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緒沢タケル編4 スサ 美香の言葉

 

 「えっ!?」


思わずタケルは聞き返す。

美香の最後の言葉は、頭の中にしっかりとこびりついている。

だが、その内容そのものについては、

これまでしっかり考えてきたとは言い難い。


何故ならタケルの心にあったのは復讐・・・!

生まれてからずっと住んでいた家を壊され、

たった一人の肉親を殺され・・・、

タケルを突き動かしていたのは、

ただただ、姉の仇を討つという、その行為の遂行のみだったのだ。


だが、その姉の最後の言葉の意味は・・・

復讐とは遠いところにあるのではないのだろうか・・・?

 「あ、あの・・・正直・・・、

 頭ん中が熱くなってて・・・、

 たぶん、今でも姉貴を殺したヤツを見たら、

 真っ先に殴りかかるはずだと思うけど・・・。」


マリアはしばらく黙っている・・・。

彼女が聞きたいのは、

美香の死もさることながら・・・そのもう一歩先にあるのだ。

 

タケルの結論を待たずに、マリアは言葉を続ける。

 「・・・今、騎士団の各戦略部隊が世界各地を混乱に陥れています。

 直接、彼らの銃弾や凶刃に倒れる人間は少ないかもしれません・・・。

 ですが、その二次被害によって多くの・・・

 それこそ力のない者から命を奪われているのです・・・。

 貴方も・・・私も美香様を失って、とても悲しいです。

 ですが、

 家族を奪われた者の苦しみに差はありません。

 世界中であなたと同じように嘆き苦しんでいる人達がいるのです・・・。

 騎士団・・・彼らの主張はもっともでしょう、

 人間は多くの罪を犯してきたのかもしれません・・・。

 それには私も共感できます・・・。

 でも!

 その答えがこの愚かな破壊行為なのでしょうか?

 美香様は『彼らを止めて』と仰ったのですね?

 なんて・・・なんてあの方らしいお言葉なのでしょう・・・。」


一言も口を挟めないタケルに、

マリアは言葉を畳みかける。 

 

 「タケルさん・・・!

 貴方は美香様のご意志を継ぐためにここへ来たのですか?

 それとも、別の目的があってここへ来たのですか?

 ・・・この奥の扉の先には・・・スサの仲間たちが待っています。

 彼らと会う前に・・・貴方の本当のお気持ちを、

 聞かせていただけないでしょうか・・・?」



タケルは全く想定すらしていなかった質問を突きつけられた。

マリアが見通したように、

タケルはこのスサに身を落ち着けに来たわけでもない。

先の事なんか考えてもいない・・・

まずは「あること」を確かめるためだけに来た。

それはどちらかというと、

狩猟者のような、攻撃的なスタンスと言って差し支えない。

目的を遂げるためには他の事などどうだっていい・・・。

その為に、自分が誰かに追及されたり、

追い詰められる事など考えてもみなかったのだ。

それが今や、美香の最期の言葉の意味を突き付けられ、

ようやく、自分の短慮な思考を気づかされたのだ。


タケルは拳を握り締め、二本の腕を机の上に広げる・・・!

目は机の上の表面に落としてしまい・・・、

必死に頭の中を考えを巡らせて・・・。

 「マリアさん、・・・オレ・・・。」

 

 

マリアは辛抱強くタケルの言葉を待つ・・・。

彼女も、

タケルに対して酷な質問を投げかけているという事は十分に自覚している。

だが、

彼女もまた、亡き美香の意志を継ごうと懸命な身なのだ、

ならば、自分の役割は、このタケルを・・・。


 「マリアさん、オレ・・・!」

 「はい・・・。」

 「姉貴の意志を継ぐ・・・! でも・・・!」

 「でも・・・?」

 「その為には、オレはまだ何も知らない! 

 何もわかっちゃいないんだ・・・!

 だから、教えてくれ!

 そうすれば、美香姉ぇの目指していたものがなんだったのか・・・。

 それに、姉貴はオレにもう一つ言った!

