緒沢タケル編4 スサ ルドラの鎧
次回で「緒沢タケル編4 スサ」は終了です。
この浅黒い肌の、
クリシュナという男も無表情だが、その割にはやたらと饒舌のようだ。
彼なりにタケルを歓待しているのだろうか?
「それで、タケル殿。」
「あ、は、はい!」
「私の仕事もいろいろありますが、
その内の一つに、各施設の管理や、
宝物の整理とかもあるのですよ。」
「・・・はい。」
「君が美香様から引き継ぐ事になる神剣・天叢雲剣も、
普段は私のところで管理する事になります。」
「あ、そうすか、よ、よろしくお願いします・・・。」
タケルは答えた後に、ツルギの危険な特徴を思い出した。
「あっ、で、でも、あれ、扱い間違えると危ないっすよ!?」
「ん? ああ、存じております、
剣の拒絶反応ですね、
もちろん美香様から伺っております。
それに・・・私の家にも似たような物がありますので・・・。」
「似たようなもの?」
「これから君にそれを見せたいのですよ。」
サルペドン、マリアを含めた一行は、
施設のさらに最下層と思われるフロアまで降りてきた。
照明は上の階と同じ明るさのはずだが、
なんとなく薄暗く感じるのは気のせいだろうか?
初めてこの場を訪れるタケルは、
当然、周りをキョロキョロ見回しながら歩いているのだが、
そのうちに、マリアの表情に変化が現れている事に気づいた。
「・・・どうかしたんすか?」
その問いにマリアは瞬間的に反応するが、すぐには答えを返せない。
彼女の顔は、何か不快感を示しているようなのだが・・・。
そこへサルペドンが会話に入ってきた。
「マリア・・・やはり、感じるか?」
「ええ、ここへは久しぶりに来たけど、
・・・やはりあの部屋には入れそうにないわ・・・。」
勿論、タケルには何のことかはわからない。
「な、なにがあるんです!?」
「私が答えましょう。」
と、言ったのはクリシュナだ。
「タケル殿、
私の先祖は代々、戦士階級でしてね、
表向きはヒンドゥー教のヴィシュヌ神を崇めている事になっていたのですが、
一族の秘儀においては、破壊と豊穣の神であるシヴァ神に帰依しておりました。
緒沢家に伝わる天叢雲剣同様、
私の家系にも、そのシヴァ神ゆかりの、
古から伝わる武具がありまして・・・。」
「武具?」
「そう、ただ・・・。」
「ただ?」
「その武具を扱える者がいなかった・・・、
いえ、ムガール帝国時代にたった一人だけ、
その武具・・・
鎧を身につけれる戦士がおりましたが、
それ以外、誰もその鎧を装備できる者がいなかったのです。」
タケルがそれを聞いて真っ先に思い浮かべたのは、
至極常識的な予想である。
「それって・・・
ああ、もしかしてすげぇ重たいってことか?
あ、それでオレぐらいの体格じゃないと・・・ってことかい?」
我ながら論理的な考えだな、
とタケルは自分で思い込んでしまったが、
どうも周りの反応は違うようだ。
あ、そうか、
・・・そうなると、マリアさんが部屋に入れないのって、どう説明するんだ?
そうこうしているうちに目的の部屋に辿り着いたようだ。
「ま、見てもらうのが一番ですかな?」
そう言いながら、クリシュナは部屋のロックを外す。
マリアは他の三人から距離を置いている・・・。
「?」
プシューッ・・・!
空気圧の音とともに部屋の扉が開かれる。
中は真っ暗だが、部屋に入ったクリシュナがすぐに電気をつける。
「さ、タケル殿、入ってください。」
クリシュナの声には、まるで警戒すべきものは感じられないのだが、
マリアの様子が・・・。
しかし、ここまで来たら入らないわけにもいかない、
タケルは覚悟を決めて部屋の中に入る・・・。
そこには古い、様々な・・・
タケルの目にもわかる。
これらは年代物の宝物殿だ・・・。
多くの美術品や絵画・・・彫刻・・・宝石がちりばめられた家具・・・。
「おおおお~、・・・すげぇ・・・。
そうか、スサは古来の氏族の直系の子孫達で構成されるから・・・、
そんで、こんな宝物がいっぱいあるんだな・・・。」
その判断に間違いはない。
しかし今回の目的には全く関係ないので、
サルペドンが冷静にタケルの注意をひきつけた。
「お前に見て欲しいものはそいつらじゃない・・・。」
「は?」
「クリシュナ家が代々、伝えてきたものはこっちだ・・・。」
見ると、そこには黒光りする大きな兜と鎧が飾られていた・・・。
鎧・・・とは聞いていたが、これは?
それは・・・奇妙な・・・
とても不思議な造形で形作られていた・・・。
頭部の左右には巨大な二本の角・・・。
角は尖ってはおらず、先端は丸みを帯びている。
額には不必要な空間がある。
あれでは額ががら空きじゃないか?
それはともかく、その額の上には蛇の意匠が象られている。
いや、よく見るとその蛇は鎧の各所に・・・。
両肩にそれぞれ、
そしてウエストの位置に三匹・・・、
何故か左右非対称に、右膝、左足首・・・、
合計八匹の蛇が彫られているのだ・・・!
「これが、その、今の話にでてた鎧?」
タケルの問いにクリシュナが答える。
「そうです。
わかっているのは、これが『ルドラの鎧』と呼ばれている事、
そしてその鎧は、如何なる金属や銃弾によっても傷をつけられないということです。」
「へ? そ・・・それって、あ、
まさか、天叢雲剣と同様、未知の金属でできてるって事かい?」
「何と言いますか、
この鎧は、天叢雲剣とは同じ素材ではないようです。
しかし、同じ未知の文化によって作り上げられた可能性は大きいと思われます。
・・・それに、限られた者しか身につけれない、
という意味では近しい存在なのかもしれません。」