緒沢タケル編3 永遠の別れ 天叢雲剣
「なっ・・・!
美香姉ぇッ!! こ、っこれ!?」
間違いない。
家の柱か天井の梁か分からないが、
それが一本、美香の体を貫いているのだ。
「タケル・・・あなたは無事・・・なのね・・・
よかった・・・。」
「な、何いってんだよっ!!
早くここから出ないと!!
早く病院にっ!!」
「もう・・・ムリよ・・・
レスキュー来たって・・・間に合わない・・・
あなただけでも・・・。」
「ま・・・まさか、美香姉ぇ・・・オレをかばって!?
そ、そんな・・・冗談じゃねぇ!
今 助けるからよっ!?
オレのパワーなら・・・こんな瓦礫っ!!」
「ダメ! 言ったで しょう・・・!」
美香も腕は自由らしい。
片手をタケルのカラダにあて、その行動を戒める、
・・・だがもう腕に力は感じられない。
「だって・・・だってこのままじゃあッ!」
タケルの声は泣きそうだ。
彼にはどうすればいいか、もう判断できないのだ。
あれほど強く誓ったのに・・・、
これほど強くなったのに・・・、
いつもひたむきな姉を支えると、
自らに言い聞かせた矢先にこんな・・・。
だが当の美香は、
こんな状況でも諦めていなかった・・・。
むしろ、彼女はこの状態に、
一つの満足いく回答を見出していたのである。
もう・・・きっと自分は助からない・・・
でもタケルは無事らしい・・・、
今、私の胸にはお父さんから受け継いだ「紋章」が・・・
そして右手には、これがある!
握りしめたままの・・・
スサの最大の神器、天叢雲剣・・・!
そして・・・
『お嬢さん・・・
アンタの生まれてきた役目を果たす時が近づいてきたよ・・・。』
あの片目のお爺さんの伝えたかったことは・・・。
美香は頬をタケルにこすりつけるように動かした・・・。
「タケル・・・
あなたに 渡すわ・・・。」
「なっ 何を!?」
「私が お父さんや・・・おじいちゃん達から
受け継いできた全て・・・。」
「美香姉ぇ・・・こんな時に!」
だが彼女は弟の反論を許さない。
「タケル・・・
私のカラダを支えて・・・早く 」
「何するつもりなんだよ!?
ムチャは・・・!?」
「言われたとおりに・・・
おねがい・・・。」
そのか細い声に、
タケルが逆らえるわけもない。
タケルは美香の上半身に手をまわした。
慎重に、ゆっくりと・・・。
背中に突き刺さった柱を無視して動かすわけにはいかない。
ここからどうすれば・・・!?
「・・・そのまま私を押さえていて・・・
これから・・・
私達の上にあるもの・・・
全て吹き飛ばすから・・・体をなるべく上向きに・・・。」
「なんだって!?」
タケルは耳を疑う。
この状況で、どんな手段があれば、そんな真似が出来るというのか。
「いいから・・・
暗くても 少しは見える?
私の右手に天叢雲剣が・・・。
私達の・・・
緒沢家の本当の力を・・・いま・・・
見せるから・・・。」
タケルには美香が何を言い出したのか全く理解できない。
だが、
その言葉を聞くしか彼には出来なかった・・・。
例え、顔が見えなくても、
・・・その声に力が失せてしまっていたにしても、
その迷いない行動には、タケルは逆らう事はできないのだ。
美香は体勢を決めたらしい。
こんな状況で何をしようというのだ?
・・・美香は右手を震わせながら、
出来うる限り剣を高々とかざす。
タケルも、
美香のカラダの動きでそれが分ったので、
彼女の上半身をなるべく自分のカラダで支え、
自分の腕の伸びる限り、彼女の右腕に沿わせて美香の右腕をも支えてみたのである。
そのおかげで、美香の腕から震えが止まる。
顔は見えない。
だがその時、美香は満足の笑みを浮かべていた・・・。
タケル・・・ありがとう・・・
タケルにも何かの異状が起きているのが分った!
耳に聞こえるか聞こえないかのような振動音・・・!
そしてその視界に、
美香のカラダを包み込むかのような青白い光が・・・!
いつしかその光は、
タケルのカラダまでをも包み込み、
・・・そして最後に、
暗闇を完全に吹き飛ばすかのような、
美香の張りのある声が響いた・・・!
「私は、
緒沢家総代・・・緒沢美香!
剣よ・・・!
今こそ、その大いなる力を我に貸し与えたまえ!!」
パリッ パリッ・・・!
青白い光は、
さらに幾筋かの電光を伴いながら剣に集約されていく・・・!
いったい・・・
いったい何が起こってるというのか!?
カラダに突き刺さる柱の存在も、
激烈なる痛みも、
もはや美香を怯ませることなく、
彼女はその精神の力、意志・・・
そして命の全てを神剣・天叢雲剣に注ぎ込んだ!!
そして!
「・・・叫 べ ッ !
い か ず ち ッ !!」
全てを呑み込む音と光があたりを包み込むっ!
耳をつんざく雷鳴と巨大なエネルギーの奔流・・・!!
それは、
ほんの一瞬のことだったのか、
それとも何十秒もの間が生じていたのか。
今度は先ほどの爆発のように、
タケルが意識を失う事はない。
再び何も見えなくはなったが・・・、
その腕の中にある、
姉・美香のカラダの存在は確かなものだったから・・・。
先にタケルが状況の変化に気づいたのは、
天井の方から自らに吹き付ける風の冷たさであった・・・。
空気が完全に今までと違う。
いつのまにか・・・
自分たちを覆っていた天井の残骸が吹き飛んでいたのである・・・。
暗闇の中にぽっかりと星空が見える。
その事に気づいた時、
タケルはカラダを自由に動かせる事に気づいた・・・。
周りには壁や家具・残りの残骸などで、
やはりごちゃごちゃになってはいるが、
気をつけさえすれば、この状況から脱出するのは可能に見えた・・・。
「美香姉ぇ・・・!
すげぇ!! オレ達助かるぞ!!」
タケルは助かりました。
次回、
最後の会話です・・・。