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緒沢タケル編7 標の神ヘルメス 理由

いきなりガチで話が重くなります。

 

 あ? 何の話だ・・・?


タケルは理解できないままだが、

聡明なサルペドンとマリアは、いち早く気づいたようだ。

少しして、デンやクリシュナも驚きの色を隠せない。


 「え? え? ・・・みんな分かるのか?」

間の抜けた反応を見せるタケルを他所に、顔をこわばらせるサルペドン・・・。

彼は絞るような声でヘルメスに応える・・・。

 「まさか・・・世界各国の地下核実験のことか・・・?」


直後のマリアの通訳の後ですら、タケルが気づくには時間がかかった。

もともと平和な日本で暮らしていたタケルには、

世界の軍事情勢など知る由もなかったのだから・・・。

だが・・・それでも・・・

会話の流れで理解せざるを得ない。

アメリカ・・・中国・・・ロシア、フランス・・・、

インドやパキスタンで行われた忌まわしき核爆弾の実験が、

今までどこで行われてきたか・・・、

そしてそれらが実験にされた地域の周辺で暮らす人々に、何の影響もない筈がない・・・。

ならば、

・・・地下世界で暮らしている人間がいたとしたら・・・。

 


 

ようやくタケルも口から驚愕と困惑の声が漏れる。

 「あ・・・あ!?」


話は自ら火をつけた形になるかもしれないが、ヘルメスの興奮はヒートアップしていく。

 「今頃、何とぼけてやがるんだ!

 オレ達オリオンの神々には、全てを見通す女神達モイライがいる!

 彼女達は視たんだ!

 お前ら地上の人間が引き起こした凶暴で・・・おぞましいモノが、

 徐々にオレ達の世界を侵食していく様子を!

 なにか・・・

 肉眼で捉える事も出来ない恐ろしい物質が、

 硬い岩盤を通り越して・・・

 地下水に混じり、

 ジワジワとオレ達の同胞の村を侵食していく様を!

 ・・・その村では奇病が多発し、

 手足の数がおかしい子供が生れ、

 大人になる事も出来ずに死んでいく・・・!

 それがお前ら地上の人間の犯した愚行の結果なんだよ!!」

 



・・・正直・・・タケルはナメていた・・・。

最初に出会った山の神トモロスがあれだけ尊大で、

しかも、タケルに呆気なくやられてしまったから・・・。

だが・・・話を聞いてみれば、

彼ら地下の住人達にも、彼らなりの理由があるではないか?

・・・衝撃的な話の流れでタケルの心は揺れ始める・・・。

それはミィナも同様だ・・・。

横から彼女も、独り言のように小声でささやく・・・。


 「核実験・・・?

 あたしも聞いたことあるよ・・・。

 あたし達と同じ名前の民族が住む東の砂漠で、

 中国が核実験を何度も行ったって・・・。

 その為に何の罪もない人たちが、

 十万人以上死んだって聞いている・・・。」


タケルは言葉も出ない。

日本の平均的な教育を受けたタケルにあるのは、広島・長崎の悲劇だけ・・・。

それも原子爆弾の被害としては、

戦争中・・・遠い昔の日本だけのものだと思っていた。

それが現実に、

世界のいたるところで、こんなにも・・・

いや、恐らくこれも氷山の一角なのだろう、

世界は余りにも悲劇に満ち溢れているのだ・・・。

 



瞬間的にではあるが・・・

タケルの脳裏に、 忘れることのできないあの人・・・

日浦義純の言葉が浮かんでいた。

 『キミが今まで見たことのない世界を見せてあげるよ』

その後、日浦の導きでタケルは闇の世界・・・、

普通の民間企業が、

いとも簡単に鬼畜の所業に手を染める現実を覗くことになった。

そして、そのまま騎士団の純粋すぎる正義感を・・・。

だが、タケルが覗いた景色などはほんの一コマ・・・、

世界中ではびこる悪夢の現実の、たった一コマに過ぎないことを、

ここでも彼は思い知らされたのである。




もし・・・

自分がもっと多くの悲しい現実世界で生まれ育ったならば・・・

自分も騎士団の人間たちと、同じ思想を持ってしまったのかもしれない。

彼らは「悪」を・・・

人々の「不幸」を見続けてしまったが故に歪んでしまったのである。


 オレは・・・日浦さんだけでなく、ライラックやガワンを殺した・・・。

 その行為は正しかったのか?

 他に手はなかったのだろうか?

 彼らの思想は理解できたではないか?

 一歩間違えば、オレは逆の立場にいたのかもしれないのに!?

 なぜオレは・・・

 


静寂を破るサルペドンの太い声が、タケルを現実に呼び戻す。

 そうだ、・・・今はそんな事を考えている時じゃない・・・。


 「ヘルメス・・・、

 お前達が地上に進攻を企てた動機はわかった・・・。

 だが、一応聞いておこう・・・。

 お前たちは元々、地上の人間を見下していたはずだな?

 接触することすら嫌っていたのだろう?

 だが地下世界で暮らしていれば、互いが交流する事などまずない。

 核実験の被害にあった者たちには同情を禁じ得ないが・・・、

 それでも地上に出てくるには相当の決断を要したはずだ。

 きっかけはなんだ?」


ヘルメスは両手を広げ、

まるで歌でも披露するかのように大仰に演説する。

  

 「ハッ、呑気だよな?

 地上の様子は今までずっと見てきたさ!

 同じ人間同士で殺し合いや奴隷狩り!

 互いに国土や自然を破壊し合い、

 豊かな大地を消滅させてゆく!

 お前ら地上の害虫どもをこれ以上、のさばらせてゆく必要がどこにある!

 100年以上も昔、同様に地上の人間たちを皆殺しにしてやる計画はあったそうだけどな、

 その時は、確かにオレ達オリオン神群の間でも意見が割れた!

 だが今また!

 共食いを始めた貴様ら・・・

 地上のほとんどの国々が力を無くした今、

 貴様らを地上から一掃させるチャンスだろう!?

 だから神々の王ゼウス様はご決断なされたのさ!」



サルペドンが珍しく顔に感情を浮かび上がらせている・・・、

傍で見ていられないくらい悔しそうに首を振って・・・。


 「そうか、

 やはり騎士団の進撃がきっかけとなってしまったのか・・・!

 残念だ・・・。

 結局、お前たちとは戦わなくてはならないのだな!」


その時、タケルはサルペドンの態度に違和感を覚えた。

今まで騎士団との戦いの時も、

まるで機械のように冷静だったのに・・・ 。

 



タケルたちは騎士団の戦いに勝利こそしていますが、

彼らの危惧した人間の「愚かなる」部分については、

何の解決もしていません。


それはこれからも・・・

タケルの目に何度も現実として叩きつけられます。


それはシリス編、フラア編であっても。

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