緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 懸念
残された二人は、もはや会話の内容に遠慮することもない。
マリアはかつての美香の言葉を思い出す。
「本当に美香様は全てを把握されていましたね、
白鳥さんのことも『殻から抜け出ることができたなら』と言ってましたし・・・。」
「あの男が、自分で自分を外部の人間だと思い込んでるうちは、
ヤツに与えた魔剣は力を振るえないだろう・・・。
そういう意味ではタケルの方が、
一歩も二歩も進んでいるな。」
・・・クスッ
サルペドンのセリフが意外だったのか、
マリアの口から笑みが零れる。
「サルペドン、
でもタケルさんの前では、
そんな事、絶対に言いませんよね?」
「当たり前だ。
・・・それより、今頃になって言うのも何だが・・・、
タケルのあの装備・・・本当に問題はないのか?」
マリアはまた真剣な表情に戻る・・・。
「あの神具は、それぞれ全て属性が異なっています。
紋章は『無』、天叢雲剣は『雷』、
そしてルドラの鎧は『闇』・・・、
紋章はともかく、それぞれの属性を身に着け、
その霊力を同時に浴びて、何事も起きないという方が奇跡に近いことです。
・・・さっき、サルペドンが言おうとしたこと・・・、
何と無く私もわかりますが・・・、
私たちが口にすべきことではありません。
私もあなたも、
正確にはスサの人間ではないのですから・・・。」
結局サルペドンは、
己の内面だけで考えることになる。
彼の憂慮は、美香を含め代々のスサ総代の誰とも相談できたことはない。
ただひとり、スサ外部のマリアにのみ相談したことがあるだけだ。
だが、勿論サルペドンもマリアも明確に答えを出せたわけではない。
・・・この謎・・・果たして上記の属性を持つそれぞれの神具が、
果たしてたった一人の神、
スサノヲ・・・
またはポセイドンに本当に関係するものなのだろうか。
スサノヲについてはサルペドンは元々門外漢だが、
ポセイドンの事は誰よりも自分がよく知っている。
そのポセイドンのイメージに、「雷」や「闇」のイメージなど有り得ない筈だ。
ではその『神』とは・・・
スサが崇める神とはいったい何者であるのだろうか・・・?
その答えは・・・
はるか未来で明らかになるのかもしれない・・・。
そして・・・古城アヴァロン・・・。
「湖の騎士」ランスロットは松葉杖をつきながら、
城の小会議室に弟のガラハッドとともに現れた。
すでにその場には、
南欧支部支部長ケイが待ち構えている。
「サー・ケイ、お待たせいたしました・・・。」
「いや、気にすることはない、
・・・それより、傷の方はどうだ?」
「後方で指揮を執る分には全く問題ありませんが、
戦場では、兵たちの足を引っ張ることになりそうです・・・。」
ケイはため息をつきながら、
ランスロットが不器用に椅子に座るのを待って、当面の問題を説明する。
「・・・それで、モードレイユの件だが・・・。」
「はい・・・。」
南欧支部支部長ケイは沈痛な表情で言葉を絞り出す。
「みんな、ショックを受けていたよ・・・。」
「そうでしょうね・・・、
ケイ、あなたも・・・。」
「ペンドラゴン家に列なる者として、責任を痛感する・・・。」
「軍に影響は・・・?」
「やむを得ん、
各支部長の采配に任せる他はない、
末端の者は事件そのものも知らぬ者もでてくるだろう。
今は非常事態だ、
こんな事で部隊を動揺させている場合ではない、
心に迷いを持たせたまま戦わせるわけにはいかん!」
「・・・どちらにしろ、戦いに早急な道筋をつけなければならないわけですね・・・。」
ケイは一息ついてから、
卓上にノートパソコンを広げ、
騎士団部隊の展開図を起動させる。
「・・・それで、ランスロット、
君が戦線を離脱してる間に、
作戦を練らしてもらったんだが、
スサは、他の如何なる問題よりも優先して叩くべきだと思う・・・。
結果的に騎士団の4つの部隊を退けられてしまったんだ。
この上、新総代・緒沢タケルが神剣の力を呼び覚ましたなどと、
放っておくわけにはいかん。
・・・それで、ライラックには申し訳ないが、
やはりヤツを送るのは適任とは思えん・・・、
そこで獅子の騎士イヴァンを派遣させようと思うのだが・・・、
ランスロット、緒沢タケルの実力と比べてどうだ?」
ランスロットは、しばし画面の状態を食い入るように見つめていたが、
すぐに腰を落ち着けてケイに向き合った。
「いえ、さすがです。
彼を置いて他に適任の者はいないでしょう、
・・・それでイヴァンの実力と比べてですが、
緒沢タケルがケガを回復させる前なら、こちらのものです。
それと・・・、
例え負傷中の身と言えど、
緒沢タケルがあの神剣を使用しないことが前提です。
あの天叢雲剣と呼ばれる剣が未知の力を発揮しだしたら、
どう戦局が変わるか予想だにつきません。」
そこでケイは、
「フム」と頷いてキーボードを操作した。
すると画面は切り替わり、
新しく開かれたウィンドウには、
椅子に座った一人の男と、その足元に控える一匹のライオンを映しだしていた・・・。
「聞こえていたかね? イヴァン・・・。」
イヴァンと呼ばれた男は、
白い手を振り、立ち上がる。
『・・・待っていましたよ、出番を。』
傍のライオンも、
まるでその男の動きに呼応するかのようだ、
散発的な唸り声を上げ始める。
「イヴァン、君のことだ、
油断するようなことはないだろう、
全力を持ってスサを叩き潰してくれ!!」
マリアが重要なことをポロっと喋ってますが、
これはスサのメンバーには秘密です。
そしてすいません。
次回から最終決戦までダイジェスト版になります。
その代わりバトルシーンはノンストップです。
かつて登場した騎士団残りのメンバー全てがタケルに襲い掛かります。