緒沢タケル編7 標の神ヘルメス 出発
さて、
地上はどうなっているであろうか?
大型移動要塞ガルーダは、それ一つでスサの殆どの機能を担っている。
いま、ウィグルの村娘ミィナを迎え入れたスサの一団は、
凄まじい迅速さで、地下世界のオリオン神群との戦いに向け、ありとあらゆる準備を進めていた。
「・・・まず、メンバーの編成だが、
中がどんな状況になっているか分からない今では、
大勢で進軍するのは好ましくない。
配給部隊も含めて40~50名が適当だと思う。
だが・・・いずれにしろ、無事で帰れるとは思わない方がいい・・・。」
しょっぱなからサルペドンの厳しい意見だ。
相変わらず無表情で、サングラスをかけたままだが、
彼が言うと、本当にこの先は困難そうに感じられる。
「おいおい、サルペドン、
いくらなんでもそれで戦いになるのか?
山賊討伐にでも行くわけじゃあるまいよ?」
ぶっきらぼうな酒田のオッサンは、
別にサルペドンを軽視してるわけでもなく、
マイペースでこんな口のきき方をする。
元々礼儀などに関してはそんなうるさくない組織だ。
タケルも大分慣れてきた。
「まぁ、でもオレらスサのテスラ兵器とか、
高速機動バイク・マルトがあれば、結構、有利なんじゃないのか?」
二つの意見を聞いた後、
サルペドンは落胆したかのように首を振った。
「二人とも・・・良くも悪くも、もう少し現状を認識したほうがいい。
我々が出会ったトモロスの部隊を見たな?
あいつ等の戦力はたかが知れている。
つき従っていた兵たちも、戦闘のプロじゃない。
神殿の警備兵みたいなものなんだ。
恐ろしいのはオリオン神群の神々であって、
戦力としては、敵の兵隊たちは度外視していい。
・・・逆にだな、
我々も自分達の武器や装備が役にたたんのだ。
迂闊にバズーカやミサイルを撃って地盤が崩れてきたら?
障害物の多い地形をマルトが走り抜けられるか?
そうなると徒歩での移動に限定される。
つまり我々も、
近代兵器を持っていく余裕などなくなるんだ・・・。」
「えっ!?
そうなると、どんだけの距離を移動するんだよ!?
もしかしてかなりの長期戦になるのか!?」
「一度、地下に潜ったら、
地上に再び出る事は叶わないと、思うべきだ。
食糧も中で調達することになる。
捕虜の話では、
道にさえ迷わなければ、食事できるだけの環境はあるというが、
どちらにしろ大部隊は難しいだろう。
それで食料面は、
クリシュナが今、ウィグルの村からかき集めてくれている。
こちらから持っていくものと、
現地で採集するものとで、効率よく進めよう。
後は装備品と、武器の準備・・・。
重火器は役に立つまい。
小型で携帯に便利な物にする・・・。
それと、地上の復興は騎士団の連中を狩りだすべきだ。
出発までにランスロットに話をつけておく。」
もう、ほとんどサルペドンは、
今後の展開をまるで予想していたかのようにサクサク進めている。
他の者たちに反論したり疑問の声があげられる筈もない。
・・・そして、
ほんの十数分で、地下世界に突入するメンバーが決められた・・・。
タケル、そしてサルペドンは勿論のこと、
マリア、酒田、デン、クリシュナ、グログロンガの各幹部と、
今日、仲間になったばかりのミィナが(ほぼ強引に)決まる。
アクセントが「ア」にくるアベ先生はお留守番だ。
そしてさらに翌日、
全ての準備を終えたスサ一団は、
ウィグルの村から西の外れにある・・・村人でさえも寄りつかない絶壁の岩場を行進し、
ついに地下世界へと繋がる洞窟を発見した。
それはまるで岩の裂け目のような、
縦に亀裂のある隙間をくぐり抜け、
しばらく、外の光もうっすらとしか届かないゴツゴツとした足場が続く。
なるほど、
これだけの隙間では、人間は通れてもマルトで滑空することはできない。
マシンガンすら運べないだろう。
剣やライフルぐらいなら運べるが、
食料や医療器具に関しても限定される。
果たして・・・この先、何が彼らを迎えるのか、
それは意外なほど早く、彼らの前に現れた・・・。
スサの一団は、
ハイビームライトで周りを照らしながら足を進めていく。
結構険しい道だが、
視界が良好なら、そんなに苦労すると言うほどでもない。
強いて言えばマリアが大変そうだが、
なんとかサルペドン達が彼女をフォローして、確実に未開の道を切り開いていた。
タケルは立ち止まって、
もう一人の女性を気に掛ける・・・。
「おい、ミィナ・・・だったよな?
