緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 モードレイユの真実
毎度、要所要所でお断りさせていただいてますが、
緒沢タケル編と天使シリス編はパラレルワールドです。
人間関係にも多少の変化があります。
まぁある程度は・・・同じような運命を辿る人も・・・。
モードレイユの本名・・・日本人でカトーと言えば・・・。
「ああ、加藤でいいんかな?
そりゃ日本の名字だ、
・・・ふーん・・・。」
他にも加東とか可藤とかあるかもしれないが、気にする程のものでもあるまい。
「あいつは騎士団のトップになることを夢見ていたようだが、
まず、それは不可能だ・・・。」
「なんで・・・?」
「あいつは私生児なんだ・・・。」
「私生児?」
「彼の人格には関係ないからと、騎士団内ではタブーの事実だったが、
モードレイユは、
イギリスにやってきた日本人旅行者との、一夜の過ちからできた子だそうだ。
元は母親も、日本で父親の手を借りずに育てるつもりだったらしいが・・・。」
「そいつがどうして騎士団に?」
「きっかけは母親の病気だった。」
「病気? だった?
・・・そういや、あの時も『日本人だったから』って過去形で・・・。」
ランスロットは静かに頷く・・・。
「発見が早く、それなりに金をかければ治った病気だったのかもしれない。
少なくとも早死にする事はなかったんだろう。
母親は父親の事を隠していたらしい。
自分が長くないと自覚した事で、父親がイギリスにいるという真実を息子に告げたそうだ。
母親にしてみれば、モードレイユを天涯孤独にしたくないだけだったんだろうが、
モードレイユが望んだのは母親の命だ。
それで母親を助けたい一心で、あいつは父親を捜しまわったんだそうだ。
その内、父親が誰だか特定できて、
父親も認知したんだが、全てが遅すぎた・・・。
もう、モードレイユの母親の命を救うには全てが遅すぎた・・・。」
「・・・・・・。」
「母親が亡くなっても、あいつはくさらなかった・・・。
元々寡黙な奴だと思われていたしな・・・。
さっきのような饒舌を見たのは初めてだ・・・。
あれがあいつの本当の姿なのかもな?
その後、ペンドラゴン家の援助と、
彼の努力や才覚が認められて、騎士団に入ることができたんだが・・・
彼の立場では、
騎士団幹部の一角が最高位だろう。
これ以上は、
格式ばった騎士団内で地位を高めることはできない・・・。」
タケルは遠い目をしていた。
「それでか・・・。」
ランスロットはその言葉の意味をしばし理解できない。
「何がだ?」
「いや・・・
オレは姉貴の命を奪ったヤツを許すつもりはねーけどさ・・・、
あいつ・・・こんな場所で『母さん』とか、
人の命にやたらにこだわったり・・・
まぁそれ自体身勝手だとは思ったけど・・・、
なんとなく、今の話、聞いたらあのモードレイユって奴・・・、
どこにでもいるごく普通の男だったのに、
どっかで道を間違えたんじゃないかって・・・。」
「・・・そうだな、
それに・・・あいつは本当は騎士団を恨んでいたのかもな・・・。」
勿論、当時騎士団は何も関係がない。
単に個人の色恋沙汰だ。
だがタケルに言われてランスロットも思いを馳せる。
確か父親が認知するしないで、かなりもめていたそうだ。
当然その間、母親に満足な治療は与えられていない。
モードレイユがその恨みを父親に・・・、
ペンドラゴン家に・・・
果ては騎士団に向けていたとしても考えられない話でもない。
それが・・・今度のことに繋がっていたのかも・・・。
そしてランスロットは、
その認識とともに、もう一つ驚くことがあった。
初めて会った・・・それも敵の・・・
自分の最愛の家族を殺した相手をそこまで見抜くなんて・・・。
「タケル君・・・。」
「あ?」
「君は素晴らしい男だ・・・。」
「な、なぁんだよ、いきなり!」
思わず突っ込みでひっぱたいてやりたいぐらいだが、
もう指一本、動かす体力はない。
「日浦義純が君を高く評価していた・・・。
みんな彼の考えを一蹴したんだが・・・
あいつの判断は、間違ってなかったよ・・・。」
見当違いも甚だしい、と言いたくなる。
ランスロットには悪いが、
タケルにしてみれば、高い洞察力でも正確な判断力の結果でもない。
少なくとも自分ではわかっている。
死んだモードレイユの家庭環境に、
自分の生い立ちが重なっただけに過ぎないのだ。
オレにとっての「美香姉ぇ」が・・・
あいつにとっての「母さん」・・・
自分がシスコンと呼ばれているのと同様、
きっと、モードレイユには母親が全てだったのだろう。
それを理不尽に奪われた。
誰にだ?
