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第2話

章タイトル変更しました。


 

一方、こちらは日本・・・、

東京西部の郊外・・・。

そこは、ある出版社に勤めるルポライターの家庭。

これまでの物語で、

何度か登場した事のある普通の民家・・・。


 「じゃあ、百合子、行ってくるよ、

 遅くなりそうだったら連絡する。」

 「・・・いってらっしゃい、

 麻衣も忘れ物とかない?

 車に気をつけるのよ。」

 「うん、だいじょうぶ。 いってきまーす。」

 「今晩、トマトスパゲッティね、おいしいの作るわ。」

 「うへ、おれトマト嫌いなのにぃ。」

 「食感が嫌いだって言うから原型崩してあげるわ、

 栄養あるんだからちゃんと食べるのよ。」


それは、

どこででも見られる日常的な日本の街中の光景・・・、

一見、平和な家庭・・・。

だが、

これから彼らが足を踏み入れる事になる世界は、

悪夢と残酷な結果が待ち受ける危険と絶望が隣り合わせの領域・・・、

・・・いや、その表現は的確ではない。

何故なら、

彼らはもともとその世界に、

深い関わりを持つ者達だったのだから・・・。

 


この家の主人が、

もう一台ある赤い軽自動車に気を遣いながら、

ゆっくりと自分の車を家の外に出すと、

ランドセルしょった麻衣が、

先に玄関から出ていて、自分の父親を待っていた。

父親・・・伊藤が笑顔でクラクションを鳴らすと、

麻衣は思いつめた顔で窓の中の父親の顔を見詰める。

彼も娘の表情に気がついて、

一度車を停め、ウィンドゥを下ろす。

 「どうした、麻衣?

 登校班の集合場所に遅れるぞ?」


麻衣はしばらく黙っていたが、

意を決したように口を開く。

 「・・・あのね、パパァ?

 今日パパが会う人っていい人?」

余りの唐突さに彼は驚いたが、

戸惑いながらも真摯に娘の質問に答えた。

 「えっ?

 今日会う人って・・・会社で来客予定のある人のこと?

 ・・・いや、初対面だから・・・いい人かどうか分らないな・・・、

 その前に麻衣が、

 パパの今日の仕事の事をどうして知って・・・

 あ、いや、

 それはどうでもいいけど、いったいどうしたんだ?」

 


 

今日の仕事は、

とある興信所の人間に会うことになっている。

申し込みは向こうからだった。

二週間前神奈川県O市で起こった、カルト教会大量殺人の件と言っていたが、

伊藤の過去の取材活動を参考にしたいらしい。

無論、伊藤のほうも、

教会で起きた異常な手口に思うところがあったので、

それを断る理由は全くなかった。

 「うん、

 パパが危ない目に遭うかもしれないの・・・。」


麻衣は時々、

一日、二日先のことを予測するような夢を見ることがある。

最近はそんなことはめっきり減ってきたが、

実際それで命を助かった経験のある伊藤にとっては、

娘の言葉は無視できない。

 「パパがこれから会う人は危ない人なのかな?

 警戒しとけばいいのかい?」

 「違うの、

 ・・・その、

 もっと先に行くと危ないの! 

 ボロボロのつり橋を渡るみたいに・・・

 進めば進むだけ崩れそうになって・・・。」

 

麻衣も自分の言葉をどう表現していいか分らないようだ、

だが、

やはり伊藤もいい父親なのだろう、

頭を撫でて優しい言葉をかける。

 「わかった、ありがとう、麻衣、

 必ず気をつけるよ・・・。

 心配しないでな・・・。」

 「うん・・・。」 


ところが伊藤が再び車を動かそうとした時、

麻衣はもう一度真剣な顔で父親を呼び止めた。

 「パパ、違うの! 待って!」

 「どうしたんだ?

 他にも何かあるのか? 麻衣。」

 「・・・ごめんなさい、

 ママに止められてるの、

 あまりパパに夢のお話するんじゃないって・・・。」


それも親としては当然のことだと伊藤は理解している。

子供のうちならともかく、

成長してからそんな事を吹聴すれば変な奴だと思われる。

 「ああ、わかってるよ、

 ママには内緒だな。」

 「・・・うん、そうなんだけど、

 ホントは違うの・・・。」

 

 「えっ?」

 「ママはみんな知ってるの・・・。

 でもホントのこと言うと、

 パパが余計に危ないから黙っててって・・・。」

 「どういう夢を見たんだ?

 今日のパパの仕事に関係あるのかい?」

 「・・・麻衣が見たのは、お人形さんの夢・・・、

 お人形さんが迷路みたいなところに閉じ込められて、

 助けてって叫んでるの!

 ・・・泣きながら叫んでるの・・・!

 麻衣には何もできなくて悲しかったの・・・、

 でもパパが今日会う『人たち』なら、

 あの可哀想なお人形さんを助けられるかもしれないの・・・!」


お人形さんって・・・まさか!?


