ミィナが腹を抱えて笑いだした。
しかし怒鳴られた方は溜まったもんじゃない、
タケルの必死の言い訳が始まる。
「あっ、そっちか!?
だ、だってよぅ!
もう進軍するのは決めてたろうよっ!?
今さらそんな質問を・・・!」
サルペドンがイラついているのが傍から見ていても良く分かる。
それでも必死に抑えているようだ。
「・・・ま、まぁいい!
進軍するのもいいだろう、
それでこの先、どうやって進むかだ・・・!
今現在、我らには徒歩でしか移動の手段はない。
遠方より発射される弓矢を避けて先に進むことなどできるか?
そしてうまくあの矢をくぐり抜けたとして、どうやって攻撃する?
タケル! お前に女は殺せるのか!?」
質問全てに対し、タケルは即答できない。
数人の部下がライフルを先ほどの丘に向けてスコープを覗いてみたが、
その場所には誰も見えないらしい。
アルテミスとやらは自分の居場所に戻ったのだろうか?
その間タケルは、ない頭を絞って必死に考える・・・。
・・・そうだ!!
「な、なあ、やっぱり、あのトカゲ解体しようぜ!」
「やっぱり?
・・・どういうことだ?」
「骨だよ!
あんだけでかい体なら、楯の代わりに使ったり、加工できそうな骨があるんじゃないか?
別に防御性能の高い楯なんか望まなくていい、
あの弓矢から自分のカラダだけを守れればいいんだ!」
成程、それはいい案かもしれない。
何しろ周りは土と植物、そして岩石だけなのだ、
それ以外、材料は何もない。
さて、対応策としては、そこまでは良かったのだが、この時、今の話に続いてミィナがとんでもない事を言い出した。
「じゃあさ、
そのアルテミスとか何とかって女はあたしがやっつけるなっ!」
はぁぁぁぁぁぁっ!?
これには誰もが意表を突かされた!
今までの話の流れでは、
超能力にも似た技を使うオリオン神群に対抗できるのは、天叢雲剣を使うタケルを置いて他にいない、という前提で話が進められてきたからだ。
タケルもサルペドンも、
すぐさま「無茶を言うな」とたしなめるが、ミィナは一歩も引く気配はない。
「ちょっと待て!
お前ら、あたしがあんたらについていくってのは、
あたしも戦闘に参加することを理解して受け入れてくれたんだろ!?
それこそ、今さら何言ってやがんだよ!」
それはそうだが、何も敵の中ボスと・・・。
そしてタケル達に、
それに代わる代案も見つからないのも事実である。
とりあえず、この後、
状況はどう変わるかも予測できないので、ミィナの案は作戦の一つの候補として取り上げざるを得なくなった。
・・・先にトカゲの解体を始めるか。
食料の補給にもなるし・・・。
まだ食事をする時間ではないが、
骨や分厚い皮膚を貼り付けて、簡素な楯を作成するチームと、肉を加工・調理するチームに分かれて作業を行う。
トカゲの肉は燻製にしてしまえば保存もきく。
作業を続行しながら、ここでテントを張ろうかと言う事になった。
いつまた、トカゲがやってきたり、アルテミスの矢が放たれるか心配ネタはあるが、
用心していればなんとか対処できるだろう。
アルテミスからの攻撃の方は、
「領地に近づこうとしたら」と言っていたし、この位置なら大丈夫に違いない。
そして、あれから結構な時間がたった。
休める者はカラダを休め、行軍の準備を始める。
恐らく敵の攻撃の要がアルテミスただ一人なら、焦れて向こうも休んでるかもしれない。
その内に強引に村を通り過ぎればいい、という淡い期待もあったのである。
いよいよ出発だ。
先頭集団に、タケルとグログロンガがトカゲの楯を装備して前へ進む。
次の塊が、酒田・クリシュナと言った第二陣。
ちなみにミィナもここにいる。
サルペドン、マリア、デンなどど言った非戦闘員は後ろの方に。
一団の両脇にはライフル部隊を構えさせ、羽根を拡げた鳥のような陣形である。
タケル達は一気に進む!
ライフル部隊は慎重に、スコープの中を注視しながら亀のようにゆっくりと続く。
完全に分業しつつ、敵の攻撃に備えるのだ。
既に先ほどの小高い丘からの距離は200メートルは切っているはず・・・。
恐らくタケル達の肉眼でも、何か動きがあれば一目で分かる。
距離、およそ・・・150メートル
100メートル、
・・・50メートル・・・
ここまで何も・・・いや!
何かが視界に・・・!?
シュパッ!!
「ぎぃあっ!」
ライフル部隊の一人に矢が刺さる!
「来たぞっ!」
「どこだっ!?」
全員、楯を構えて丘の上を見つめるが、
まったく誰の姿も確認できない・・・!
そして二発目が、丘の上から!!
「うおおおおおおっ!?」
今度はタケルにめがけて放たれたっ!
当初の狙いどおり、楯は乾いた音を放って矢を受け止めるっ!
その結果に、やや安心するも、そんな事よりタケルには今の攻撃に理解できない事がある。
「何だ、今の!?
完全に放物線を描いて飛んできやがった!
向こうはオレ達との距離をちゃんと掴んで矢を射ているのか!?」
だが、それならば、
どうしてアルテミスは姿を見せない!?
こちらのライフルに狙われないように、丘の下から攻撃しているのか?
ならどうして、正確にこちらの位置を掴めるのか?
めくらめっぽう射ってたまたま当たってるだけなのか!?
そしてさらに第三、第四・・・いや、無数の矢の雨が!
狙って射てるわけがない!
当たり前の話かもしれないが、敵は多くの弓兵を用意していたようだ。
あっという間に頭上の空間が矢で埋め尽くされる。
降りそそぐ矢の空気を切り裂く音や、楯や地面に突き刺さる衝突音、
そして次第に仲間たちの悲鳴が!!
「やっ、野郎っ!!」
ついにタケルが小高い丘のふもとにたどり着いた!
ここから先は姿を見せずに射る事などできない!
山なりの軌道を描こうとすれば、
天井にぶつかるか、遥かタケルの後方に外れるかどちらかだ!
「第二陣は丘の麓を回り込め!
グログロンガ以下はオレのあとに続け!!」
一度タケルは後方に指示を送るべく、後続部隊に振り向いた。
そしてすぐさま顔を前方に戻した時、
自分めがけて頭上から落ちてくる、凶悪な矢の存在に気づいて仰天する!
「でぇぇぇぇぇえっ!!」
せっかく作ったトカゲの楯が真っ二つに割れ落ちた!
ここはやはりさすが、と言うべきだ。
タケルの反射神経だからこそ、これだけの被害で済んだのだから。
だが、いったいどうやって打ち込んだのだ!?
この距離・このスピードで山なりのカーブを描いて放てるわけがない!!
そして同時に、ここで足を止める訳にもいかない。
何しろ後ろからどんどん仲間がやってくるのだ、
足を止めて、みんなの行軍の邪魔をしてしまえば、部隊全員狙い撃ちだ!
後は反射神経を頼りに前へ進む・・・!
それがタケルの役割なのだから!!
いよいよ次回、アルテミスと対面