緒沢タケル編4 スサ タケル退院
新章です。
ここでは、タケルが所属することになるスサのお話がメインです。
新キャラも登場します。
騎士団の世界侵攻は、
その後も留まる所を知らなかった。
さすがに軍事力トップのアメリカ合衆国や、広すぎる国土の中国などでは、
いまだ、政府や軍が正常に機能しているが、
オーストラリア・ロシア・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・フランス・ベルギー、
そして、勿論イギリスも壊滅的な打撃を受け、
インフラは破壊、道路は寸断、そして治安の悪化などにより、
国家としての体を完全に崩されてしまっていたのだ。
・・・なぜここまで彼らの進撃が成功したのか?
確かに、彼らの盟主ウーサーが、
英軍のトップであったことは最大の要因として挙げられよう。
だが、騎士団の構成員は圧倒的に人員が少なく、
軍事面・戦略面でも、効果的な作戦を展開するのは不可能に思われていたのだ。
そこで彼らが取った方法は、
通信手段の無力化、すなわちコンピューターのハッキングやウィルス拡散、
電子制御装置の操作等、徹底的に水面下での攻撃を優先させたのである。
更に言えば、通常の軍事作戦では、
敵の中枢を征圧したり、重要都市を占領する事なども必須だろう。
・・・だが彼らの目的は「政権奪取」でも「国家樹立」ですらない。
制圧した地域を守る必要は一切ないのだ。
そのことが、人員不足という致命的ハンデを解消する事に繋がっていたのである。
いまや、政府軍自体がレジスタンスのように散発的な反撃を試みるだけである。
そして当然、元から政情不安定な地域では、
最初から存在していた反政府系の組織が息を吹きかえしはじめ、
例え騎士団が近くにいなくても、
常に戦火が絶えない状態になってしまっていた・・・。
それは日本においても同様である。
住宅街への直接的な攻撃はないが、
米軍基地・自衛隊駐屯地はあっという間に機能を封じられた。
もちろん、官公庁・発電所・大都市などの経済的な施設はいの一番に狙われ、
運悪く、その地で働いている者は無残にも命を失っていた・・・。
高速などの幹線道路も破壊され、
日本の都市機能、流通機能は完全に麻痺してしまっていたのである。
そして・・・彼は・・・。
緒沢タケルは、
二、三日検査入院というカタチで、病院のベッドを過ごした。
最初は警察の事情聴取もあったが、
すぐに日本の各地でテロや、大事件が起こり始め、
警察署も、個人宅の爆破事件に対応できる余力を失ってしまったのだ。
・・・むしろ、タケルにとってもそのほうが都合がいい。
もう、誰とも口を聞きたくなかった・・。
何も考えたくなかった。
口を開けば、自分の惨めな泣き言を止める事はできないだろう。
考えれば考えるだけ、
頭に浮かぶのは、美香と今まで暮らしてきた日々の出来事。
何気ない日常、
夕飯を一瞬に食べたり、
しょうもない事で怒られたり、
スリッパを投げられたり、下らない話で盛り上がったり・・・。
もう二度と、美香とのそんな暮らしを送る事はできない。
もう、彼女の声を聞くことも、
怒った顔や笑顔も見ることはできないのだ。
たった一人の肉親だったのに・・・。
・・・タケルはすっかりやつれはて、頬骨が浮き出ていた・・・。
やつれはてたというか、
体中の水分が、涙として出て行ってしまっただけなのだろうが・・・。
ここにいてもしょうがない・・・。
あの爆破事件と、その救出される過程で、
擦り傷や打撲、裂傷くらいのダメージを負ったが、
ほとんど全て肉体の表面だけのもの、
安静にするほどのものではない。
その気になれば、いくらでも暴れまわる事も出来る。
そんな折、
ちょうどいいタイミングで白鳥亮が病室にやってきた。
憔悴しきっているのは彼も同様だったが、
もはや行く宛てもないタケルには、
少なくともスサの事情を知っている白鳥が来てくれた事はありがたかった。
「・・・タケル、具合はいいのか?」
「はい・・・、オレのほうは・・・、
入院する必要もない程度です・・・。」
白鳥の方も、その後なんと言葉をかければいいのか迷っていると、
ベッドから降り、外出着に着替え始めたタケルが先に口を開いた。
「白鳥さん、頼みがあるんすけど・・・。」
「お? おお! なんだ!?」
「何日か、泊めてもらえませんか?
