緒沢タケル編8 狩猟の女神アルテミス 地底へ
地底世界最初のステージは、
岩、土、草原、丘、溶岩
スサの一団は歩を進める・・・。
これまで、誰も足を踏み入れた事もないような洞窟を、
奥へ、奥へと降りてゆく・・・。
今のところ、先へ進むのに困難と思われるような地形は存在しない。
突然、足場がなくなったり、
岩盤が崩れてくるなどといった不測の事態を用心して、
速度を上げることはできないが、
しばらくの間は、トラブルもなく行軍を続けられるだろう。
別に遊びや観光気分などあるわけでもないが、
ライトに照らされた景色は、タケル達の好奇心を刺激する。
筍のように地面から生えている鍾乳石や、
不思議な色に変化している洞窟の壁などは、
彼らの疲労を和らげる効果がある。
彼らは時に、くだらない話や、うんちくを垂れながら、続く新たな景色の変化を愉しみながら足を伸ばした。
「道はあっているのか?」
今のところ、迷うような分かれ道もない。
枝のように伸びている小さな暗闇の道はあるが、
一目で先がないことぐらいわかる。
声の反響具合からしても問題はあるまい。
「あいつらも同じ道をやってきたんだよな?」
それは当然と誰もが考えるだろうが、サルペドンの意見は違う。
「多分としか言えないが、さっきのヘルメスを見たろう?
もしかしたら移動手段に奴の能力を使ったかもしれない。
勿論、自分達の住んでる村から、
一気に地上のウィグルまでやってきたとも思えないが、
かなりのショートカットを行ってここまで来たのかもな?」
この後は酒田のおっさんとグログロンガの会話である。
「へぇ~、だとしたら確かにずりぃな?
そういや目印ってどうなったんだ?」
「・・・今のところそれらしきものは見当たらない・・・。」
一方、畑違いと言えど科学者のデンは、
黙って鉱石や鍾乳石の材質などに興味があるようだ。
・・・さて、そろそろスサの精鋭たちもお腹の虫が鳴く頃である。
人一倍大食漢の、タケルが時間を気にして、
そろそろカラダを休めるスペースを探すようグログロンガに指示を送った。
グログロンガは何人かの部下を分けて偵察に行かせ、
部隊を休めるに都合の好さそうなスペースを調べる。
五感をフルに働かせて、未知の脅威に備えるのだ。
バサバサバサ・・・ キィキキッ・・・ チョロチョロチョロ・・・
ここまで来ると、洞窟には空気の流れはほとんどない。
聞こえる音も、コウモリの羽音やげっ歯類の鳴き声や足音・・・、
後は低地を流れる水の音ぐらいだろう・・・。
いや、
小動物の動きがやけに多い・・・。
人間たちの接近で慌てているような動きだ。
「グログロンガ様!」
「どうした!?」
部下が何か発見したようだ・・・。
「何者かが食事をした後があるようです!
子牛か何かと思われる動物の骨が散乱しています!」
「本当か!? まだ新しいのか!?」
すぐに全員駆けつけるも、
どうやらオリオン神群の部隊がここでカラダを休めたと思われる。
捕まえたトモロスの部下に聞いてみたが、
自分達はこの場所では休まなかったが、
他の部隊はそれぞれの場所で休憩をとったに違いないということだそうだ。
・・・そしてさらに、
その場所から、そう遠く離れていない場所に・・・、
これまでなかった・・・垂直に拡がる、巨大で真っ暗な穴をタケル達は発見したのである。
「・・・でけぇ・・・、直径5メートル位はありそうだ。
(大声で)やっほー!!」
どうやらかなり響くようだ。
石を投げ込んでも、
近くの壁に当たりこそすれ、地面に落下したようには聞こえない。
どうやら、この穴が本格的に地球の内部へ向かう道なのだろうか?
そして彼らは、ここで休息をとった後、
準備を整えて、このま暗闇の中へと降りてゆくことを決断した。
この辺りの岩盤は固いようだ。
ロッククライミング用の装備一式は持ってきている。
ハーケン(釘)を打ち込み、ザイルを巻いていく・・・。
勿論、登山やロッククライミングの高い技術を持っている者はほとんどいないが、
大地の奥底へと続く竪穴は、足場が全くないわけではない。
あくまで装備は万一のために行うためのもので、
用心すればそれほど危険でもないと思われるのだが・・・。
「こんなとこ襲われれば、一たまりもねーんじゃねーか?」
タケルの発言ももっともだ。
全員、それに身を引き締めるも、
それほど危惧するほどのモノでもないだろう。
「・・・条件は相手も同じだ。
わざわざ、自分が転落する危険のあるところで戦うつもりもあるまい。」
それもその通りか、
サルペドンはいつもの冷静さを取り戻しているようだ。
・・・果たしてどれぐらい下降しているのか?
スサの一団は特段急ぐわけでもなく、
安全に・・・慎重に暗黒の空間を切り開いてゆく。
先頭のグログロンガ・・・、
そして少し離れてタケルは途中、空気が変わる雰囲気を感じ取る。
顔に・・・肌に大気の圧力が・・・。
「冷気が消えた・・・。」
それまで洞窟に特有の空気の冷たさが消えたのだ。
「風も出てきたんじゃねぇか?」
それだけではない。
ほんの・・・ほんの少しずつの変化であったために、
気づくのに時間がかかったが、
地底の奥底に、うっすらとしたオレンジ色の明るさが溢れて来る。
「おい! ・・・この光はなんだ!?」
終着点が近いのか・・・、
「それ」は段々とはっきり・・・
彼らにも分かるようにその全容を明らかにしていく・・・。
「・・・大地の底・・・見えたぞ!」
垂らしていたロープに弛みができる!
底は堅い岩場ではない・・・まさか・・・、
一面、土か草原でも広がっているのだろうか?
次回、彼らを歓迎する最初のお相手はなんと・・・