短絡的に考えれば父親が悪いと言えるのかもしれない。
だが母親だって、もっと早くに子供が生まれたことくらい、
相手に知らせておけば良かったのではないか?
いや、どちらにしたところで、
子供に母親を責めることなんか出来るわけがない。
では運命を呪えばいいのか?
なら世界を呪えばいいのか?
それとも神を呪えばいいのか?
或いは・・・それら全てを呪ったんだよな!?
それが今回の引き金になったのだ。
ランスロットにしたところで、
タケルから見れば似たようなものだ。
なんでこんなことで互いに殺し合わなければならないんだ?
みんな愛する何かを持っていただけなのに。
考えたいこと・・・考えるべきことは山のようにある・・・。
もっとも、
もう、難しい思考ができるほど頭は回らない・・・。
そこへ、二人の耳は辺りに響いてくる複数のエンジン音に反応した。
方角は二つだ。
ああ、すぐに見えてきた。
両軍のエアバイクと、
ついでに片方の県道からは一台のライトバンが。
あー・・・ありゃスサの買い出し用の車だ・・・。
片方の山からは大型の輸送ヘリが見える。
向こうは騎士団の物らしい。
両軍とも機体を止めると、急いでランスロットとタケルをそれぞれ救出しにかかる。
一同、この現場を見て何がどうなったか、
すぐに理解できた者は皆無である。
だが、すべきことはわかっているので、
速やかに両軍ともに作業に取り掛かった。
タケルはタンカに・・・、
ランスロットは弟のガラハッドに肩を貸される。
別に何がどうなるわけでもないが、
ランスロットとタケルは最後に視線を交わした。
・・・ランスロットが、タケルにまだ言いたいことがあるようだ・・・。
「タケル君・・・。」
「んあ?」
「さっきも言ったが、
一度作戦を立て直せば、再び我々は君たちに攻撃をかける・・・。
こんなことになって、騎士団にも混乱があるかもしれない、
だが、もう我々は止まることができない・・・。
既に我々の罪は、どんなことをしてでも拭うことが出来ないからだ・・・!
反論は必要ない・・・。
世界を救いたいなら、全力で我らを打ちのめせ・・・!
きっと・・・
勝った者が・・・正しい・・・。」
「・・・・・・。」
「それと・・・美香さんのことは済まなかった・・・。
騎士団を代表して謝罪する・・・。」
タケルは口を開く必要を感じなかった。
ランスロットも、タケルに聞かせると言うよりも、
自分の気持ちや決意のために放ったセリフかもしれない。
ただ、反論しない代わりにタケルが心に思い描いたのは、
美香姉ぇが自分に託した、たった一つの言葉・・・
彼らを止めて・・・!
今、その言葉の重みをようやく噛みしめる事ができたのだが、
果たして本当にそんな事が自分にできるのだろうか?
救護を行っている者も、
しばらく動きを止めていたが、
もう二人に会話の必要がないと判断すると、
大急ぎでタケルを車に収納した。
それを横目で確認したランスロットは、硬い表情のまま弟に指示を出す。
「行くぞ、ガラハッド・・・!」
こうして、騎士団対スサの、前半戦最大の戦いが終結した・・・。
そいてさらに・・・
両軍の熱い戦いは混迷を増すのである・・・!
次回、今回のインターバルというか休息のお話です。
その後はダイジェスト版で申し訳ありませんが、
過去に活躍した騎士団幹部たちとタケルの激闘シーンとなります。