緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 タケル撃ち落される
モードレイユの放った一発が、
タケルの乗るマルトのエンジン部分を貫通した!
銃弾が大口径なら、その先端にも特殊コーティングを施した特別弾だ。
そして恐るべきは、上空を高速で飛行するその機体を打ち抜く技術か。
「おおおお!?」
自分の乗るマルトに何が起きたかタケルは把握できない!
だが、 機体に起きた衝撃と突然の異音!!
エンジン部分から聞こえてきた回転音に異常が生じたのは明らかだった。
そしてすぐにスピードと高度が・・・。
『タケルおいっ!?』
デンからの通信にタケルは反射的に叫び声をあげるだけ・・・。
「撃たれたかもしんねぇっ!!
マルトが言うことを聞かねえよっ!!」
グログロンガやその他の戦闘部隊から、一機、
タケルのマルトがあらぬ方向へと離れてゆく・・・。
もう、タケルに余裕はない。
必死に操縦かんを握り態勢を立て直そうと試みる・・・!
高度がグングン落ちてゆくが、
それまで高速で飛行していただけに、
その角度はまだ水平に近い。
・・・だが・・・!
「うわわわわあわわあっ!?」
『おいっ! タケルどうしたーっ!?』
林だ・・・
高い杉林が山の斜面に密集している。
タケルはそのまま林のど真ん中に突っ込み、
木々の枝や葉っぱをぶち折ってゆく。
この高さでよかった・・・
もしもっと低い高度なら、ぶっとい幹にぶち当って・・・
だが安心できる状況など未だ訪れてなどいない!
林を突っ切ると、目の前にだだっ広い県道が見えた。
見たところ通行人も対向車もない。
「頼むぅ! ここしかねぇ!!」
ギリギリ操縦かんをかたむけ、
この真っすぐの県道の伸びている先に方向を合わせて・・・
あとは胴体着陸のようにギリギリ水平に近い角度でホバリングモードに・・・
「・・・できるんかよぉぉぉぉおおおおおおっ!?」
ていうか、ホバリングモード移れるの?
なんか変な音が・・・
・・・タケルは死を覚悟する・・・。
とてつもない衝撃と弾ける火花っ!
アスファルトと機体が削れ合う・・・
断続的に襲ってくる音の洪水っ!
ガリガリガリガリギャリギュアリガガッガッガ!!
文字で表現することも憚れるような無茶苦茶な摩擦音だっ!!
タケルの頭に浮かんだのは、
(足のロックを外さないと・・・!)
強烈なGのかかる状態でそれが出来るのは、
まさに彼の腕力の凄まじさか・・・、
両足のロックを外した瞬間、
タケルの体はマルトを離れ、
その道路沿いに投げ出される・・・!
角を生やした黒い塊が、
県道をゴロゴロと勢いをつけたまま転がってゆく。
一方、主のいなくなったマルトはそのまま道を滑りながら、
少しずつ角度がずれてゆき・・・
数百メートル先のガードレールに・・・!
タケルは身動きできない・・・。
マルトがガードレールに激突した音は聞こえてきた・・・。
爆発まではいかないようだ・・・、
いや、それよりも・・・オレ生きている!?
「・・・あ あ あ・・・いて、
ててて・・・オレ・・・死んでない!?」
痛み・・・
というか衝撃はまさしく殺人的なものだった・・・。
いまだ四肢に感覚が戻ってこない。
自分が生きている事はわかったが、体のダメージは・・・?
手足が無事なのかどうかも自覚できない状況だ・・・。
もう、
マルトがあっちに行ってしまった以上、誰とも連絡が取れない。
誰か心配して、ここへ来てくれるかもしれないが、
最後の通信状況では、それも期待できないかもしれない。
それに、あの林に突っ込んだことで、
もしかしたら、
自分の位置さえ特定できなくなってしまったのではないだろうか・・・。
・・・もう時間の感覚も掴めない・・・、
自分はどれぐらい、この道に寝そべっているのか・・・。
1分?・・・5分?
それとも20秒ぐらいしか経っていないのか?
タケルは体に少しずつ力を入れてみた・・・。
肘を地面に立て、ゆっくり上体を起こし・・・。
(お? い、いけるか?)
足も動く・・・。
腰は・・・曲がるな・・・!
指先はまだジーンとしている・・・
もっともそれは指先だけではない。
ほとんどカラダ全身だ。
膝が笑ってるが・・・
タケルは、
まだ左の腰から離れず残っていた剣を道路に突き立て、
完全に立ち上がる・・・。
歩ける・・・!
どうやら骨折もしていないようだ・・・。
あらためて、タケルは自分のカラダの頑丈さに感謝した。
もちろん、ルドラの鎧で外傷を抑えられたこともある。
部位によっては関節ごと保護してくれた・・・。
もっとも、自分以外だったら首が怪しかったな・・・。
ナマっちょろい首なら、兜の重みも加わって、
道路に投げ出されたとき、
ねじ切れてもおかしくなかったかも・・・。
ある程度歩けるようになると、タケルは剣をしまい、
鎧から露出している部分を中心に、カラダをさすり始めた・・・。
少しでも回復させないと・・・。
そしてその足は、
遠くに転がっているマルトに向かって歩き続けていたのだが・・・。
タケルは兜越しに、
すぐ近くで響くエンジン音に気づいたのである。
上っ!?
振り向いて上空を見上げると、
それはスサのマルトではない・・・!
騎士団の機体と思われるエアバイクが、
空中で静止してタケルを見下ろしていた・・・!
そして・・・
その操縦者はタケルと視線が合った事を確認すると、
ゆっくりとその機体を道路に下ろし、エアバイクから降りたのである・・・。
・・・その男はヘルメットを外した・・・。
美しいなめらかな金髪がふわりと宙を舞う。
この男は・・・!
「・・・ランスロット・・・!」
いよいよ最強騎士との一対一です!!