緒沢タケル編4 スサ 神の遺志
今回のテーマの神話について
詳しくお知りになりたい方は、
ギルガメシュ叙事詩、大洪水説話
などをお読みになると良いかと。
ノアの大洪水の元ネタです。
もう一つあるのだけど、
それは敢えて取り上げません。
タケルが絵空事と思い込んでいたスサの祖神伝説。
日浦義純や姉、美香から概略だけは聞かされていたが、
タケルがその中身の詳細を聞かされるのは、
これが初めてとなるのだろうか。
サルペドンは淡々と語り始めた。
「かつては、それが一つの大元の地域から派生したためだとか、
地域や文化の共通の特性に応じて、自然に似通ってしまうとか、
いろいろな研究があるのだが・・・、
こと、このスサに至っては、
人類共通の記憶と伝承・・・
それが元になって広まっていったと考えられている。」
ハァ、としかタケルには今は言えない。
まだ今度の事件とのつながりは見えないし・・・。
サルペドンは構わず続ける。
「・・・ここへ来る途中、
オペレーティングルームで仕事をしていた者たちを見たな?
その民族の雑多さはわかったか・・・?
彼らは、日本は勿論、スラブ、ヨーロッパ、インド、アメリカインディアン、
アフリカ、中央アジア・・・
至る所からこのスサに集まっている。
彼ら全てに共通するのが、その古代の伝説なのだ。」
タケルはどこまでこの話を理解できるだろうか?
そんな事はお構いなしにサルペドンの話は続く。
「はっきり言って、
その伝説はキリスト教やイスラム教下では、もうほとんど姿を残していない。
そういう意味ではこのスサも、
今後は組織としてどれだけ活動できるのか、
はなはだ疑わしい。
だが、19世紀から20世紀にかけて、
多くの研究者が多大な書物を残してくれたおかげで、
まるで・・・そう、遠い過去において、いかなる事件が起きたのか、
あくまでも推理の域を出ないのだが、
その輪郭を知ることが出来るのだ・・・。
タケル、
お前はどこまで美香から聞いたのだ・・・?」
ここでいきなり振られるても、
なんと答えればいいのか、
勿論すぐに対応出来るわけもない。
「ええっ?
そっ、それはぁ・・・。」
必死で思い出そうとするタケルをサルペドンが制す。
「いや、いい、
どっちにしろ断片的にしか聞いてないのだろう?
神の名前はどうでもいい。
どうせ伝える民族によって名前はバラバラだ、意味がない。
・・・古来、この地上には一人の神がいた・・・。
人間たちは誕生して間もない頃だったが、
まぁ・・・それなりにその神の元で繁栄していた・・・。
それなりに、というのは今の世も大差ないからだ。
貧しい地域もあれば、優雅な都市文明もあるからな。
・・・ところがある日、この地上で暮らす人間達を、この世から抹殺するという決定が、
『天空の』神々の間で行われたのだ。」
タケルの脳裏に浮かぶのは、
確か・・・
「・・・アトランティスの沈没。」
タケルが少し思い出したようだ・・・。
サルペドンはその反応に気を良くしたようだが、
頷いただけで、再び口を開いて話し続ける。
「そうだな・・・では、タケル・・・
こっちは知っているか・・・?」
「・・・?」
「大洪水・・・
『ノアの洪水』の伝承は?」
え・・・ノアの洪水・・・!?
タケルの記憶に間違いなければ・・・、
それは旧約聖書の・・・。
「き、聞いたことはあるけど・・・も。」
「そう、聖書に記述される最も恐ろしい虐殺の記録さ・・・。
一神教の世界では、人類の抹殺は神が一人で決め、
敬虔なノアの家族だけを大いなる慈悲の心で助けたというが・・・、
とんだ茶番だ・・・。
多神教の神話では、
あの事件は真っ二つに割れた神々の闘争の結果なのだよ・・・。
一方の神々は、
人類を邪悪な生命と決めつけ、絶滅の計画を立て、
もう一方の神がそれを打ち破るべく、苦肉の策として、
たった一つの家族に箱舟を作ることを教えたのだ・・・。」
「・・・!」
「言うまでもなく、
・・・わかるな、タケル?
地上の主・・・大地の王、スサが伝える神というのは、
その時、人間を救った神なのだ・・・。
私の生まれた場所でポセイドンと呼ばれた存在・・・、
日本で言うスサノヲ・・・インドではシヴァ、又はルドラ・・・、
メソポタミアではエンキ・・・!
そんな人間を助けた神を待っていたのは、他の神々による捕縛だ。
一説には取引があったといわれている。
我らの神が、その身を引き換えにする事で、
以降、人間達は神々に攻撃されなくて済んだのだ、と言うな?
勿論、正確な事実はわからん。
その神と呼ばれた存在は、もう殺されたのかもしれない。
いや、実は神ですらないのかも知れない。
だが我らスサの民は、
その英雄的行為を行った者をあがめ続けてきたのだ・・・。
他の人間達が、その神の行為を忘れ、
かつての殺戮者に帰依する事になろうとも、
我らだけは忘れまい、という決意の元にな。」
そしてサルペドンは立ち上がる。
「いま、世界がどうなっているか、
もう一度見渡せ、タケル。
事もあろうか『神』の意志を代行するとなどと抜かしている騎士団・・・!
あいつらの行為を何とする?
かつての虐殺者達の冒した恐ろしい殺戮を・・・
今度は人間自らの手で行おうというのか!?
そして、我らスサは!?
お前の姉、美香は!?
タケル、お前は!?
かつての・・・この地上の本当の主の血を受け継ぐなら・・・、
いや、血縁なんか本来どうだっていいのだ・・・!
かの神の意志を受け継ぐ自覚があるのなら・・・!
我らがすべきことはおのずと知れよう!!
人間がどんな過ちを犯そうが・・・
どんな罪を犯そうとも、
この地上の人間を・・・
滅ぼすわけには行かないのだ!!」
カーリー先生
「私の講義をちゃんと受けていれば理解できる範囲ですね?」
ネロ
「(え、講義ではここまで話してなかったような?)」