緒沢タケル編5 騎士団戦最終章 宣戦布告
もちろんその顔は、
タケルにとっては初めて見る顔だ。
そしてその男はモニター越しに口を開く。
『やあ、久しぶりですね、スサの副官カール・サルペドン・・・、
今は副司令官といったところですか?
そしてその隣の君が・・・
緒沢タケル君だね・・・、
なるほど、
はじめまして、・・・美香さんの面影があるな・・・。』
はじめましてと言われても、
タケルには何と答えていいかわからない。
何しろ、美香の死の真相だって未だにわからないのだ。
取り合えず、この男が騎士団のものであるのは間違いなさそうだが・・・。
ところが隣のサルペドンの様子が明らかにおかしい。
・・・うろたえている風でもある。
そしてサルペドンは、
信じられないとでもいうように言葉を荒げた。
「き、貴様・・・、
騎士団本部長・・・湖の騎士ランスロット!!
ま・・・まさかお前が・・・
こんなところへ、いきなり・・・!?」
周りはとみると、
コントロールルーム全ての人間が青ざめた顔をしている。
・・・マリアだけが最初にランスロットの顔を見ているせいか、
冷静な表情を浮かべていたままだが・・・。
タケルはその周囲を確認した後、モニターに向かって口を開いた。
「湖の騎士ランスロット? 騎士団本部長・・・?」
『ああ、自分を名乗ることを失念していたね、
申し訳ない・・・。
そう、現在この騎士団、軍事作戦の最高責任者と覚えていてもらおう・・・。』
サルペドンはそんなことを構わずに質問を続ける。
「そんなお前が、直々に我らを潰しに来たのか!?
それも最高責任者!?
ウーサー亡きあと、お前が騎士団を継ぐというのか!?」
「いいえ、あくまで私は騎士たちのまとめ役というだけです。
騎士団を継ぐなどという大それた目的などありませんよ・・・。
その『資格』もありませんしね・・・。
ただ、タケル君、
君には謝らねばならない・・・、
我々は君の評価を低いものと考えていた。
そして正直に君の強さに敬意を払うよ・・・。
それが・・・
この私がここまで出向いてきた理由だ。
君の強さに敬意を表し、全力で君たちスサを潰させてもらう!!」
こんなことは、
さしものサルペドンも予想すらできなかった!
他人にも自分にも厳しいサルペドンは、己の認識の甘さを責めるが、
そんな事を今、考えても始まらない。
どうにかこの事態を避けなければ・・・、
いくらタケルが無類の強さを発揮しているとはいえ・・・、
騎士団最強の男を前にして・・・。
サルペドンの無言を気にすることもなく、
ランスロットは淡々と攻撃宣言を述べた。
『既にそちらのレーダーには映っているでしょうが、
この通信を終了し次第、攻撃を開始します。
言うまでもないと思いますが、
降伏していただけるなら、命は保証します。
・・・しかし、あくまでも戦うというなら・・・、
一人残らず、殲滅する・・・!!
覚悟はよろしいですか?』
答えは決まっている。
だが、
このまま戦ってスサに勝ち目は薄い・・・。
サルペドンが答えあぐねていると、
タケルがしびれを切らせてしまった。
「ああ!?
上等だぁ!!
てめーら返り討ちにしてやんよ!!
来るならかかってこいやぁ!!」
(このバカがぁ!!)
のど元まで出かかったサルペドンだが、
他に手も見当たらないのも事実である。
時間稼ぎをしたところで何も始まらない。
もう、覚悟を決めるしかないのだ。
そして当然のことながら、
ランスロットはタケルの言葉で、全ての行動を決断した。
『わかりました、
では次にお会いするのは戦場で・・・ということですね。
残念ですが仕方ありません・・・。
直ちに行動に移らせていただきます。
それでは、また後ほど・・・。』
そこで通信は終わった。
興奮するタケルの隣で、
サルペドンがそれ以上に激高した。
「こぉの馬鹿野郎があぁぁぁぁっ!!」
「えっ!? オレかよ!?」
「当たり前だ!
ヤツは騎士団最強の実力者だぞ!!
その強さは美香に匹敵すると言われてるんだ!!
お前は今、彼女と戦って勝てる自信があるのか!?」
そこで初めてタケルの顔から血の気が失せていった・・・。
自分も強くなった・・・。
日浦義純にも李袞にも勝った。
・・・だが未だに姉・美香と戦って勝てるかどうかは・・・。
ここでタケルを責めても、後悔しても始まらない。
マリアが現状を見かねて二人を現実に引き戻した。
「さぁ、二人とも、
悩んでる暇はありません。
それにランスロットが強いといっても、
今の時代、戦いは個人の剣技で決まるわけではないでしょう?
すぐに行動を開始しないと・・・。」
サルペドンはその言葉に我に返り、
さっそく各部署に戦闘の開始を指示し始める。
タケルはしばらく動けないままだったが・・・、
マリアに一つだけ確認を求めた・・・。
「なぁ、マリアさん・・・」
「はい?」
「サルペドンは、あの男の強さが姉貴に匹敵するとか言ってたけど・・・。」
この緊急事態に何の話を始めるのか?
マリアは意表を突かれて聞き返すのみだ。
「ええ?」
「姉貴より強え奴なんていねぇよな・・・?」
こんな事を聞かれても、
マリアには剣術や格闘技の知識などない。
しばらく、
マリアはどう答えてよいか悩んだようだが、
タケルが何を求めているのか、
すぐに彼女は理解することができた。
そして優しいマリアは、
最後ににっこりとタケルに微笑んだ。
「ええ、あの人に勝てる人間なんていませんよ・・・!」
タケルに必要なのはその言葉だけだった・・・。
「おっしゃああ!!
目にもの見せてやるぜぇぇっ!!」
そしてこちらは騎士団大型輸送ヘリ内。
その狭い一室で、
二人の男が作戦の最終チェックを行っていた。
互いにその確認を済ますと、
短い黒髪の男性、
若きモードレイユがランスロットに疑問をぶつける。
「本当にランスロット、
あなた自ら参戦するのですか?」
「その必要がないと?
敵を侮るな、モードレイユ、
まぐれで日浦も李袞も倒されはしない・・・!
それに、緒沢タケル・・・
ヤツも緒沢家の血を引いている・・・。
古代の神々の血脈だとかいう与太話はどうでもいい。
肝心なのは、かの家系がスサ総代として、
祀り上げられているだけの何かを有しているということだ。
我々は神の意思の代行者として、
それを断ち切ればいいのだ・・・!」
そう言うと、
ランスロットは自らの部隊に命令を与えるべく、その狭い部屋を後にした。
・・・残された東欧支部支部長、
アケローン部隊を率いるモードレイユは、
ランスロットの姿が部屋から消えるのを目で追って、
独り静かにつぶやいた、
・・・それも「日本語」で。
「・・・フン、神の意志ね、
代行者・・・?
本当にバカの集まりだよな・・・。」
そして彼は自らの腰の銃を手に取る。
リボルバーの弾倉を開けて、愛銃の調子を確かめているようだ。
彼は銃弾が装填されていることを確かめると、
その銃をランスロットが出て行った戸口に向け、
「バァン!」
ふざけているのだろうか、
たった一人で、その銃の引き金を引く仕草をして見せたのだ・・・。
もう名前からして
どんな役割なのか、ネタバレしてるのでしょうが、
それ以上に、
物語の中でかなりの重要な立ち位置にいます。
伊藤麻衣ちゃんと一緒で
最初はその場だけの登場キャラだったのに、
その後どんどん存在感が増していった例です。