お前、大丈夫か?」
そのミィナは、振り返っていたタケルの位置まで追いつくと、
ニヒッっと笑ってタケルの背中をバチンと叩く!
「うぁたっ!!」
「・・・なんてことねーよ、
あたしはハンターだって言ったろ?
密林だろうが砂漠だろうが岩場だろうが、この程度なんか屁でもねーっ!」
屁って・・・
お前・・・女だろ・・・っ!
そして彼女は、そのままタケルを置き去りに追い抜いて行った。
ちなみにミィナは、
険しい地を歩きづらい民族衣装を脱いでいる。
マリアさんと相談して、スサのスタイルに合わせたユニフォームに着替えたのだ。
ゆったり気味のトップスに白のショートパンツ姿は、もはや少数民族の娘には見えない。
さて、タケルの方は、
余計な心配をしたかと、
叩かれたところをさすりながら、再び振り返って、部隊の先頭へと歩を進める。
すぐに再びミィナと視線を合わす事になるが、
その時、また彼女の顔は微笑んだようにも見えた。
多分だが、彼女も気にかけてもらった事が嬉しいのかもしれない。
家族や友人たちを失って間もないミィナだが、
・・・きっと本来は陽気な女性なのだろう。
確かに、これから未知なる地域に戦いに励むにあたって、
どうしたって場の空気を明るくする存在は貴重だ。
マリアにしても、
女性一人では何かと心もとないだろうし・・・。
そんな時、
先頭のグログロンガの足が止まった・・・。
「全体、止まれ・・・!」
彼の一声で、場の空気が凍りつく・・・。
そのグログロンガの声は、辺りの岩場にエコーを反射させる・・・。
さっきまでは閉鎖された狭い空間を移動してきたのに?
ここから先の洞窟は拡がりを見せているのだろうか?
だが・・・グログロンガの声は、
洞窟の変化を知らせるものではなかったのである・・・。
「誰かいる・・・!」
メンバーもだいぶ固定化してきたので、今一度この人だぁれ?
とならないように・・・。
緒沢タケル・・・主人公、中国拳法と緒沢家秘伝剣術を使う。身長2メートルくらい。手足が長い。
額の真ん中に痣がある。髪の毛がだいぶ伸びてきたので、今や前髪に隠れて見えません。
カール・サルペドン・・・スサのナンバー2。
彼の祖父が緒沢家の過去の党首とでスサを作り上げたらしい。
タケル程でないが長身、胸板も厚い。黒髪に銀髪混じり。
過去の戦争か何かで顔面に惨たらしい傷があるため、普段はサングラスで隠している。
マリア・デュプレ・・・フランスの神秘学者の家系に生まれ育つ。そのためオカルト系の知識に明るく、
霊感の類もあるそうな。
スタイルはよく美人でスラっとしている。いわゆるモデル体型。
(欧米人の割には胸が・・・はっ、殺気!)
ラーマ・クリシュナ
インド人のおっさん、頭は頭頂部が光っている。色も浅黒い。
もう50代なので戦闘には向いてないが、若い頃はバリバリの武闘派とのこと。
今はスサの総務部長的ポジション。
名前からしてヒンドゥー教ヴィシュヌ派と見せかけて、実はシヴァ派。
酒田のおっさん
日本人、体育会系イメージ。30代。白鳥さんと組ませるとむさい事この上ない(タケル談)。
デン・テスラ
スラヴ系の天才科学者。垂れ目、色白。
いま、何かとアメリカを騒がしているテスラ・モーターズの生みの親の親戚筋。
グログロンガ
アメリカインディアン。肌も浅黒い。
戦闘部隊長でもあるが、今回のメンバーの中ではタケルの次に若い(この段階で24才)。
こんだけかな。
後、誰か忘れてるような・・・?
アベ先生はお留守番だし・・・。
ミィナ
「・・・てめぇ、いい度胸してんじゃねーかぁ~っ!!」
えっ? だって、今まで散々・・・っ! ぐはっ!