緒沢タケル編7 標の神ヘルメス ヘルメス登場
その言葉に、
サルペドン及びタケルが前方へとやってきた。
・・・グログロンガはその位置を移動していない・・・。
インディアンならではの優れた視力が、他の者には視えない暗闇の先を察知したのだろうか・・・。
「グログロンガ・・・構わん、
ライトを照らせ・・・。」
サルペドンの命令で、
グログロンガは下に向けていたライトをゆっくりと水平の角度に持ちあげた。
・・・いったい何も・・・
!!
「いる!」
声の反響が示すとおり、
確かにビームライトは洞窟が広大に拡がる姿を映していた・・・。
その中に・・・
ポツンと周りの景色と決してなじまない小さな物体・・・、
人間・・・いや子供!?
ビームライトの光を眩しそうに片手で顔を覆いながら、どう見ても12、3歳ぐらいの小さな子供が、スサの一団の前に立ち尽くしていたのである・・・!
「・・・やっときやがった!」
それはタケルには聞き取れない言語だ。
よく見ると、もう一つの手には二匹の蛇の造形が巻き付いた杖を握りしめている。
それより、何故、こんなところに子供がたった一人だけいるのか・・・?
ウィグルの子供?
いや、・・・しかし・・・。
そしてタケルはすぐに自分の考えを否定した。
あの服装はウィグルの者とまったく違う。
むしろスサのユニフォームに似た、古代ギリシアを思い起こすスカートスタイルとサンダル履き・・・。
まさか・・・!
次に声を上げたのは、
タケルの後ろに控えていたオリオン神群の捕虜である。
両手に簡素な縄をかけられた彼は、震えた大きな声を洞窟にこだまさせたのだ・・・!
「あ、あなたはヘルメス様!?」
マリアと・・・
そしてサルペドンが真っ先に反応した!
「ヘルメス・・・だと!?」
その子供は、
ライトの光を眩しがっているのか、顔を歪ませて首を振る・・・。
「・・・んだよ、
いい加減、この光をどけろよ・・・。」
嫌がっているせいもあるのだろうが、目つきがめちゃくちゃ悪い・・・。
タケルの目にはひねたガキに見える。
どちらかというとタケルは子供好きだが、
生意気そうなガキは大嫌いだ。
そしてヘルメスと言えばタケルも聞いたことがある。
「確かそれもギリシア神話の神様の名前・・・。」
マリアがゆっくりタケルの言葉をフォローした。
「ええ、そうですわ、タケルさん、
旅と商人の神と言われる者・・・
それがヘルメスです。」
「じゃ、・・・じゃぁこのガキもオリオン神群!?」
驚くタケルを他所に、
先頭に出てきたサルペドンは古代ギリシア語を駆使し会話を始める。
・・・後ろでマリアがやはり同時通訳を行うようだ。
「君が・・・
オリオン神群の一人、ヘルメスか?」
ヘルメスと言う名の少年は、
自分と同じ言語を話す人間の存在に気を良くしたようだ。
「あ? なんだ、
オレの言葉も通じるのか?
じゃあ、話が早い。
単に偵察だけで済ませるつもりだったけど、挨拶ぐらいはできそうだな?」
「一人か? 他の神々はいないのか?」
「あ~? とっとと帰ったよ、
ちょっと前にゼウス様から緊急の連絡が入ったからね~、
オレは様子見で残ったんだけど、
やっぱ、お前ら、オレ達の世界に足を踏み入るつもりなのか?
下等な野蛮人どもめらがっ!」
会話している当のサルペドンは大人しいままだが、ガキに野蛮人呼ばわりされたタケルは、思わず言いかえしたくなった。
「なんだ、このクソガキ・・・?
先に地上の人間たちを攻撃したのはてめぇらの仲間じゃねぇか・・・!」
タケルが発言したのを認識したのか、ヘルメスはタケルを睨む。
もちろん、タケルが何と言ったのか、彼には分らない。
すると・・・再びこのパターンであるが、
マリアが(何故か)誇らしげに通訳を始めた。
もう、サルペドンも止めるつもりもない。
もっとも・・・彼には彼の考えがあるようだが・・・。
さて、マリアがたどたどしくもほぼ正確に、タケルの言葉を翻訳すると、
その子供、ヘルメスは高い所に登り、
意識してなのだろうか、タケル達を見下しながら指を指す。
「・・・はっ!?
クソガキ・・・だと?
それはお前らだ!
見た目で人を判断するなよ?
これでもオレはもう、40年生きている・・・。
100年足らずで寿命を迎える貴様らと一緒に考えるな!」
うそぉ!
思わず仰天したのはタケルだけではない。
その場にいるほぼ全員が驚いたのだ。
・・・だが・・・話の核心はこれからである・・・。
そのヘルメスは荒ぶる感情を隠そうともしない。
「それにな・・・?
先に地上を攻撃したのはオレらだって?
おいおい、ふざけるなよっ!
てめぇら、今まで何しでかしてきたのか忘れたのかっ!?」
ヘルメスの発言が何を意味するのか誰もわからない。
タケルは勿論、マリアやサルペドンですら・・・。
「待ってくれ、ヘルメス、
地上の人間たちは、お前たちオリオン神群の存在すら知らない・・・。
いったい、何の事を言っているのだ?」
サルペドンの真剣な問いかけに、ヘルメスはバカにしたように首を左右に振る。
ホントにコイツは一挙手一動、癪に障る動きをするな・・・。
「・・・野蛮にして無知かよ、
仕方ねぇ、なら教えてやるよ・・・。
今に始まったことじゃねぇ・・・!
お前たち人間は数十年前から、
地面の下で好き勝手に破壊を繰り返しているだろっ!
あれで何百人ものオレ達の同胞が死んでいるんだ・・・!
まさか知らなかったで済まされると思うなよ!?」
次回、衝撃の事実が。