・・・行くとこもないし・・・。」
「なんだ、そんなことか、
勿論、構わない、
・・・というか、オレはそのつもりで来たんだぜ?
もっとも、落ち着いたらなるべく早く、
信州のスサ本部におまえを連れて行きたいんだ。」
タケルは白鳥の方を向かずに話を聞いていたが、
白鳥の話の最後を聞いて、シャツのボタンを閉じる動作をやめた・・・。
「信州へ?」
白鳥はタケルの反応の仕方に違和感を覚える。
「・・・? ああ、そうだ、
オレは参加できる立場じゃないが、
最後の集会で美香は、これからのスサの活動に、
お前を参加させることを皆に承認させたらしい。
・・・それに彼女が・・・死ん・・・いや、今、
次の総代候補であるお前がいなきゃどうにもならん、
今のところ、スサの関係者でお前と面識があるのは、オレしかいないからな、
だからこうやって、オレが来たんだ。
・・・お前も美香から聞いているんじゃないのか?」
白鳥は、タケルの心中がわからない・・・。
タケルは何に気を取られているというのか?
タケルは無言で再び身支度を整える。
いったい、どうしたんだ?
姉の死で、普通の精神状態ではなくなってるというなら、
わからなくもないが・・・。
タケルは白鳥の質問には答えない。
もっとも、それより目の前の問題から先に話をつけたかっただけである。
「白鳥さん、すいません、
いろいろと・・・、
実は入院費用・・・現金がなくて・・・。」
それは当然だろう。
家ごと吹き飛んだんだ、
銀行にはともかく、タケルは現在一文なしである。
もちろん、キャッシュカードも通帳も印鑑も、保険証までもどこかに吹き飛んでしまっているけども。
携帯電話すらタケルの手元にはない。
「気にするなと言ったろう、
お前の生活費くらいオレの小遣いでどうにかなるし、
今回の入院費なんかはスサに請求するから、お前も心配すんな・・・。
それよりも、だ・・・。」
それよりも・・・と、
白鳥は騎士団の侵攻の話にシフトさせようかとも思ったが、
タケルの心情が今ひとつ掴めない・・・。
少し、言いかけて話の内容を変えた。
「・・・友達とかのほうはいいのか?
何人か見舞いには来てくれたんだろ?」
退院手続きを取っている間、
待合室で静かに会話をする・・・。
この病院も、
電源確保や薬品の納入などでてんてこ舞いらしい。
廊下を職員や、製薬会社の営業らしき者たちがひっきりなしに慌て顔で往来している。
本来、白鳥ものんびりしてる場合でもないのだが、今はタケルをどうするかが最大の優先事項なのだ。
だが、肝心の会話の方は穏当とも言えないかもしれない。
「友人っすか・・・。
追い返しましたよ・・・全員。」
驚く白鳥。
「な、なんでっ・・・?」
「いや、見舞いに来てくれたことは、ホント嬉しいんすよ・・・。
でも、オレには・・・
いろんな事がここのところありすぎて、
あいつらに気を遣う余裕すらないんです・・・。
慰めてくれるのはいいけど、
オレはあいつらに笑顔をむけることもできないんす・・・。
どんな顔、作ればいいんですかね?
悪いとは思ってます。
でも・・・これ以上、
オレの近くにいたら・・・あいつらだって、
巻き込まれることも・・・。」
シェリー
「フッフッフ、私はシェリー、
この程度のセキュリティなんて私の前では抜け穴だらけです!!」
ライラック
「す、凄いなシェリー!
(まさか何年か前に騎士団で保護した女の子がここまで活躍するなんて)」
シェリー
「は、はい! ライラック様ぁ!
私、頑張ります!!」
ライラック
「う、うん、これからも宜しくね。」
マーゴ
「さぁっすがライラックねぇ〜、
あの子、もうライラックにメロメロだわぁ。」
ライラック
「マ、マーゴ、あのさ、
もしかして彼女をオレのところに配属させたのってまさかキミが・・・。」
南の島のシェリーちゃん、こんな所にいました。