緒沢タケル編8 狩猟の女神アルテミス 彼方からの一矢
スサの部隊から大きな歓声が・・・。
だが、ミィナ自身、こんな化け物を相手にしたことはない。
この鞭だけではダメージを与えられないことも分かっている。
出来るのはせいぜいトカゲを脅かすことと、
大きな音を立てて威嚇することだけ・・・。
「ほら! そこのおっさん、さっさと逃げろよ!!」
ウィグル語でまくし立てられても酒田は理解できないが、言いたいことは分かる。
みっともないが、ここは態勢を立て直して・・・。
「誰かライフルを撃て!
離れた所からなら・・・!」
サルペドンの大声の指示で、すぐに部下の何人かが狙撃の用意を・・・。
一方、ミィナはタケルに向かっても怒鳴りつける。
「おい! アンタも何やってんだ!
剣でどうにかできるわけねーだろ!?
マシンガンか手榴弾くらい持ってねーのか!?」
そこでようやくタケルは我に返る・・・。
ちっくしょう・・・!
今度こそ!!
巨大トカゲはミィナの風を斬る鞭の音に警戒しているまま・・・。
集中する時間は今しかない!
バチィッ!
天叢雲剣発現!!
・・・だが、まだ巨大トカゲに放電するにはエネルギーが足りない!
ビュオッ!!
「うわぁっ!」
突然、ミィナの視界の外からトカゲの尻尾が回し蹴りのように彼女を襲う!
天性の反射神経で鞭を楯のように使ったが、
ほとんど意味もなく、そのままミィナは身体ごと吹き飛ばされる!
このままではっ!?
誰もが、彼女が地面か壁に叩きつけられてしまうかと思ったが、
「うぉっ・・・とぉっぉ!!」
なんとタケルの逞しい左腕が、ミィナのカラダを抱きかかえる事に成功!
・・・ついこないだ切断された左腕のことなど、完全に忘れきっているようだ。
「グェホゲホッ! (あ・・・あれ?)」
瞬間的に息ができなくなったのだろう、
ミィナは咳込みつつも、覚悟していた大ダメージがない自分のカラダに戸惑いまくっている。
それどころか、自分のウェストや背中のあたりを、
ぶっといタケルの腕や胸で、がっちりロックされてるこの状況に気づくと・・・。
「うゎうゎうゎぁっ!」
苦しむ(?)ミィナを気遣う言葉をかけてもいいが、今は戦闘中!
タケルはゆっくり彼女のカラダを地面に置くが、その視線は巨大トカゲに向けたまま・・・。
もう、たっぷりと「溜まった」ぜ!
待ーたーせーたーなーぁっ!!
鞭の警戒を解いた巨大トカゲは一気にタケルに突進する!
だが、一度スイッチが入ったタケルの戦闘本能は、
相手が化け物だろうと、もう臆することなく正確に攻撃のタイミングを掴んでいた!
今度こそぉ・・・叫べ、いかづちっ!!
オレンジ色で染められた世界に、青白い閃光が放たれる!
耳をつんざく轟音とともに、
無数の電流が巨大トカゲを蹂躙していく!!
何が起きたかも分かるまい!
そして・・・、数秒の止まった時間の後、
巨大トカゲは力なく地面に崩れ落ちたのだ・・・!
「いやぁ~、焦ったぁ、一時はどうなるかと思ったぜ・・・。」
額の汗をふくタケルにサルペドンのお小言が・・・。
「お前な、・・・油断のしすぎだ!
それと剣の力を過信し過ぎるな?
