緒沢タケル編3 永遠の別れ 残酷な現実
突然、
タケルたちのカラダが激しい衝撃と爆音に包まれる。
夜の静かな街・・・三鷹の閑静な住宅街に、
全てを破壊するような大音響が沸き起こった・・・!
まだ、人々が眠りに就くような時間でもなく、
近隣の者達が次々に窓を開け、玄関へと飛び出す・・・。
赤い火の手こそ見えないが、すぐに焦げ臭い匂いと異臭が漂い始め、
このまま待てば、大規模の火災が起こる事も容易く想像できる。
衝撃で隣近所の窓ガラスは破壊されてはいるものの、
爆発そのものは、緒沢家内部に向けられていたようで、
今のところ、近所に死傷者は出てはいない模様・・・。
近隣住人は、すぐに消防車と警察を呼び寄せるが、
既に、この家の者は・・・。
・・・ここは?・・・オレ・・・
一体、いま、何が・・・!?
タケルが意識を覚醒させた時、
彼は、自分の身に何が起きたのかも理解できてはいなかった。
余りにも激しい衝撃に襲われたため、
現状を認識する事もなく意識を喪失させてしまっていたのだ。
オレ・・・何がどうなって・・・。
とにかくカラダの感覚を取り戻さないと・・・。
カラダ中がいてぇ・・・!
手足が・・・
動くとこと、動かねぇとこ・・・
だが指先は動いてる・・・、基本的に無事だ。
目が見えない・・・
これは暗闇のせいか?
まだ強い光を浴びたみたいに、まぶたに光が焼き付いてる・・・
耳もだ・・・
キーンとしたまま、何も聞こえない・・・・。
今、オレは倒れこんでるのか?
この体勢・・・、
暖かい・・・
カラダの上の一部だけ暖かい・・・
そして柔らかい・・・。
この焼け焦げた匂いに混じる・・・香り・・・
いつも嗅いでいる匂い・・・。
この匂いは・・・美香姉ぇの・・・
何がどうなってる!?
腕を動かせ・・・!
なんでこんな硬いものが回りに・・・チクショウ!
右手が自由に・・・、
クッ・・・!?
タケルが腕を動かした途端、右手の皮膚が切れるような痛みが・・・!
だが、そんな痛みはどうだっていい。
早くこの手を、
・・・自分のカラダの上に覆いかぶさってるものが何なのか、確かめないと・・・!
布・・・いや服だ!
そしてこの感触は・・・、
人間の腕・・・これは・・・その先には指!?
美香姉ぇの細い指・・・!!
そんな・・・
じゃあ、これは美香姉ぇの・・・
カラダ・・・首・・・髪・・・。
「み・・・美香姉ぇ・・・美香姉ぇっ!?」
・・・ケル、
・・・タケル・・・無事? 生きてる・・・?
「美香姉ぇっ!!」
ようやく聴力も回復してきた。
姉の体をさすると、
美香もそれに合わせるかのように、カラダを動かす。
どうしてこんな事に?
家でも崩れてきたのか?
じゃあ、自分たちが動けなくなってるのは天井部分が落ちてきてるからか?
とにかく今のこの状態が、
なんでこうなったのか理解し、早くこの状況から脱出しないと・・・。
タケルの頬をシャリ感のある髪が触れた。
美香の顔がこんな近くにあったなんて・・・。
「タケル・・・あなたは無事・・・?」
美香の顔の重さも存在感もそこにある。
「ああ! 大丈夫だ! ただ、抜け出らんねぇ・・・!
思いっきりカラダを動かせば何とかなるかもしれねぇけど・・・、
周りに何かあるがわからねぇから危険すぎる・・・!」
「え ええ、動いてはダメ・・・ そのままで・・・」
タケルは違和感を感じた。
何かがおかしい。
家が崩れてきた事?
何で突然?
いや、崩れてきたんじゃない、これは爆発?
違う!
それよりも、今、気になるのは、
自分の耳元の、
美香姉ぇの声・・・いや呼吸だ!!
まるで・・・息すら辛うじて行っているかのような・・・、
「美香姉ぇ!
美香姉ぇこそ・・・ケガは・・・!?」
そういってタケルは姉のカラダに腕を這わせた。
・・・まさか。
「うっ 」
美香の口元からうめき声が・・・!
タケルの手が止まる・・・。
なんだよ、これ・・・?
これは・・・
ここは美香姉ぇの背中のはず・・・ここになんで・・・、
なんでっ・・・どうしてだよぉっ・・・!?
美香の背中の中心より、やや外れた所に、
太い木の柱が突き刺さっていた・・・。
・・・そういえば、自分の腰元がやけに暖かい・・・。
障害物のため自分の腰には手は届かないが、美香の背中には・・・。
タケルの長い右腕は、美香の細い背中を通り越し、
自らの悪夢にも似た想像を打ち消そうと、
先の柱の角度から・・・その先にある物を・・・
いや、あってはならないものを確かめようとした・・・。
それはドロリと濡れていた・・・。
角度から見て間違いなく、美香の背中に刺さっている材木である。
それが・・・
それが美香のわき腹を突き破って伸びている・・・!!
そこから滴り落ちる血液が、
・・・タケルの腰元を濡らしていたのだ・・・!
次回「天叢雲剣」