緒沢タケル編3 永遠の別れ 最後の時
「ロンドン橋落ちる、落ちるよ、ぼくのメリーさん・・・ンェェェ」
2日分に分けようかと思いましたが一気に行きます!!
・・・
それからまた・・・数日が過ぎていた・・・。
タケルは大あくびをしながらテレビを見ている。
美香はスサの定例会で、今日は信州に出かけている。
いつもなら、もうそろそろ戻ってくる時間だと思うが・・・。
パッパ! パッパ!
「なんだ? 臨時ニュース?」
テレビ画面の上部にテロップが流れた。
何だろう? また地震か、それとも列車事故でも?
「・・・あ~、あ?
イギリス・・・で 爆破テロ・・・
ロンドンブリッジ崩壊・・・死者多数・・・
はぁぁ、物騒だねぇ・・・。」
物騒だな、とは思いつつも、所詮は遠い外国の出来事である。
すぐに、もとの番組の内容に意識を戻すが、
タケルもこの所のいざこざで、
どうも、小さな事柄も気になるようになってきた。
念のためにチャンネルをNHKに変えてみる。
『・・・皆様、この光景をご覧いただけますでしょうか?
ロンドンの街が炎に包まれております・・・!
先ほど、日本時間の午後8時半に、
ロンドンブリッジの爆破のニュースをお伝えしたばかりなのですが、
たった今、王立取引所からも閃光と火の手があがりました・・・!
それだけではありません、
官庁や駅・地下鉄各所で被害が報告され始めました!!
今後、どれだけの被害が発生するのか、全く想像できません!!』
タケルの顔が青ざめてきた・・・。
時々、ニュースや新聞で、
「大ニュース」として取り上げられるテロ事件の規模を遙かに上回っているのだ。
『・・・続報です。
マンチェスター、バーミンガム、リバプール・・・
大都市周辺で、続々と道路や橋の破壊の情報が入ってきています!
情報が錯綜しているため、その詳細は正確にはお伝えできません!
・・・繰り返します、只今、ロンドン及び各都市で・・・』
「・・・これって・・・ 」
「ただぁいまぁ~。」
美香が帰ってきた。
声の様子からして、まだこのニュースは知らないだろう。
美香はダイニングの明かりを目指して、タケルの元にやってくる。
「今、帰ったわ、ただいま、タケル・・・。」
タケルは「おかえり」も言えず、うろたえた表情で美香を振り返る。
辛うじて指先を画面に向けた・・・。
その行為が何を意味するか、
一瞬、美香は戸惑ったが、
すぐに画面の映像と、興奮するニュースキャスターの声で全てを把握できたようだ。
「タケル・・・これ、いつ!?」
「た、たった今だよ!
すげぇよ・・・!
イギリスの大都市ほとんどで同時テロだって・・・!
これ・・・どこの誰が・・・!?」
イギリスと聞けば、
もうタケルも騎士団の事はすぐに想起できる・・・。
だが、日浦義純の言動と、
この大規模テロとをすぐに結びつけるなんて事は思いも寄らない。
寧ろ、
テロを起こした者達を取り締まるのが、彼ら騎士団の仕事では?
とすら考えていた。
だが・・・。
「タケル、そのままニュースを聞いていて!」
すぐに美香も、この異常事態に気持ちを対応させ、
次の行動をとるべく携帯を開いた。
「もしもし・・・! 美香です。
ニュースは・・・聞いたんですね?
情報を・・・ええ、イギリスだけでなく、
世界各地の全ての拠点から情報を集めてください。
スサも全員緊急招集を・・・!
最悪の事態を想定してください・・・。
デン・テスラと迎撃システム・戦闘体勢の最終確認を・・・!」
美香の電話の内容に、
何かとんでもない単語が含まれていた気がする。
聞き間違いじゃないよね?
スサの全容すら知らされていないタケルには、
ニュースの音声以上に電話に気をとられる。
・・・もっとも、美香の電話はすぐに終わった。
タケルは心配して声をかける。
「・・・今のはスサの人?」
「そうよ、
もしかすると、私もまた戻らなければならない・・・。」
「でももう電車ギリギリだぜ、夜行か?」
「バカね? 車に決まってるでしょ!
緊急事態なのよ、手段は選んでられないわ!」
「・・・美香姉ぇ、これって・・・。」
「・・・なに?」
「イギリスって・・・日浦さん、今いるんだよな?
まだ日本帰ってきてないの・・・?
