緒沢タケル編6 オリオン神群編序章 少女
「この子さっきの・・・!」
タケルは思わず声を上げていた。
一度、少女はタケルの声に反応したが、
そんなものはどうでもいいかのように、彼女はタケルを無視すると、
自らの鞭で捕まえた兵士に近寄り、自らのナマ足の露出などお構いなしに、怯えた兵士の顔や体にいきなり足蹴りの連打を食らわし始めた!!
「ヒィィィッ!!」
ドガッドガドガドガッ!!
ドガドガドガガガガドガドガガッ!!
あまりの出来事に、
(ドガドガドガガガガッ)
しばらくスサのメンバー一同呆気にとられていたが、(ドガドガドガドガドガガ続行中)
マリアが真っ先に我に返り、少女のカラダを抑えに回る。
「お、落ち着いて!?
あなた、この村の子ね?
私たちはこの村に縁のある者よ、
落ち着いて話を聞かせて・・・ね!?」
マリアが使ったのはこのウィグルの言語だろう。
少女はマリアのセリフに驚くと同時に、ようやく荒々しい足の動きを止める・・・。
無残な、
・・・抵抗出来なかった兵士の顔は鼻血でぐちゃぐちゃだ・・・。
前歯も折れてるくさい。
よほど遠慮のない蹴りを加えていたのだろう・・・。
もっとも・・・
少女の村がここまで蹂躙されてしまったのなら、その加害者に抑えようのない憎しみや怒りを向けて何ら不思議はない。
少女はしばらく、何かに耐えるような無言の表情を示した後・・・、
たった一人そこにいた同性のマリアの胸に顔をうずめた・・・。
少しずつ・・・
少女の背中が波打っていくのが見える・・・。
これまで必死に耐えていたのだろう、
しまいに彼女は激しいすすり声を上げた後、人目も憚らず大声をあげ、
マリアの優しい腕に抱きしめられた・・・。
「よく頑張ったわね・・・、
あなた一人で・・・
もう力を抜いていいのよ・・・。
ここにいる人たちと一緒なら安全よ・・・。」
「うっ、うっ・・・ううぅ、
み・・・みんな・・・
マ、ママも・・・パパも・・・みんなみんなが・・・ぁ・・・」
迂闊に声もかけられない空気であるが、
ゆっくりできる状況ではない。
サルペドンはガルーダにいるデン・テスラに無線を入れ、
グログロンガ率いるマルト部隊を逃げだした兵士の探索に向かわせる。
少女の事はマリアに任せ、
サルペドンは捕まえた兵士から情報を聞き出すべく、 手近な民家の部屋を借りて、
できるだけ多くの事を聞き出すつもりでいた。
「タケル、あと酒田とクリシュナは周りを警戒してくれ・・・。
この男と会話できるのは私だけだ、
いろいろ聞き出して見る。」
だが、仮にもスサのトップであるタケルはそれでは不満のようだ。
「おい、オレにも同席させてくれよ、
一応、オレはスサの総代なんだろ!?」
「・・・一々お前に翻訳しながら進めるのか?
気持ちは分かるがそんな時間はない・・・。
後で全部説明するから周りを見てくれないか?」
ここで言いあっても埒が明かないが、
タケルがさらに反論しようとするとき、
マリアに寄り添っていた少女が口を開いた。
「ねぇっ! あたしにも説明してよ!
何がどうなってるのっ!
どうして・・・どうしてあたしの村がこんな目に遭わなきゃならないの!
なんでみんな殺されなきゃならなかったのよっ!?」
彼女の言葉が分かるのはマリアしかいない。
一同、マリアの通訳を待って話を聞くが、少女の主張ももっともだ・・・。
だが、確かにこの場で全ての事情を説明するのは膨大な時間がかかる・・・。
それなら・・・。
タケルは自らの欲求や気持ちを抑え、
少女に直接話しかけてみる・・・。
「なぁ、あんた、英語か日本語は・・・。」
ちなみにこのタケルの問いかけは英語である。
「・・・ん?
英語?
英語なら・・・少し分かる・・・。
日本語?
おはよーござます、ありがっとござます・・・、
ぶっ殺っす・・・とか?」
お? なんとかイケるか。
・・・でも最後のは何だよ!?
タケル自身、英語ならなんとか会話できるので、この少女に一つ提案してみることにした。
「オーケィ、ならさ・・・英語で、
それで、オレも分からないことだらけでさ、
このサルペドンって男が、この兵士から聞き出すって言うから・・・、
その間、えっと、
周り・・・見ろよ・・・。
可哀そうな村の人たち・・・、埋葬してあげないか?
オレも手伝うからさ・・・。」
少女は少しタケルの目を見つめた後、タケルの主張に納得したようだ。
彼女にしても、
これ以上、村人たちの死体を見続けたくはない・・・。
すぐに「うん、うん!」と首を縦に振って同意した。
「サルペドン、・・・というわけでいいか?
オレは村人の埋葬に回るよ・・・。
その代り、ちゃんとこいつから必要な事は聞き出せよ。」
目から鱗が落ちるとでも言えばいいのか、
確かに一軍の指導者という立場なら、タケルの感傷は大甘かもしれない。
しかし、逆にこれが民衆の指導者という立場なら、
タケルの発案は正当なもので、
周りの人々の支持を得るには相応しい態度だろう。
これまで、スサを軍事団体として見ていたサルペドンには、そこまで気を回す事は出来なかったとも言える。
・・・勿論、サルペドン・・・
彼にとってはそれだけでなかったのかもしれないが・・・。
どちらにせよ、ここで言い争いを続けるよりかは遥かに建設的な意見だ。
すぐにサルペドンは同意をし、
引連れていた部下の数名をタケルにあてがわせ、 少女とタケル達は村人たちの埋葬に向かう。
マリアは・・・
この場に残り、サルペドンの尋問に立ちあうとようだ。
次回、
タケルとこの子の共同作業。
タケルは何を思う。
身内を全て殺された少女を前に。
自分の姿と重ね合わせるか、それとも。
「そう言えば、あの時この子に捕まってたら、オレ、あのストンピングの嵐を食らってたってわけか?」