緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 絶体絶命
ランスロットの眼光が鋭くなる・・・。
来るか!
だが、待ち構えることはねぇ、
こっちからも飛び出してやる!
二人の間に一瞬の静止した時間・・・。
だがどちらが先にという事もなく二人同時に突進っ!
互いにその剣を振りかぶる!!
タケルが瞬時に考えた作戦は、
打ち合った瞬間、ヤツの剣を弾き飛ばす!!
スピードで不利ならパワーで一気に勝負をつけるだけだ!!
そして今にもその二振りの剣がぶつかる瞬間・・・!
タケルの天叢雲剣が空を切った・・・!
そんな!? 今確かに・・・!!
剣や腕に予想した手応えがない、
それどころかタケルの脇腹に熱い感覚!!
まさかっ!?
何が起こった!?
タケルの視界に、ランスロットの姿はすでにない・・・。
そんな事より、
いきなり膝がガクガク震え始め、
その両腕からは力がどんどん喪失してゆく・・・。
そして、痛みなど最初は感じなかったのに、
脇腹からは、どんどん新たな激痛と暖かい液体が・・・!!
斬られた・・・っ!?
しかも鎧から露出しているわずかな隙間に!?
「あ・・・ああ・・・あ!?」
辛うじて振り返ったタケルに、
すでに力は残っていなかった・・・。
ここまで立っていられた事自体、
本来、在り得ないほどのダメージを負っていたのである。
脇腹を切り裂かれたという自覚が、
タケルの精神力をも奪い、
カラダから、一気に全ての力を失わせてしまったのだ・・・!
いつの間にか、その視界の中に、
ランスロットをようやく収めることができたが、
それと同時に、タケルは変な態勢で県道のアスファルトの上に崩れ落ちることとなる。
ランスロットは、
さも当然の結果だとでも言うようにタケルを見下ろしていた・・・。
「カラダのダメージがなかったら・・・
もっと早く動けたかい・・・?」
言い返すことができない・・・。
それほどまでに鋭く、素早いランスロットの攻撃だった・・・。
おそらく、あの打ち合う瞬間、
圧倒的なスピードで剣を切り返したのだろう、
なんという動きか・・・!
タケルにできるのは、
ランスロットを恨めしそうに睨むだけだ・・・!
この後どうすれば・・・。
ランスロットはタケルに明確な反応がないと見るや、
次の行動に出るようだ・・・。
「さて、タケル君、
君は今や、スサのトップだろ?
君が敗北宣言をしてくれるのなら、
互いにこれ以上、血を見る必要もなくなるんだがね・・・。
それとも、スサはサルペドンが仕切っているのか?
どちらがいいのかな?
君を人質に交渉して、この戦いを終えるのと、
このまま戦闘を続行して、スサの人間全員を抹殺するのと・・・。」
穏やかな口ぶりだが、
その言葉は冷徹この上もない。
もはやタケルには全ての選択肢が残っていなかった・・・。
腕を振り上げることぐらいならできるだろう・・・。
だが、ランスロットの位置まで届かないし、
ましてや当てることなど、
彼の動きの素早さから見て不可能に違いない。
・・・せめて銃でも持っていれば・・・。
「・・・私は気の長い方じゃない・・・。」
答えることの出来ないタケル相手に、
ランスロットは剣を構える。
そんなこと言ったって・・・!
敗北宣言なんか出せるわけもない!
今も仲間たちは命を賭けて戦ってるのだ!
それに自分たちの戦う手段を失ってしまったら、世界はもう・・・。
だが、タケルの都合などお構いなしにランスロットは最後の決断を迫る。
「・・・状況をもう少しわかりやすく言ってあげよう、
私は、敵味方どちらも被害は最小限にしたいんだ。
これ以上、待てない。
降伏できないなら、この剣を君に振り下ろすだけだ・・・。
だが君の鎧で、致命傷を与える箇所がむき出しになっているのは・・・、
顔面だけか・・・。」
続いてランスロットは、
とんでも無い事を言い始めた。
「できれば苦しまずに命を絶ってやりたいが、
さすがに顔面を貫くのは避けたいな・・・。
自分で鎧を外すがいい・・・。
ほんの一瞬で楽にしてやる。
だがこのままだと、
君が殺してくれと叫ぶまで、露出している部分に剣を突き刺すことになる・・・。」
ダメだ・・・、
こ、こいつ本気だ・・・。
どうすればいい?
カラダに力が入らない!
助かる気がまるでしねぇ・・・!
お・・・オレ、ここで?
こんなところで?
美香姉ぇの意思を継ぐこともできずに!?
ランスロットの足が前に出る。
慎重だ・・・。
そこには処刑執行人の鋭い眼光・・・。
「あ・・・あっ ・・・・」
タケルの手には、
申し訳程度に剣を握られたままだが、
もう握力自体残っていない。
左手は脇腹からドクドク流れる血を押さえつけるだけ・・・。
手を離せば、はらわたが飛び出てくるかもしれない・・・!
ランスロットの殺気が最大限に高まる!
どうする?
みっともなく暴れるだけ暴れて奴の剣から逃れるしかない!?
だが、あんな目にも止まらぬスピードの持ち主にそんな抵抗など無意味では!?
そして、
ついに彼の剣が一気に振り下ろさ・・・
ズギューンッ・・・!!
え?
な・・・何が起きた!?
今のは・・・銃声?
オ、オレ撃たれたのか!?
だが自分のカラダに新たな痛みも衝撃もない・・・。
目の前のランスロットも動いていない。
い、いや、驚いているのはオレだけじゃねぇ・・・!
ランスロットでさえ何が起きたかわからず・・・
「・・・ぐっ!?」
その呻き声を発したのはランスロットだ!
急に態勢を崩し、左手で自らの右肩を抑える!
撃たれたのはランスロットの方か!
ってことはスサの仲間かよ!?
誰か助けに来てくれたのか!!
急に希望の出たタケルは、
ランスロットの背後に目を見やった。
誰かがこちらに歩いて来る・・・。
エンジン音を聞かれたくないために、
エアバイクを使わなかったのだろうか?
いったい、誰・・・。
いや、あれは!?
スサの人間じゃない・・・
黒づくめのつなぎのスーツ・・・。
黒髪の・・・日本人? 欧米人?
ランスロットは痛みに堪えながら背後を振り返った・・・。
そして彼は、
まるで信じられないものを見たかのように声を震わせたのだ・・・!
ここで彼です。