あの人たちの・・・騎士団は・・・?」
「・・・私から・・・電話してみるわ・・・。」
美香は意を決したように、今一度電話をかける。
・・・なんて聞けばいいの?
タケルはまだ気づいていないかもしれない。
当たり前よね、
あの人が、こんな事をしでかすなんてできるわけがない!
でも、これは私がタケルに言った事でもある。
『あの人が信用できたとしても・・・』
騎士団そのものが信用できるわけではない!
騎士団の思想の危険さはかねてから指摘されていた。
だからこそ、お父さんの代までスサと対立していた・・・。
最近は世界のテロや危険団体の摘発に力を入れていたから、
スサと衝突する事はなかったのだけど・・・。
「・・・・・・。」
「美香姉ぇ・・・。」
電話には誰も出ない。
思いつめて首を振る美香・・・。
「ダメ・・・、
携帯も探偵事務所も誰も出ない・・・!」
「そんな・・・!」
ガサッ・・・!
「・・・今の音は?」
「庭のほうじゃねーか・・・? ・・・ネコ?」
この辺にも野良猫なんていっぱいいる・・・、
普通ならそう考える・・・。
だが、今は状況が状況だ・・・。
それに・・・
もし、この大規模テロが騎士団によるものなら・・・、
彼らが暴走してしまったと言うなら・・・、
対立組織であるこのスサの総代を狙う事も・・・!
「タケル・・・!
お爺ちゃんの部屋に行って、あの剣を持ってきて!」
「ええっ、何で今、こんな時に!?」
「早く!!」
タケルには全く理解できない。
外の音は・・・野良猫じゃない?
だとしても、
国宝級をも上回る剣なんか今必要か・・・?
暴漢だとしても、
こないだみたいに木刀ぐらいでいいんじゃ・・・!?
タケルには剣を触れない。
なので、収められた箱ごと持ってくる。
いつの間にか美香は、
首からあの大きなネックレスをつけていた。
「ありがと!」
そう言いながら、
美香はすぐに朱く輝く神剣・天叢雲剣を取り出した。
「美香姉ぇ、こんな時にどうするんだよ、そんなもん!
いくら暴漢が襲ってきたとしても・・・。」
「下手したら暴漢ぐらいでは済まないわよ・・・
暗殺者・・・タケル、素手で自分の身を守れる!?」
「はぁぁっ!?」
「今はニュースはいいわ、消して!
・・・それで耳を済ませて・・・家の周りの気配を・・・!」
言われるままにタケルはテレビを消した。
まさか、なんでこんな時に侵入者が?
いや、侵入者じゃなくて暗殺者って言ったよな?
それもこないだの外人のチンピラの時とは、美香の対応が違いすぎる。
それとも、このイギリスの大事件と関係があるとでもいうのだろうか?
二人は無言でダイニングをゆっくり出る。
戸締りは問題ないはずだ。
さっきの気配の主は、庭にいるままなのだろうか?
美香もタケルも行動の目的を明確にしたならば、後は会話はいらない。
お互いの意思疎通は、姉弟ならではの阿吽の呼吸で理解できる。
今まで、たった二人で暮らしてきたのだから、
たった二人だけの家族なのだから・・・!
そして・・・庭のいた気配は、
まさしく猫や小動物などではなく、
一人の外国人男性であった・・・。
だが、彼は既に目的を終えていた・・・。
タケルがテレビに見とれてる間に、
この年代物建築の緒沢家の何箇所か、
外壁に悲劇的な「ある物」を取り付けていったのである。
その「ある物」には、
後々足がつきそうな、特別な道具は使われておらず、時限装置すらない・・・。
彼は目的を終え、
美香の帰宅と同時に、この家から外へと避難したのである・・・。
今、緒沢家から200メートルほど離れたビルの非常階段に、
一人の男が立っていた・・・。
先ほど緒沢家に侵入した男の上官である。
暗がりで顔の判別はつかないが、欧米人のようでもある。
そして彼の腕には暗視スコープのついたライフルが・・・!
そう、
・・・今まさにそのライフルの銃口が、
緒沢家に取り付けられた、誘爆式の液状爆弾の起爆装置に向けられていく・・・。
特殊な塗料による光が、スコープの中に浮かび上がり、
・・・ライフルの照準は決まった・・・!
男は、
・・・ゆっくりと引き金を弾く・・・。
「さよなら・・・緒沢美香・・・。」