力の源は自分自身の精神力なのだ、
萎縮した状態では何もできないぞ!」
「ああああ、はいはい、わかったよ、サルペドン、
余りにもいきなりだったからさぁ~、
もう、同じ轍は踏まねーよ・・・。
おい、ミィナ、大丈夫か? 助かったよ、
ホラ、手を貸すぜ。」
彼女は彼女で、初めて見る天叢雲剣の真の力にびびりまくっている。
ヘルメスの時は剣に帯電させただけだったから無理もない。
「おっ、おい、何だよ、今の・・・!?」
驚きすぎて、タケルの腕にがっしりと掴まれたときも、
余りにも近すぎる肌の密着度に、我に返るまで時間がかかった。
「うん? まぁ・・・説明どうしよう・・・
オレも良くはわかってないし・・・。」
「タケルさん、そこは私が後で彼女に説明しておくわ。」
マリアがフォローしてくれた。
この人は本当に気の利く人だ。
やっとミィナは、半ば強引にタケルの腕を振りほどこうとする。
タケルは彼女が嫌がっているのかと思い、自らも腕を解くが、
実際ミィナの表情は、あからさまに迷惑そうな顔つきでもない、か・・・?
ミィナは殊勝にも、恥ずかしげに礼を言う。
「あ、お、あ、ありがとよ・・・!」
口は悪いが、
頬を赤らめて素直に礼を言うミィナの顔はなかなか見ごたえがある。
そのまま、ぼーっと彼女の顔に見とれていたタケルは、
ついに彼女の反撃を食らう。
バキッ
「ンぎあっ!?」
「ガン見してんじゃねーよっ!」
太ももに思いっきり前蹴りを食らったのだ。
「くくく・・・・・・
てっ、てっめっぇぇぇぇ~!!」
うずくまるタケル・・・。
どうしていつもこんな目に・・・。
見ているだけで飽きの来ない光景だが、
その為に彼ら一同、誰もが油断しきっていた・・・。
まだ、
巨大トカゲは絶命していなかったのだ・・・!
キィィィィッ!!
再び高音域での鳴き声が辺りに響く!
既にタケルは剣を納めていた。
この距離ではトカゲの強烈な一撃をまともに・・・!
「うおおおぉぉぉっ!?」
強烈なトカゲの張り手がタケルを吹っ飛ばす!
彼の頑丈なボディは、少々の攻撃ではダメージを負わす事も出来ないが、
数秒、身動きできない程の衝撃が彼のカラダを支配する。
・・・その間に他の仲間が犠牲になったら!?
最悪だ・・・こんなところで・・・
まだ敵も遭遇していないのに・・・!
しかし・・・この時、
数百メートル離れた小高い丘から、この光景を見つめる一つの視線があった・・・。
その人物は冷静に状況を把握すると、
手にした弓に、背中の筒から矢を構え、
狙いも定めずに無造作な動作で弦を引き絞ったのである!
一本の細い矢が放たれた!
しかし、巨大トカゲまでの距離がいくらあると思っているのか?
ところが、その矢は高度を下げる事もなく、
そのまま流星のごとく一直線に・・・
それどころかどんどん速度を早め、
まるで巨大トカゲに吸い寄せらるかのようにグングンと
スカンッ・・・!
そしてスサの戦士たちが気づいたその時には、
一本の矢が、その巨大トカゲの額を貫いていたのだ・・・。
その瞬間、巨大トカゲは一気に大地に崩れ落ちた・・・!
何が起こったのか、
それすら理解できぬまま・・・。
ようやく、トカゲの額に一本の矢が刺さっている事を確認すると、
では、どこの誰がこの矢を放ったのか、
当然の疑問と共に、グログロンガが矢の放たれた方角を見渡す。
かなりの距離の向こうに丘らしきものがある。
まさか、・・・あそこから!?
さすがに彼の視力を以てしても、そこに誰がいるかなどは視認できない。
ただ一人、サルペドンだけが、
トカゲに刺さった矢を見つめて、ひとりでに口を開いていた・・・。
「まさか・・・
狩猟の女神・・・アルテミスか!?」
そしてそう、
その小高い丘からは、
あまりにもグレイトな胸を震わせて、
一人の女性が立ちつくしていたのである・・・。
「キャーハッハハッハッハッハーァ!
あたーりぃぃ!!」