緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 湖の騎士ランスロット
つい先ほど、
スサのコントロールルームで見た映像の男がそこにいた!
ゆったりしたシルクのシャツに、革のベストという軽装の男は、ゆっくりと機体から離れタケルに対峙した・・・!
「驚いたな・・・、
あんな上空から撃ち落とされても無事とはね・・・、
おかげで直接君と戦えるようだ・・・。」
「て、てめぇ・・・、
オレを撃ったのはてめぇか・・・!」
ランスロットは静かに首を振る。
「いや、残念ながら私にはそこまでの射撃の腕はない・・・、
あれは別の支部長クラスの人間だよ。」
この後の成り行きを考えると、
あまり意味のある質問ではなかった事にタケルは気付く。
もっとも、それこそそんな事を考えること自体もはや無意味だろう。
身動きの取れないまま、ランスロットをにらみ続けるタケル・・・!
果たしてこの体で戦えるのか!?
「オレを・・・ここでオレと決着をつける気か!?」
「そういうことになるな・・・、
上空で撃ち落とすのは、あまり本意とも言えなくてね、
できればこの手で直接、
始末をつけるべきだと思っていたからね・・・。」
・・・逃げる手段はない。
武器は互いに剣・・・、
こちらが有利と言えるのは体の7割方を覆うルドラの鎧・・・!
ただし、それはスピードの大幅減というリスクも併せ持つ。
どちらにしろ、
このカラダに負った衝撃ではまともに動ける自信はない・・・!
ガチャリ・・・!
タケルは今一度、剣を抜く・・・、
朱くうっすらと光を放つ天叢雲剣を・・・!
それに対し、ランスロットも自らの剣を抜いた・・・。
その剣はタケルの幅広なそれよりも、細いが・・・しかし長い!
向こうも何かの特殊合金なのだろうか、
ランスロットの刀身は鈍く紅みを帯びている・・・。
「タケル君・・・、
君の体に負ったダメージがどれほどのものかわからないが、
油断はしない・・・!
互いの条件はイーブンではないのも重々承知している・・・。
だが、それも戦いというものだ、
悪く思わないでくれ・・・。」
二人の距離は5メートル程だろうか・・・。
近いとも遠いとも言えないその距離に、
タケルは眼前の男の、秘めた迫力を感じ取っている・・・。
強い・・・!
この若さにありながら、
すでに何度か生き死にの戦いを経験したタケルにはわかる・・・。
自分より二まわりも小さいこの男からにじみ出る圧倒的な威圧感・・・!
これが騎士団最強の男なのか・・・!?
薄く小さい目だが、その眼光は本物だ・・・、
果たしてオレは勝てるのか!?
この状況で・・・!!
やるしかない!!
ついにタケルが機を先んじた!!
すでに走れる自信のないタケルは、中国拳法で培った脚力を発揮!
180度開いた足に勁を込め、ただ一瞬での箭疾歩!!
腕のモーションも限りなく少ない、突きに近い形で天叢雲剣を繰り出したのだ!!
ランスロットの目が見開く!
虚をつかれたなどと言う言い訳は通じない!
タケルの意表を突く攻撃にも、彼は対応する!
自らの咽喉元に近づく剣先を、
流れるように背中を反らし、
なおかつ自らの剣で天叢雲剣の切っ先を受け流す!
二人の体が交差した!!
すぐに態勢を切り返すタケル・・・!
だが次の攻撃に移れるほどの余裕がない!
ランスロットの反撃に耐えられるだろうか!?
一方、ランスロットも既にカラダをタケルに向きなおしているが、
反撃するそぶりを全く見せない・・・、
むしろタケルをじっくりと観察しているようだ・・・いや、
これは驚愕の表情なのか・・・!?
そして実際ランスロットは、その驚愕を隠すつもりもないらしい。
「驚いた・・・、
君の攻撃が読めなかったという意味じゃない・・・。
その剣の鋭さだ・・・。
見えるかい?
私の足元に、君が切り落とした前髪の一部が落ちている・・・。
まだ、実戦経験も数えるほどなのだろう?
それで・・・この実力か・・・。
日浦や李袞が倒されたのも理解できるよ・・・。」
相手が語り掛けてくるのはタケルにとって有難い。
少しでも体力の回復が見込めるからだ。
どうでもいいような内容だとしても、会話に付き合った方がいい・・・。
「へ! おだてても何も出ねーよ・・・!
それに・・・
その言い方はまだ余裕綽々ッて事だろ!?」
ランスロットはその言葉に反応しているようだが、
笑う事も嘲りも見せない・・・。
そのまま自分の言葉をしゃべるだけだ・・・。
「正直・・・畏怖するよ、
君の・・・いや、君たちの家系を・・・!
君のお姉さん、美香さんの事は常に聞かされていた。
確かに私は騎士団内で、トップクラスの剣技を持っていると自負しているが、
同時に『スサの彼女と比べてどうなんだろうな?』と、
いつも陰で囁かれていたのも確かだ・・・。
日浦義純にいたっては、
確実に美香さんの方が、実力が上だと言いきっていやがった。
アイツはお世辞とか空気を読むとか、全く考えないからな、
まぁ、確かに私と美香さんの剣術を、
両方、知る機会があったのは彼だけだったから・・・、
私もその言葉を気にしない訳にはいかなった・・・。」
タケルはどう反応すればいいかわからない・・・。
とにかく脊髄反射で言い返すだけだ。
「・・・姉貴とその腕を競いたかったとでも言うのか?」
「できればね・・・、
こんな血生臭い戦争なんかではなく、
正々堂々と、その技術だけで確かめたかった・・・。
互いに力を出し切れるのなら、
そこで負けても悔しくはないだろう・・・。
私も彼女に会った事は何度かあるが、
そう思える素晴らしい女性だったな・・・。」
何が言いてぇんだ、コイツ・・・?
「そんな言葉でオレがしんみりするとでも?
オレの弱気を誘ってるつもりか!?」
「いいや、とんでもない、
全て私の本音さ・・・。
言ったろう?
全力で君を叩き潰すと!
次は私が攻撃をする番だ・・・!!」
次回タケル敗北!?