 オレこそが・・・姉貴の『希望』なんだと。

 姉貴がオレに託したい希望とやらが何なのか、オレは知るべきなんだ!

 オレが本当にそれを理解できるのなら・・・

 なってみせる!

 姉貴の代わりに・・・!」



この小さな部屋に静寂が続く。

マリアはじっとタケルの目を見続けていた・・・。

そして彼女は、何秒か目をつぶって考え事をしていたようだが、

おもむろに立ち上がってニッコリと微笑んだ。

 

 

 「ありがとうございます、タケルさん、

 ごめんなさいね? あなたを試すような事をして・・・。

 でも、私が今、聞いたことへの回答には・・・、

 こう言ってくれないと困る・・・というものではありません。

 正解なんてないのです。

 騎士団の暴挙にしても、

 彼らなりに苦しんで、最後の選択だったのではないでしょうか・・・。

 いえ、今も自分達の行動に疑問を持ちながらも、

 周りに流されている人もいるのかもしれません。

 まず私たちは、

 あなたが、美香様が支えてきた重みに耐えようとする意思をお持ちなのかどうか、

 それを知りたかっただけなのです。

 では、扉を開けましょうか?

 それと・・・最後に言いますが・・・、

 中にいる者達が、貴方を歓迎してくれると思ってはいけませんわ。

 理由はすぐにわかります。

 良くも悪くも・・・それがスサという集団なのですから。」

  

別にタケルも、

歓迎されたいなどと思っていたわけではないが、

このマリアの説明も、タケルにとっては予想外のセリフであった・・・。

美香亡き後、自分はスサの正統な後継者ではないのか?

それとも、やはり最初に日浦が推測したように・・・

スサ内部に何か、怪しい動きでもあるのだろうか・・・?


マリアは、

まるでタケルの心の動きを予測したかのように、

意味深な笑顔を浮かべ、ゆっくりと奥の白い扉のノブをまわした・・・。

 


 

マリアの身長は170センチ以上はあろうか?

ヒールも込みなので正確な身長はわからないが、

恐らく美香よりも上背があるようだ。

妖精のように華奢なスタイルのため、余計に背が高く見える。

物腰もおしとやかで、

貴族出身だと言われても誰も疑わないだろう。

彼女は焦る事も慌てる事もなく、開いた扉の中へと進む。


・・・狭い通路が再び現われた。

 カン、カン、カン・・・

床は金属のようだ、

シェルターにでもなっているのだろうか?

あんな寂れた建物の地下に・・・。

通路はすぐに終わり、

目の前には、ドアノブすらない壁が現われた。

マリアが扉の一部分に手をあてる・・・。

  ピィン!

扉は横にスライドして、タケルたちは大量の光に呑み込まれた・・・。

 


 

そこは、タケルたちが今までいた空間とは、

完全に異なる世界だったと言えよう・・・。


 「・・・現在、騎士団オデュッセウス部隊!

 三沢基地を破壊! 既に戦闘は終結した模様!」

 「ガルーダ機関部、エンジン出力オールクリアー!

 各チームリーダーは担当部門の最終チェックの報告を急げ!」


タケル達の目には、

大勢の肌の色が違う集団が、所狭しとこの広い部屋を駆けずり回ったり、

大声で指示を出し合ったりしている光景が飛び込んでくる・・・。

先ほどの部屋と同様、白い清潔感のある内装だが、

その部屋には、まるでどこか大きいビルの集中管理室か、

鉄道の中央司令室のような、大量の計器や機械類で埋め尽くされていた。

中には、入り口から入ってきたマリアやタケルに一瞥するものもいるが、

すぐに、そんなことには構っていられないかのように、自らの仕事を続行する。


タケルは目を瞬かせるだけしかできない。

だって、日本人ぽいのは2、3人だけ・・・。

あとは、顔つきも肌の色もバラバラだ・・・。

マリアは一度振り返って、タケルを促した。

 「タケルさん、ご案内します・・・。

 まずは、スサ副官であるカール・サルペドンに会いましょう・・・!」

 


次回はスサのナンバーツー、

サルペドンさん登場です。



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