緒沢タケル編6 オリオン神群編序章 タケルの成長
今回のお話は、
緒沢邸が吹っ飛ばされた後の、
タケルが入院していた時のお話とリンクしています。
これまで、のほほんと生きてきた自分の周りに起きたこと・・・。
日浦義純の出現、
姉・美香から渡されたもの・・・、
スサの仲間との出会い、
度重なる殺し合い・・・
大勢の人間の死・・・。
「サルペドン・・・。」
「ん?」
「スサは・・・何もしないってのは、有りか?」
「あ!? 何もしない、だと?」
「・・・だって、スサは・・・
人間の希望を信じて騎士団に立ち向かったんだろ?
オレだって、スサに少しいて、
この組織の力の及ぶ範囲と、その限界は少し見えた気がするぜ・・・、
これだけ世界がボロボロになって、
オレ達が、正義感剥き出しにやけくそになったって、山火事をバケツの水で消すようなもんだ。
騎士団だって元々はそう思ってたんだろ?
アイツ等の組織力を以てしても、世界を変えることができないから、それこそやけくそで一回リセットしようとしたんだろ?」
タケルは自分の頭の中に浮かべ上げた考えを、必死になって、口から出せる言葉にしてみせた。
「だけど、スサは人間の可能性を信じた・・・。
なら、これだけボロボロになったって、きっと人間は・・・
世界は立ち直る。
騎士団侵攻後の俺の近所も、みんな一生懸命、元の生活に戻ろうと必死で頑張ってたよ、
ならさ、
別にスサなんていう組織にこだわらずに、
自分たちの属する社会に戻って、その生活を再び築きあげること・・・、
そっちの方が大事じゃないのか?
騎士団も一緒だよ、
オレ達にあいつらを裁く権利も資格もない。
だからといって、アイツ等を・・・
どっかそれなりの裁判にひっ立てるのも、
オレは釈然としない・・・。
それはアイツ等自身に決めさせようってんじゃダメかな?
まずはアイツ等も自分たちが壊した世界を治させる!
社会の裁きを受けさせるのはそれから後だ!!」
タケルは自分で喋った後、その場の静けさに急に自信を失った・・・。
何しろサルペドンは、サングラスで表情を隠したまま、無言でタケルに向き合っているのだ。
そのプレッシャーはいつまで経っても慣れるものではない。
・・・またバカにされたら・・・。
しかし、サルペドンは静かに口を開くだけだった。
「タケル・・・今の意見は・・・。」
「あ、ああ?」
「自分が美香だったら、どう答えるか・・・、
とも考えていた上での意見じゃないか?」
見抜かれてる!!
恐ろしいヤツだ・・・!
「え、ええ、ああ、まぁ・・・でも・・・ダメ?」
サルペドンはため息をついたが、その口元は緩んでる。
タケルの口調や論理展開は、姉・美香と比べるものでもないが、タケルの最後の決意の表情に、かつての美香の面影を見たのである。
本当に美香は、弟に全てを受け渡したのだな・・・。
珍しくサルペドンは、自分自身が感傷に浸っていることに気づいた。
今はそんな暇すらないというのに・・・。
「・・・なるほど、お前の意見は尊重しておく。
マリアや、スサの各地の長老たちにも私から話しておくよ。
それでまとまるようなら、改めてアーサーたちに申し入れるとしよう。」
このサルペドンの対応もタケルには意外だった。
また、子供っぽいと一笑に付されるかもと思っていただけに・・・。
だが、難題はさらにあるのだ。
「それからな、タケル。」
「あ? まだ・・・なにか?」
「来週あたり、お前も遠出できるようになる筈だ、
スサ総代の人間として・・・。」
「え?」
「彼女の・・・戦死したダイアナの故郷に行く・・・。
長年、スサに尽くしてくれた彼女の死を、家族たちに知らせに行かねばならない・・・。
他にも多くの戦士たちが亡くなったが、末端の者たちには私とマリアで、今まで弔問を済ませてきた。
だが、ダイアナは幹部だしな、
お前が先頭に立って挨拶しに行った方がよかろう。」
そうだ・・・
兵士でもない彼女の行動が、ヘラクレス部隊戦では転機となって、勝利にこぎつけることができたのだ。
自分が総代なら行かねばならないだろう・・・。
それにサルペドン、・・・
涼しい顔して、今まで世界中駆けずり回ってたのか・・・?
よおく考えたら、自分がベッドに寝てる間、騎士団との後始末は全部、こいつが仕切ってきたんだよな・・・。
どれほどの重労働やってきたんだ?
「そうか・・・そうだよな、
わかった・・・行くよ・・・。」
「そうだ、それでこそスサの総代だ。
詳しくはまたスケジュールを調整して知らせてやる、
それまではアベ先生を困らせるなよ。」
「ああ、わかったよ、
・・・ところでサルペドン。」
「なんだ?」
「アンタ、ちゃんと寝てるのか?
顔色もあんまり良くなさそうだぞ?」
一度サルペドンは、意表を突かれたような顔をするも、笑みを浮かべながら憎まれ口だけ叩いて病室を出て行った。
「お前に心配されるようなヤワな私ではない。
それに調子に乗るなよ、タケル、
本来、私がしている仕事はお前がすべきことなんだ!
前回の戦いの功労に免じて、私が動いていることを忘れるなよ!」
へ、せっかく気遣ってやったのによ!
タケルは最後に舌を出してやった。
ここらへんの子供っぽさはそう簡単には抜けないだろう。
バタンと扉が閉じられると、
すぐ入れ違いに、
酒田昇平のおっさんとクリシュナの「W」おっさんが入ってきた。
・・・べつに中年だからといって悪く言うつもりはないが・・・。
(ただ、酒田のおっさんはまだ30代・・・。)
次回、騎士団戦最後の瞬間の謎に言及が。
その後、舞台は中央アジアの少数民族の村へ。
・・・そう、あの村です。
一応、これからはサブキャラの皆さんにも少しづつ出番があります。