伊藤の脳裏に、

かつて自分が目撃した呪われた人形の記憶が蘇った。

 「・・・メリー・・・か!?」

 「あの子が苦しんでるの!」

 「・・・・・・!」

伊藤にしても、

あの人形のことは忘れたことはない。

再び出会うことなどないだろうとは思っていたのだが・・・。

 

 

普通なら、

気味の悪い物への恐怖の感情が優先するはずなのだろうが、

一度でも自分の最愛の娘に、

その姿を重ねてしまった後では、

どうしても他人とは思えない。

ましてや、

娘の麻衣が泣きそうな顔で自分に訴えている・・・。

 「麻衣・・・、

 麻衣は昔にもお人形さんの夢を見たね?

 ・・・覚えてる?」

 「・・・うん。」

 「お人形さんとは仲良くなれそうかい・・・?」

 「・・・わかんないけど・・・

 友達に・・・なってあげたい・・・。」


伊藤は精一杯の優しい顔をした。

 「麻衣はいい子だ!

 麻衣のお友達なら助けてあげないとな!」

 「ホント? ありがとうパパ!

 ・・・あ、でもママが・・・。」

 「分ってる!

 ママには内緒だ、パパも気をつけるさ。

 さ、安心して学校行っておいで!」

 


麻衣は駆け足で集合場所へ向かっていった。

伊藤も再び車を動かす・・・。

彼の胸のうちは、

娘が優しい子に育ってくれたことが誇らしい。

また、娘の口から、

普段ぶっきらぼうな妻が、

自分を心配してくれていることを窺えて、その事がとても嬉しかった。

あの人形メリーが助けを求めているというのが、

一体いかなる状況なのか理解できなかったが、

これから会う人間と、

どんな事態に巻き込まれるのか、

期待と不安で彼の心は沸き立っていた。


・・・そして、彼ら父娘の会話を、

遠くから覗いていた女性がいた・・・。

家の入り口から、

その、あまりにも白い顔をのぞかせて。

重い足取りで・・・彼女、

百合子は家の中に入っていく・・・。 

百合子は力なくダイニングの椅子に座り込んだ。

その表情は暗い。

夫と・・・娘が出かけて、

いま、この家には百合子しかいないはずである。

だが、

思い悩む百合子の背後に・・・

一つの影が近づきつつあった・・・。

百合子は身じろぎもせず静かに口を開く・・・。


 「お母さん・・・。」

 


百合子の背後にいる者は、

穏やかな口調で彼女に語りかけた。

 「あの子・・・

 麻衣はおまえの言うことを聞かなかったようだねぇ、

 育て方が間違ってたのかい?」

 「間違ってなんかいないわ!

 まだあの子は10歳よ!

 ・・・お母さんだって、

 麻衣には接してこれたでしょう!?」

百合子が・・・いや、

彼女の「一族」が感情を荒げること自体珍しい。

 「・・・おまえを責めるつもりはないよ。

 あたしたちの一族にだって個性はある。

 あの子の場合、

 イブの遺伝子の影響が強いのかもしれない。

 それなら、

 早めに対処しないといけないかもしれないだろ?」

 「やめて!

 お母さんがお父さんを消したのはいつ!?

 私が高校を出た後よ!

 ・・・その頃なら、

 麻衣も事実の重さに耐えられるかもしれない、

 私と同じように・・・。

 でもまだ・・・

 あの子には父親が必要よ!」

 



 「遅いぐらいさ・・・、

 あたしの時は、まぁ経済的な理由とかもあったけどねぇ、

 だがあの子は感情が強すぎる。

 まるであっち側の人間のようだ、

 間違いなく、

 あたし達の能力は受け継いでいるというのに・・・。

 あたしは早めに父親を消しておくべきだと思うよ、

 いい影響を与えない・・・。」

 「それは・・・私が決めることよ・・・。」

 「そうだね、それが掟だ・・・、

 だけどその掟を忘れるんじゃないよ、

 もし、おまえがそれを破れば・・・。」

 「分ってるわ、お母さん・・・。」

 「あの男を必要としているのは、

 麻衣じゃなくておまえじゃないのかい?」

 「・・・やめて。」

 


 「いいかい? 

 甘い心を見せれば、

 あたし達はすぐにでも、

 あいつらに皆殺しにされるかもしれない。

 生き残るためには仕方のないことなんだ、

 ・・・よく聞かせただろう?」

 「耳にタコができる程。」

 「なら、どうすればいいか、

 真剣に考えるんだよ・・・、百合子・・・。」


しばらく無言の時間が過ぎ去っていたが、

・・・いつの間にか影は消え去っていた。

百合子は独り、つぶやく。

 「時代は変わっていく・・・、

 私たちの寿命は短くなり、

 代を追うごとに感情が発達していく。

 力を受け継ぐ者も減ってきている・・・。

 私たちの生き方だけが変わらないの・・・?

 それを変える訳にはいかないの?

 ヴォーダン・・・教えて・・・!」


百合子は一人静かに思い悩んでいた、

照明もつけずに・・・、

薄暗いダイニングで・・・・・・。

 




外伝「白いリリス」では、

伊藤宅で緑の靄の中で、

こんな会話がなされていたのかもしれません・・・。


なお、メリーの世界では「緑の靄」及び「神隠し」設定はありません。

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