緒沢タケル編6 オリオン神群編序章 その名はトモロス
ちょい長めです。
それは他の誰でもない、
タケルをはじめとするスサのメンバーのユニフォームに似ているのだ。
良く見れば、色や素材・ディティールは勿論、違う。
スサのシャツは半袖だし、
下半身は特に統一されていないが、
タケルに関しては、ブーツインのパンツの上に、彼らと似てるスカートを合わせているのだ。
これは変な趣味ではなく、
単にスサの組織が作られたときに、メンバーのユニフォームとして、
古代ギリシア人のイメージの服装を適用されただけなのだが、
靴に関しても、革サンダルか革のブーツが推奨されている。
酒田のおっさんが小さな声で叫ぶ。
「おいおい、何だよ、あいつら!?
スサの服装にそっくりじゃ・・・ていうか、剣はともかく弓ってなんだよ!?」
どうみても時代遅れの装備なのだ。
しかし、兵士たちの体つきを見るに、普通に訓練を積み上げた兵士の体格に見えるのは間違いない。
タケルにも疑問は当然、沸いている。
「なぁ、あいつらがこの村をやったってわけでもないのか?
手にしてる武器があわない・・・
っていうか、あいつらなら、
プロの兵士としても、村人の銃やライフルの前には無傷でいられる筈もねーぜ?」
だが、彼らは村のあちこちに散乱している死体を見ても、
驚く風でもうろたえるそぶりすら見せない。
少なくとも・・・
この村がどうしてこんな惨劇を繰り広げているのか、理解していることだけは間違いなさそうだ。
想定すらしていなかったこの驚きの連続に、タケルは次に何をどうしていいか分からない。
スサの組織のリーダーとしての自覚が出てきたとはいえ、
いまだ経験不足の若造には違いないのだ。
だが、この時マリアだけが気づいていた・・・。
平静を装っている風に見えるが、
いつも冷静なはずのサルペドンまでも珍しく動揺しているのだ。
「サルペドン?」
マリアの問いかけに、
自らの動揺を意識してかしないのか、
サルペドンは背後の仲間たちに話しかける・・・。
「奴らは・・・友好的な一団には見えないな・・・。」
「サルペドン様、何かご存知で!?」
「いや、推測でしかないが・・・
まずは対話してみよう、
あの服装から見ると、私の知ってる言語で奴らと会話できると思う。
全員、警戒したまま私の後ろについてきてくれ・・・。」
全員が驚くなか、
サルペドンはただ一人、
風変わりな集団の前にゆっくりと歩き始めた・・・。
ほどなく、当然、相手方も、
自分たちと似たような恰好のサルペドンの姿に、戸惑いながらも気づいたのである・・・。
「待て!
・・・なんだ、貴様らは!?」
威圧的なマントのハゲ頭男の問いにサルペドンは足を止める・・・。
タケルやマリアも、
そのサルペドンのすぐ後ろに追いついた。
タケルの右手は、すぐに天叢雲剣に届くよう警戒を怠りはしない・・・。
サルペドンがすぐに答えないでいると、
そのハゲ頭はさらに問いかけを続けた。
「我らの他にここに仲間がいることは聞いていない・・・。
誰かの使いか?
それとも・・・私の言葉が通じないか・・・!?」
最後の言葉には凄味があったが、
タケル達にその言語は理解できない。
だが・・・予測通り、サルペドンだけはハゲ頭の問いに答え返すことができたのだ。
「私の名はカール・サルペドン、
後ろにいる一団・・・スサの副官だ。
こちらも、あなたの名を聞かせて欲しいのだが・・・?」
言葉が通じてる!?
まず驚いたのはタケルだ、
すぐにタケルは隣のマリアの顔を覗き込む。
「会話してる!
マリアさん、あれ何語?」
マリアはすぐに答えることをためらっていたようだが・・・、
それは単純に、言語の分析に時間をかけていただけかもしれない・・・。
いくらマリアさんでも、
そんな簡単に外国語を翻訳できるわけでもないか・・・。
少なくとも、タケルの目にはそう映った。
案の定、マリアの回答ははっきりとしたものではない。
「ギリシア語・・・でも、正式な公用語ではなく・・・、
どこかの方言か・・・それとも古代言語か・・・、
そこまでは私にも・・・。」
ギリシア語か、それであんな格好・・・
いや! その前にいつの時代の格好なんだ!?
