緒沢タケル編4 スサ マリアの懸念
タケルはすぐに天叢雲剣の装備条件を思い出す。
「・・・てことは、
これも紋章か何かが必要なのかい?」
「いえ、その必要はありませんが・・・、
今までこれを纏えたのは、私の数世代前の先祖・・・一人か二人程度なのです。」
「? どういうこと?」
「説明するのは難しいのですが・・・
迂闊にこの鎧を装備すると、
精神に変調をきたすのです・・・。」
「はぁ!?」
「私の祖父も、
かつてインド独立戦争時にこの鎧を纏おうとして、
すぐに、嘔吐や錯乱状態になり・・・、
言い伝えで、それらの情報はありましたし、周りの人間で急いで剥がしたので、
しばらくしたら回復したのですが・・・、
私は勿論、父も・・・それどころか、
緒沢家の皆様も・・・この鎧だけは身につけることはできないのです。」
「の・・・呪いの鎧?
じゃ、じゃあマリアさんが部屋に入らないのも・・・?」
この後はサルペドンのセリフだ。
「彼女は異様に感受性が鋭くてな、
霊的なものの反応がやたらと激しいんだ・・・。
お前の姉の美香も、
この鎧にだけは近寄らないようにしていた・・・。」
タケルの背筋に冷たいものが走る。
「な、なんでそんな物をオレに見せるんすか!?」
タケルの反応は当然だろう。
誰が好きこのんで、そんな気味の悪い鎧に近づきたいと思うものか。
「一応、念のため、
とマリアが言ったろう。
これは防具としては中々のもんなんだ、
実験したが、機関銃の連射でも傷がつかない。
戦場でこれほど頼りになるものはないぞ?」
「だからといって・・・。」
「パッと見、どうだ?
何か感じるか?」
「ええ~?
・・・いや、特には・・・でも気味悪いっすよ・・・。」
クリシュナが口を挟む。
「サルペドン様、先に言わない方が良かったんでは?」
ふざけんな!
「なに、コイツは鈍感そうだからな、
緒沢家の血筋としては考えられんが、
こういう時には意外と都合がいいのかもしれん。」
いい加減殺してやろうか、こいつ・・・。
サルペドンは兜の部分を台座から外し、タケルに手渡す。
おっかなびっくり受け取るが、
・・・思ったほど重くはない。
しかし、見れば見るほど奇妙な造りだ・・・。
面の左右の部分には、それぞれ不気味な顔が彫られている・・・。
正面の装備者の顔と併せればまるで阿修羅像といったところだろう・・・。
「ま、まさか、かぶれと・・・?」
「やばいと思ったら外せ・・・、
なに、ここには大の大人が二人もいるんだ、
いざとなったら首を切断してでも外してやる。」
サルペドンは真顔で恐ろしい事を言う。
本人はギャグのつもりなのだろうか?
タケルは恐る恐るかぶってみた・・・。
もう少し、慎重に行動すべきだとも思ったのだが、
・・・不思議とこの兜からは、何故か懐かしい感じがしたのだ・・・。
顔にはすっぽりはまる・・・、
重くも感じない。
一体、どんな金属なのだろう・・・。
気分が悪くなるどころか、
寧ろ高揚していくような・・・。
「今のところ・・・、問題ないすよ・・・。」
サルペドンとクリシュナは目をあわせた。
二人とも本気で驚いているようだ。
「サルペドン様・・・、
タケル殿のお父上はここまでも・・・できませんでしたが?」
「・・・そうだな、
あの方は手に取った瞬間、叫び声をあげてしまわれたのだが・・・。」
ええっ!?
「ちょっと、いい加減にしろよ!
そういうことも全部、先に言ってくれよっ!!」
急いで兜をはずしにかかるタケル。
だが、サルペドン達はまだ驚いているままだ。
もっとも、驚愕の感情とは平行しながらも、
思慮深いサルペドンは思考を巡らしている・・・。
(どういうことだ?
スサが結成されて以来、誰もこの兜をかぶる事すら出来なかったというのに・・・。
確かにクリシュナ家で伝えていたこの防具を、
緒沢家の出自の者が扱えるというなら・・・、
それはそれで彼らが共通の先祖を持つという、アトランティス伝説の一つの証明にはなる・・・。
だが、それをこのタケルが・・・?
いや・・・、まだ結論は早い・・・。)
サルペドンはタケルから兜を返された。
彼・・・サルペドンにも、
この兜の異様な波動はビンビン伝わる・・・。
持っているだけならなんてことはないだろうが・・・もし、自分がかぶったら・・・。
再び兜が台座に安置されてから、
サルペドンは振り向いてタケルに話しかける。
「・・・まだ警戒はすべきだが、
訓練中、この鎧を身につけて行動してみろ・・・、
重さにも慣れてもらわないとならないし、
長時間、身につけられるかどうかもチェックしなければいかんのでな・・・。」
「でもよぉ・・・、
今の時代にこんな鎧、必要あるのかよ!?
慣れるっつったって、どうしても動きが鈍くなるぜ?」
「それは心配ない、
後で見せるが、高速の移動手段を開発してある・・・。
ま、それは騎士団も同様だがね・・・。」
「?」
「とりあえず表に出よう、
・・・マリア、待たせたな。」
三人が部屋を出て、
再びこの部屋は暗闇に包まれた・・・。
だが、そこになおも黒い光を残す防具、その名は『ルドラの鎧』。
・・・そう、
呪われた人形の物語に登場した暗黒の武具・・・
「死神の鎌」と、まさしく同じ属性の防具・・・。
この「ルドラの鎧」が、
一体、如何なる秘密を持っているのか、
タケルは勿論の事、
これを伝えるクリシュナも、
膨大な知識を持つサルペドンですら、
今は知ることもできないのだ・・・。
そして、彼ら三人が次の場所へと歩き始めると、
マリアは少し距離を置いて、彼らの後についていく。
・・・距離を置いたのは、
彼女が一人で考える事があったからだ。
努めて顔には出さないようにはしているが、
無意識にうつむき加減で歩行せざるを得ない・・・。
(タケルさんがあの鎧を纏えるというの?)
彼女は幼少の頃から物心つくまで、キリスト教文化の下で育ってきた。
それゆえ、彼女の価値観や観念には、
どうしても、そのキリスト教的な考え方が多くの部分を占めている。
そして彼女は、かつて初めてこのルドラの鎧を見たときの印象が、
心の深い部分のどこかで、
消す事も出来ずに今も蠢いているのだ・・・。
あの凶々しい姿は・・・まるで・・・
西洋古典美術に描かれる・・・『忌まわしき者』の姿ではないのだろうか、と・・・。
いや、考えすぎだろう、
それに、今は世界の危機にある・・・。
こんな事はどうでもいい、
今すべきことは・・・、
騎士団を止める事・・・。
それが、全ての優先課題なのだ・・・。
ここまで、タケル編をお読み頂きありがとうございました。
だいたいの舞台設定はご理解されましたでしょうか?
そして続きますのは、
緒沢タケル編、騎士団戦最終章となります。
…ただ、
極東支部支部長日浦義純との戦いは、
「メリーさんを追う男」の語られない物語において、書ききってしまいましたので、
その次の相手となる亜細亜支部支部長との戦いから描くこととなります。
といってもダイジェスト版となります。
メインである最強の騎士、湖の騎士ランスロット戦はしっかり書きますのでご容赦下さいませ!!