緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 戦闘開始
「テスラ・シールド発動ッ!!」
スサ本拠地をカムフラージュしている神社を中心に、
半径数百メートルに亘って、電磁シールドが張り巡らされる。
一定の高度より上空は、全てのミサイルや飛来物を遮断するのだ。
タケルは鎧を装着しながらも、それらの最新技術から目が離せない。
「・・・すげぇよなぁ、前の戦いでも思ったけどさ、
スサってとんでもねぇ技術持ってるんだなぁ・・・。」
戦闘部隊の長、インディアン・グログロンガは自らも戦いの支度をしながら、
説明を施す。
「デンの家系は天才的な科学者集団だ、
ヤツの親族には、あのエジソンにも苦杯を舐めさせた者もいる・・・。
説明は受けただろうが、
スサの迎撃システムには数キロ先の敵機を瞬時に撃ち落とす武器もあるが、
ここの周りは山々の起伏が邪魔をして、
奴らがいる位置に攻撃をかけることはできない・・・。」
タケルもそろそろ戦闘に慣れてきている。
自軍の戦闘方法はもう理解できている頃だ。
「わかってるよ、
それにオレらから攻撃をかけられないってことは、
奴らも攻撃ができないってことだろ?」
「そう、では戦いの手段は・・・。」
そして鎧を装着し終わったタケルはそのまま、
目と鼻の先にある巨大なバイクのような乗り物へと向かった。
スサ専用高速エアバイク、「マルト」
スキー板に固定するかのように両足をビッチリと留めねばばらない。
そしてタケルはそのままグログロンガの言葉の先を補足する。
「低地での互いの戦力を削りあうってことだな、
そしてイニシアティブを取ったものが敵の本隊をぶっつぶす!」
「準備はいいか!?」
「オッケーッ!!
最強の騎士だか何だか知らねーが・・・叩き落としてやるぜぇーっ!!」
エアバイク・マルトは、
地上から10センチほどの距離を浮きながら疾走するホバリング走法と、
一気にスピードを上げ大空を舞う二つのモードを切り替えられる。
機体はギリギリまで軽量化を図られ、
攻撃方法に機銃や砲弾を使うことは想定されていない。
スペースの問題もあるし重すぎるからだ。
そういう理由のために機体の先端にレーザー砲が取り付けられている。
スサの技術で高出力化、及び軽量化が図られ、
機体重量へはわずかな負担で搭載することができた。
唯一の問題は、
レーザーの冷却化、すなわち一回の発射分のエネルギーを溜め込むまでに、かなりの時間を要するということ。
これをいかに使いこなすかが勝負の分かれ目だ。
これまでの間、タケルの訓練を行っていたのは、
主に、この機体を乗りこなす為の戦闘訓練だったと言えよう。
上空で、この乗り物を捌きつつ、敵に攻撃を加える。
口で説明するとただそれだけなのだが、
こんな短期間でタケルが通常の戦士と同じレベルにまで練達する事など、
当初、スサの誰もが信じる事ができなかった。
だが、タケルは苦労しながらもだが、先の戦いでその身体能力をまざまざと仲間たちに見せつけた。
もはや手放しで安心して見ていられる、とまでは行かないが、
タケルが戦闘部隊の先陣を切ることに反対する者はどこにもいなかった。
それほどまでにタケルの上達ぶりは激しかったのである。
さて、実を言うと、
対する騎士団も同じような攻撃手段を持っている。
その気になれば戦闘機なども作り上げることもできるのだが、
今までイギリス政府も黙認させてきた関係上、
そんなあからさまな兵器などを作るわけにもいかなかった。
そういう条件などを設定していくと、
どうしてもスサも騎士団も同様の発想を行ってしまうのだろう。
互いに機体の性能・武器のポテンシャルなど、微妙な性能の差はあるが、
最終的な鍵は、どこまでこのエアバイクを乗りこなせるかである。
また、戦闘部隊の第二陣には、
携帯型のスティンガーミサイルを装備しているマルトもある。
厚い装甲の戦車や建物を攻撃するには、こちらの方が効率がいい。
だが、超高速で自分たちと同じような戦い方を行う騎士団の個別部隊には、
やはり身軽さが第一に求められるのだ。
「第一陣発進ッ!!」
カモフラージュされている山の中腹の崖あとから岩肌が割れてゆき、
数十機のエアバイク・マルトが発進してゆく。
先頭は勿論、黒い「ルドラの鎧」に身を包んだタケル!
鎧の下の首元には、美香の形見の「紋章」と、
そして左の腰には神剣・天叢雲剣を携えている。
制空権を取る戦いに、剣など何の役にも立たないはずだが、
マリアの勧めもあって、日浦戦の当初からこの装備のままだ。
確かに敵陣深く潜り込む・・・
または追い込まれてスサ施設内で戦う場合なら、
マルトを離れた後、剣での戦いも重要だろう。
だがマルトを操縦している時にはさすがに剣などと・・・
と言いたいところだが、実際には意外と役に立つ。
敵エアバイクとかち合う場合、
時として相手と並走しながら争う場合がある。
その時、備え付けられたレーザーは役に立たない。
かなり危険な立ち合いにはなるが、
相手と並んだ時には、
その剣を持って操縦者本人に切りつけることもできるのだ。
自分か相手か、
致命傷を与えずとも、バランスを崩した方が地面に激突する。
条件は敵も同じだが、タケルの鎧には剣で傷つけることはできない。
タケルには少々小突かれた程度にしか感じないのである。
一方、グログロンガや他の部隊は拳銃を装備している。
近接することになれば、
片手で操縦かんを握り、残る片手で攻撃する。
他にも独特の武器を持つ者もいるが、大体はこのパターンである。
それとこれも付け加えよう。
彼らのエアバイクに付けられた「マルト」という名は、
インド神話に出てくるマルト神群を由来にしている。
それは暴風雨を起こす荒れ狂う神々の集団で、
別名のルドラ神群という名でも有名だ。
もうお分かりだろう。
それらはタケルの纏う「ルドラの鎧」にちなんでつけられたものだ。
元々「ルドラ」という名も、
サンスクリット語が属するインド・ヨーロッパ語族に分類され、
rude・・・すなわち「荒々しい」という英単語にも近い意味を持つ。
似たような単語にwildがあるが、
こちらも、皆さんは覚えてらっしゃるだろうか・・・。
中欧神話の嵐と戦の神、
死者の王ヴォーダンと名前が繋がっていることに・・・。
久しぶりにヴォーダンの名前を出しました。
次回、
タケルに最大の危機が迫る!