次に生まれた疑問を聞くよりも、
今は目の前の成り行きから目を離すわけにもいかない。
サルペドンの問い返しに、マントのハゲ頭はさらに尊大な態度を取る。
「はぁ?
スサ!? なんだ、それは!?
だが、言葉が通じるところを見ると、我らの同胞には違いないのか?
なら命を奪うのは勘弁してやろう、
・・・だが、この私に対し、その態度は礼儀知らずとは考えないのか!?
いや、私が誰だかわからないのか、
それなら教えてやろう・・・。
私はトモロス!
栄光あるオリオンの神々の座に列なる一人!
お前たち人間の支配者たる存在だ。
先遣隊が潰したこの地域一帯を管理しにやってきたのだよ・・・。
それで・・・貴様はいかなる理由でここにいる?
私の問いに即、答えるがよい・・・さもなくば。」
その脅迫とも思える言い回しに、
さらにハゲ頭の後ろに控えていた兵士が、その手の槍をサルペドンに向ける。
「貴様、トモロス様に跪かんか!」
「早くトモロス様のご質問に答えよ!」
このトモロスとやらの言葉が理解できたなら、
「頭おかしーんじゃねーの?」とでも思うのだろうが、
まずは彼らの示威行動に、タケル達も当然反応する。
タケルは天叢雲剣を・・・、
酒田のおっさんやクリシュナは、それぞれ得意の武器に手をかける。
そこへ・・・。
行動を起こしたのはマリア!
さすがにサルペドンも、
この質問にどう答えていいか、対応を即断できないでいると、
さらに彼の計算違いなことに、今の会話をマリアがタケルに訳してしまったのだ。
マリアは聞き取りだけはできたらしい・・・。
そこでタケルは、大声をあげながらサルペドンより前に踊り出た。
相手に自分の意志が伝わらないことはどうでもいい・・・。
「この村の人たちを殺したのはてめぇの仲間かぁ!!」
身長2メートルのタケルが前に出てきて、兵士たちは当然ビビる!
何しろタケルの体つきを見れば、
いかに強靭な肉体の持ち主か、一目瞭然だからだ。
しかし、ハゲ頭は余裕のまま・・・。
タケルの腕に巻かれた包帯を見て油断しているのだろうか・・・。
「なんだ、この野蛮人は!?
どう見てもやはり・・・我らの同胞には見えんぞ・・・。」
サルペドンはしまったと思いつつも、自らの腕でタケルを制す。
そして同時に、何とかこのトモロスとかいう人物と会話を継続させたかった。
「こ・・・これは失礼を、トモロス様!
わ、我々は古くからこの村に住んでた者の子孫です・・・。
後ろにおります者も、
たまたま、所用で別の村に赴いていた者たちですが、
先ほど戻ってきましたらこのような・・・。
何故に、このような恐ろしいことを行われたのか、教えいただけないでしょうか?」
演技とは言え、サルペドンが頭を低くしているのは初めて見た。
そこでタケルが動きを停止すると、
ハゲ頭は調子に乗ってとんでもない事を言い出したのだ。
「ふん?
こんな村に昔から・・・?
そうか、そういうこともあるか・・・
確かに『ゲート』が近いからこそ、
我らも出てきたのだしな・・・。
それで我らの服装に近いものを使っておるのか、
・・・しかし、運がいいのう、
我らの血筋が残っておるのが幸いしたか、
生き残れたとはな・・・。
さもなくば、そこら辺に転がってる汚らしい地上人と、同じ運命だったのに・・・。
先祖に感謝することだ。
まぁ、これも何かの縁だろう、
今から、我らが地上を掃討するのに協力するのだ、
そうすればお前たちの命は勿論、我らの恵みを授けてやろう、どうだ?」
次回、決着・・・え? 早すぎる?