緒沢タケル編4 スサ スサ到着
さて、スサの本拠地は信州の山の中なのだが・・・
「タケル、バイクは?」
「え? 勿論、乗れますけど・・・
まさか、あそこまでバイク?」
不満を言うつもりはないが、
翌日は朝からいきなりハードな内容を聞かされる。
まぁ晴天だし、気温も過ごしやすい時期なので、キツい道程でもないだろう。
「ああ、車だと小回りが利かない。
途中、渋滞があるかもしれないし、
道路が寸断されてたら、身動き取れなくなるからな、
バイクもメットもちゃんと用意してあるから安心しろ、
荷物も、剣と紋章があれば、後は何もいらない。」
「・・・うえぇ・・・。」
ちなみにタケルの免許証はどこかに吹き飛んでいる。
途中、何度かの休憩と食事をはさんで、
タケルたちは目的の場所へと到着した。
信州某地方のうらびれた山村にある小さな神社・・・、
スサの本拠地と言うとたいそうな響きだが、
そこは小さな山々の麓にぽつんとあるだけの神社だ。
周りは林で囲まれ、
周辺の民家もぽつぽつと点在するのみ。
近くには小さな売店や雑貨屋、駐在所があるが、
あとは林と田んぼ、畑ぐらい・・・
田舎でどこにでもある風景だ。
・・・道中、大きな町や道路沿いで、
いくつもの騒乱や不穏な集団を二人は目にしていた。
生活物資がまともに手に入りづらくなりつつあるこの状況で、
犯罪に走る者たちも後を絶たない・・・。
だがこの村に関しては、今のところ大きな騒ぎもないようだ。
「・・・タケルは今まで、何回ここに来た?」
「いやあ、じいちゃんが亡くなった時ですら、ここに来ちゃいませんからね・・・、
最後に来たのは、
親父たちが亡くなって姉貴と一緒に連れてこられたとき、
それと、その前・・・
3回くらいしか記憶にはないですね・・・。
こんな小さな神社だったけかなぁ?」
神社の敷地自体はある程度の広さがあるが、
賽銭箱のある古びた本殿は、
煤だらけの控えめなものだ。
山の斜面に沿って、石の階段と奥院があり、
タケルも、それぞれそういった幾つもの建物が、
どんな役割で建てられているのかは全く知らない。
敷地の端には何本もの赤い「のぼり」に囲まれた大きな石像もある・・・。
そういえばあんなのもあったっけ・・・。
馬の頭部を持つ奇妙な石像・・・。
馬の首・・・
ああ、確かこれがスサノヲの石像っつってたっけ・・・。
いや、馬頭観音とも言ってたか?
ちなみに、通常「馬頭観音」像は、
憤怒の面をした観音の額の上に、冠のように馬の頭部が彫られているものだが、
こちらはまさしく、観音そのものが馬の顔をしている。
もちろん、現代っ子のタケルにそんな知識などない。
タケルは一つ一つ、目に映るものを自分の記憶と照らし合わせていたが、
白鳥はそんなものはどうでも良いらしい。
「おい、先に落ち着こうぜ、
目的地はすぐそこだ。」
とタケルを急かした・・・。
それにしても、
・・・まぁ神社なんかどこもそうだろうが、
古臭いというか、寂れているという表現がぴったりだ。
本当にこの地に世界規模の秘密結社などあるのだろうか。
余談ではあるが、
先程の馬頭観音も、地元の子供たちの間では密かなホラースポットとなっており、
時々、肝試しのコースの一つとして活躍している。
感受性の強い子にとっては気味の悪い彫像にしか見えないのだ。
特に誰かが死んだとか呪いが降りかかるとか、具体的な話があるのではないようだが、
噂のレベルを超えないような眉唾な話でいいのなら、
いわく「見られている」ような気配がするという。
もちろん、タケルにそんなデリケートな感受性などもない。
白鳥は、入り口の鳥居から一番近くの、
比較的普通に建築された、二階建ての事務所のような建物に向かう。
とは言え、年季の入り方はここもすごい。
壁は、触るとボロボロ崩れそうな砂壁で、
出入り口の木枠は油っぽく黒ずんでいる・・・。
取っ手は金属なんだろうが、真鍮のメッキは剥がれまくりだ。
もとからタケルの思い出は、同様の記憶だけだ。
だからこそ、日浦や美香の言う「スサ」の規模が今ひとつ、ピンとこないのだ。
ギイイと音が鳴って扉が開かれる。
中は電球が垂れ下がっているが、光量は乏しく薄暗い。
ああ、確かにこんなイメージだった。
確か狭い階段を昇ると、畳の集会場があって、
窓、開けっ放しで、昔、みんな大人たちが集まって・・・
タケルが2階へと視線を投げかけると、
白鳥が再びタケルを制す。
「おい、そっちじゃない、こっちだ。」
「ふぇ?」
白鳥のカラダは、
勝手口かトイレにでも繋がっているのではないかと思われるような、
細い通路に向かいかけていた。
あれ? そっちって?
タケルの記憶にはない・・・。
やむなく白鳥の後ろに続くと、
目の前に地下へ続く小さな階段が現われた。
・・・狭っ、アンド暗っ!
「足元、気をつけろよ?」
二人は壁に手を這わせながら、ゆっくりと降りていく・・・。
地下室?
ん? この匂いは・・・
いつの間にか、芳しいお茶の香りが漂ってきた。
「おや、待ち構えててくれたかな?」
白鳥も香りに気づいたようだ。
階段を降りきると、
やはりそこにも小さな電球で照らされた、古臭い扉が現われた。
「着いたぜ、タケル・・・。」
白鳥が扉を開けた時、
眩しい光がタケルたちを照らし出す。
「え・・・え?」
そこは真っ白な壁・・・。
病院や、どこかの研究所を思わせるほどの真っ白く、明るい部屋だった・・・。
真ん中に小さなテーブルと、布張りの柔らかそうなイス・・・。
テーブルの上には暖かそうなお茶が並べられ・・・、
そしてタケルが驚いたのは、
テーブルの側に、
一人の美しい白人女性が佇んでいた事だった・・・。
メリーさん編 第三章及び外伝「精霊たちの森」参照
「ここ」では「まだ」ホラー展開になることはありません・・・。