緒沢タケル編4 スサ マリア・デュプレ
ぶっくまありがとんです!!
「・・・ようこそ、タケルさん。」
その、
長いブロンドの髪を垂らした上品そうな女性は、
はっきりとした日本語でタケルに向かって微笑んだ・・・。
「え、あ、・・・ど、どうも?」
そりゃあ、意表をつかれるだろう、
誰かいるにしても、
いかついオヤジか小難しそうなネクラ野郎か、そんな想像しかしていなかったのだ。
タケルが、どうリアクションをとっていいか分らずに固まっていると、
白鳥がイスを引いた。
「座れよ、・・・オレも疲れたんだよ。」
くるぶしまである白いワンピースの女性はにっこり笑う。
ファッションに詳しくないタケルでも、
多分どこぞの有名ブランドの一品だとは想像つくようだ。
「白鳥さん、ご苦労様でした・・・、
何かトラブルは起きませんでしたか?」
白鳥は背伸びしながら微笑して答える。
「あ~、ここまでは問題なく・・・。
お約束どおり・・・、タケルをここに連れてきましたぜ?」
とりあえず、タケルも座るしかない。
緊張しながら、やっとこさ腰を落ち着けてお茶をすする。
「い、いただきます・・・。」
女性はここでもにっこりと微笑んだ・・・。
年のころは・・・
外人だから判別は難しいが・・・、27、8とか・・・そんなもんか?
映画女優みたいに綺麗な人だ。
ティアラでも被せれば、どこか小国のお姫様と言っても疑いはしないだろう。
「はじめまして、私はマリア・デュプレ、
・・・噂は聞いてましたけどタケルさんっておっきいんですねぇ?」
「あ、は、はじめまして、み、みんなそう言います。」
白鳥がお茶を噴き出しそうになった。
「おい! タケル、
おまえお見合いに来たわけじゃねーんだからなぁ?」
途端にムキになるタケル。
「なんてこと言うんですか!?
違いますよ!
あんまりに想像してたものとギャップが大きいから面食らってるだけです!!」
マリアと名乗った女性は、
二人のやり取りを興味深げに見ているだけだ。
はたから見てるものがいたら、笑い出していたところだろう。
・・・だが、微笑を浮かべたままのマリアは、
これ以上、顔をほころばせるつもりもない。
笑顔でタケルをもてなすのはここまでだからだ。
別に彼女も、猜疑心が強いわけでもタケルを警戒しているというわけでもない。
・・・周りののどかな風景に、つい忘れがちだが、
世界は一歩、また一歩と確実に崩壊への道を歩んでいるのだ。
華やかな歓待などしている余裕などある筈もない。
それを示すかのように、マリアは二人の会話に割ってはいる。
「・・・お話を続けてよろしいかしら?」
白鳥も我に返った・・・何かヤバいと感じたのか?
イスにちゃんと座り、背筋を伸ばす。
・・・白鳥さんが気を遣っている?
まるで美香姉ぇと面と向かう時のオレみたいじゃねーか?
つまり・・・このマリアって女の人・・・
実は怖い人なのか・・・?
タケルはとりあえず白鳥の態度に倣う事にした・・・。
どちらにしろ、余裕がないのはタケルも同じだ。
二人の態度の変化に、マリアは安心して会話を進める事にしたようだ。
「ありがとう、タケルさん、白鳥さん・・・、
でも、余計な緊張はしなくてよろしいですよ?
少なくとも私の前では・・・。」
なんだ?
その意味ありげな言い方は?
タケルは「はぁ。」と答えて白鳥の顔を窺ったが、
白鳥は目をあわそうとしない。
ただ、首が小刻みに揺れてるようにも見える。
・・・何かを主張したいのだろうか?
その場の空気を嫌ったのか、何とか白鳥は話題を変えようとしたようだ。
「あー・・・タケル、
彼女は、お前の親父さんが生前にフランスから連れてきた女性でな、
今じゃ、スサの中でも高位の立場にいる人だ・・・。
それと、当然、こういう団体の中じゃ女性なんて少ないからな、
組織の運営そのものに関係なく、
いろんな意味で美香のアシストを行ってきた人だ・・・。」
「えっ? ・・・そうなんですか?
あ、あの、姉が・・・
生前・・・お世話になりました・・・。
あ・・・姉貴は・・・
あなたに個人的な悩みとかは相談していましたか?」
そのタケルの真意に白鳥は気づかないようだが、
マリアは十分、理解したようだ、
その美しい顔に優しい表情が浮かぶ・・・。
「そう・・・ですね?
それは私の口からは説明しづらいのですが・・・、
言える事は、美香様はとても強いお方でした・・・。
他人に対して厳しいようなことをいつも言いますが、
それ以上に自分に対して厳しくて・・・。
美香様は自分のことより、
いつも他人のことや周りばかりを気遣っていましたね。
私も女性ですから、
美香様のお気持ちは・・・やはり隠そうとしていても・・・。
でも、私が美香様にその事を尋ねると、
いつもあの方は仰っていたのです。
『みんな、頑張ってる・・・、私は私の役目を果たすだけよ、
だいじょうぶ! きっとみんな幸せになれるから!
その為に、いま頑張ってるんでしょっ?』」
マリアの話は続く。
「・・・あの方はそういう方でした。
勿論、私も私なりに精一杯、
美香様のお力になれるよう務めてまいりましたが・・・、
それ以上にあの方は、太陽のようにみんなに光を照らして・・・
果たして私は・・・どこまで美香様のお役に立ったと言えるのでしょうかね・・・。」
最後の言葉は自虐的な感情が乗っていたように聞こえる。
マリアという女性にも思うところはたくさんあるのだろう。
話の途中でタケルは嗚咽が出そうになった。
・・・あれだけ泣いたのにまた・・・。
なんとかタケルは自分の気を鎮め、
歯を食いしばって、マリアに深々と頭を下げる。
「ありがとうございます・・・、
オレ、姉貴が一人ぼっちじゃなかったのか、
すごい気になってて・・・、
オレ、スサのこと何にも知らなかったから・・・、
最近になってようやく、
姉貴が支えてたものが、とんでもなく重いものだったなんて知っちゃったから、
・・・なんていうか・・・
いたたまれないっていうか、姉貴に悪かったって・・・
オレ、姉貴に謝りたいのに・・・もうそれも・・・。」
白鳥は無言でタケルの言葉を聞いている。
いや、口を挟めるわけないじゃないか・・・。
マリアもタケルの心情は、
痛いほど分るのか、タケルに優しい言葉を投げかけた・・・。
「いいえ、タケルさん、
貴方がスサのことを知らなくても・・・、
美香様は貴方がいたからこそ、スサの総代の地位を務められたのよ?
貴方の存在が、
あの方の心の支えになっていたのだと思います。」
「だって、オレ、何もしてないのに・・・!?」
「家族って・・・そういうものじゃないのですか?」
「・・・家族・・・。」
そう・・・家族だ・・・
でも、今はたった一人・・・。
「タケルさん、私からも・・・よろしいでしょうか?」
「あ、は、はい!」
「美香様は・・・何か今わの際にお言葉は・・・?」
忘れる訳もない。
一言一句違える事なく覚えている。
「・・・はい、
『彼らを・・・止めて』 そして、『希望を・・・』と、
姉貴は、そう、言いました・・・。」
マリアはその言葉を聞いて、しばらく悩むような顔を浮かべた。
「そう、ですか・・・。
それが美香様のご意志・・・なのですね・・・。
タケルさん、あなたは美香様のお言葉を、どう思われていますか・・・?」
次回、
実は追い込まれるタケル。