緒沢タケル編7 標の神ヘルメス 覚悟
そしてサルペドンには、更に皆に話さなければならない事がある。
「タケルも、他の者たちも・・・、
我らに同行しようとするミィナ・・・、
みんなもう一度、覚悟を決めよ。
これから我らが戦う相手は・・・、今までの常識など通じない。
これまでとは全く異なる次元の戦いになるのだ。
一度戦闘が始まったら・・・、
いや、彼らの領地に足を踏み入れたが最後、ずるいとか卑怯だとかは通じない。
それに相手の手足を封じれば、勝負が決するわけでもない。
相手に戦意がある限り、
彼らの息の根を止めなければ、こちらが殺されるのだ。
・・・これより先を進む前に・・・、
もう一度自分で決断してほしいのだ・・・。」
命のやりとりを行う事は、既に全員が騎士団との戦いで覚悟を決めていた。
だが確かに、
スサとほぼ同様の戦力を持っていた騎士団との抗争と、今度の敵では戦闘方法が全く様相が異なる。
全滅する可能性自体、あまりにも高すぎるのだ・・・!
「・・・サルペドン、らしくねーぜ?
オレ達は・・・」
タケルの頼もしきセリフすらサルペドンは満足できない。
「タケル、お前には別の覚悟が必要だ。」
「あ?」
「はっきり言う。
奴らオリオン神群と比すべき能力を持っているのは、天叢雲剣を振るうお前だけなのだ。
他の者たちは、例え銃やライフルを構えようが、彼らには通じない。
せいぜい背後からとか、物陰に隠れてとか、それこそ卑怯な方法でしか攻撃できないのだ。」
「じゃあまた・・・
オレが矢面に立つしかないって、ことなんだよな?」
タケルは正直、
何もかも投げ出したくなりかけている。
自分の頭で理解できる状況なら、
どんな厳しい戦いにも耐えられる自信があったのだが・・・、
こんな訳のわからない敵に、たった一人で戦うしんどさは・・・。
だが・・・サルペドンの言葉は、
もっと・・・遥かに厳しい。
「そんな事を言ってるのではない。
・・・確かに・・・お前の負担は大変な物になる。
だが・・・お前にとってもっとも過酷な事態は、この戦いで命を落としていくかもしれない仲間の死だ・・・。
オリオン神群にとって、この地は自分達が住み続ける神聖なる最後の土地、
奴らにとっては我らは侵略者なんだ。
・・・死に物狂いでオレ達を襲ってくるぞ・・・。
わかるな・・・その恐ろしさを・・・。」
しばらく誰も口を開けない。
ただ、このメンバーでサルペドンを除けば、
もっとも年長たるクリシュナに一つの疑問が生まれた。
(何故、サルペドン殿は仲間の士気を低めることばかりおっしゃるのか?)
それは当然の疑問である。
だが・・・サルペドンにとってこの戦いは・・・
いや、今この場は先に物語を進めよう。
重い空気が破られた。
・・・それは誰かの言葉でなく・・・、
一人の少女が、固まっている男たちを尻目に歩み出したのだ。
「ミィナ!?」
そこで初めて彼女は振り返る。
「あああ、うぜぇなぁ!
あたしは行くぜ! たった一人でもな!
今さらここまで来て、何震えてるんだよ!
ぐじぐじ考えてたってしょうがねーだろ?
死ぬ時は死ぬさ、
・・・あたしの家族だって・・・
村のみんなだって平和に暮らしていただけなのに殺されたんだ!」
ミィナの思考は単純だ。
両親を殺され、友人たちを殺された恨みが彼女を動かしている。
・・・自分の命など惜しくはない。
そしてその事を誰よりも理解できるのは・・・。
「待てよ・・・オレもいく!」
タケルの迷いのない言葉にミィナは振り返る。
「へ? ・・・いいのか?
お前には危険を冒してまで戦う理由ないんじゃねーの?」
口調は下品だが、
ミィナはタケル達に悪感情を抱いているわけではない。
正直に、これは自分の復讐だと決意していたからだ。
スサの連中がいようがいまいがどうでもいい・・・。
だが、そんな彼女をタケルがほっとける訳もない。
当たり前だ・・・、
彼の過去だって・・・。
「理由?
そんなもん、簡単だ。
見たくもねーし、味わいたくもねーんだよ・・・!
一人になるつらさをな・・・!」
タケルの言葉の奥に、何かある事はミィナにも何となくわかった。
だが、敢えて彼女はそれ以上、口を開かない・・・。
少し醒めた目で、他の連中を見回すだけだ・・・。
そして今さら命惜しさに尻込みするスサの戦士たちの訳もない。
グログロンガ、そして酒田のおっさんが頭を掻きながら前へ進む。
・・・勿論全員がオリオン神群との戦いを決意したのである。
一団の最後尾にはマリアとサルペドンのみ残る。
茫然と佇むサルペドンに、かすかな笑みを浮かべたマリアが話しかけた・・・。
「サルペドン、あなたこそ今さら何を言うのです?
かつて・・・
地上の人間たちに望みを託す決意はとうになされていたのでしょう?」
サルペドンの顔には苦渋の皺が刻まれている。
その心中には凄まじいまでの葛藤があるのだろうか。
「そうだ・・・、だがこのままでは・・・。
私が戦えないのは今も昔も変わらない・・・。
なのに、彼らだけに苦しみを負わせて私だけがのうのうと・・・。」
「モイラの予言が全てではありません。
私だってあなただって、
・・・本当はスサの人間じゃないでしょう?」
マリアさん、問題発言。
そして作者も隠す気がさらさらない様子。
次回でヘルメス編は最後。
本格的な戦闘はその後。