緒沢タケル編3 永遠の別れ 祈り
タケルの目が光る。
今回はタケルの見込みは間違ってないようだ。
美香も珍しく自分の発言にうろたえてしまう。
「りょーかい・・・!
美香姉ぇの気持ちはわかったよ(白鳥さん、かわいそうに・・・)、
その気になったら言ってよ。
立場がどうこう言われたって、
オレは美香姉ぇの味方するかんな?」
「・・・ばか・・・。」
美香は恥ずかしいのか照れくさいのか、
横を向いてしまう。
こういう姿を見ると、やはりタケルも男だ。
絶対に美香姉ぇはその気になればもてる!
・・・と確信できる。
なんとか美香姉ぇには幸せになってもらいたい。
日浦さんだって・・・
あの人には特定の彼女とか他にいるのだろうか?
結婚とかしている気配はなかったが・・・。
今度会ったら、そこも何気なく聞いとくか?
「だいたい、日浦さんとは電話するだけなの?」
「たまによ・・・、
別にどっちがかけるってこともないけど・・・。」
美香は横を向いたままぶっきらぼうに答える。
・・・こういう態度をとるのも珍しい・・・。
「爺ちゃんの葬式以後は会ってないの?」
「・・・ごくまれに・・・
食事くらいは・・・。」
「なんだよ?
けっこういい感じなんじゃ?」
「あなたが想像するような雰囲気じゃないからね?」
ようやく首を元に戻した美香。
「会って・・・メシ食うだけ?」
「そうよ?」
「お酒飲んで、甘く切ないムードになって・・・」
「なりません!」
そしてタケルは致命的な一言を吐いてしまう。
「ま、まさか、美香姉ぇ、
その年で処じょ・・・」
スパァン!!
本日二度目のスリッパが今度はタケルの顔面に!
マジでこれは痛かったらしい、
タケルの目から涙が出てた。
「わ、悪かった、
ごめんなさい、もう言いません・・・!」
タケルも、自分で虎の尾を踏んでしまった事は理解できた。
もう、ほんとにこれ以上はヤバい・・・!
美香は無言で立ち上がり、
床に転がっている一対のスリッパを回収する。
きっと今日は、もう口を利いてくれないかも・・・?
タケルは、
美香がこれ以上、暴れない事を確認すると、
二階の自室に避難することにした。
・・・でも最後に一つだけ・・・。
タケルは階段を昇る直前、美香にもう一度だけ話しかけた。
「美香姉ぇ、ほんと悪い、
でも・・・、
騎士団とスサ・・・
仲良くできるといいな・・・?」
彼女はすぐに答えなかった。
しばらくして、
顔を少しだけ、階段の方へ向け、
タケルに薄い笑みを浮かべた・・・。
「そうね・・・、そうだったら、
ホントにいいでしょうね・・・。」
タケルはその時、
美香の言い回しに少しだけ違和感を感じた・・・。
だが、先ほどの喧騒もあることから、
あえてその部分には突っ込まなかった・・・。
少しだけ首を上下に動かして、タケルは階段をあがる。
「タケルー?」
「あ?」
途中で呼び止められ、
カラダを折りながら、タケルは階下をのぞく・・・。
なんだぁ?
今回はふざけた気配は感じられない。
「仮によ?
別に日浦さんのことは置いといて・・・。」
「・・・ああ。」
「もし、スサのみんなから反対が出れば・・・
私は総代を務められなくなるかもしれない・・・、
その時は・・・。」
タケルもその先の事態は察しがついた・・・。
そしてそのセリフを美香に言わせるわけにはいかないことも・・・。
「・・・言ったろ?
オレは美香姉ぇの味方だ。
オレが美香姉ぇ、押しのけて総代に就いちまえば、
美香姉ぇは自由の身になれるんじゃねーのかぁ?」
タケルもまだ、
スサの総代に如何なる義務や資格が必要か、自覚できているわけでもない。
事実、
今、自分で言ったセリフの重大さに、
「しまった」とも思い始めたが、
もう言ってしまったことは変えられない。
腹を括るしかないか・・・。
だが、
彼女も話がそんな単純なものではないことは、誰よりも美香本人がよく知っている。
今この場で重要な事は、
タケルが自分を案じてくれるぐらいに成長した事・・・、
それだけで十分なのだ。
美香は顔を下に落とす・・・。
・・・もうこの子には・・・、
いや、タケルにはお母さん役もお父さん役も必要ない・・・。
これからは、
緒沢美香として、
一人の女性として、自分の事を考えられる時間もできたということなのだろうか?
両親が亡くなって、
スサのこと、騎士団との関係、タケルの教育、学業・・・、
青春をその全てに費やしてきた美香には、
自分自身のことを省みる余裕なんてありはしない。
まわりのみんなに祀り上げられ、
その役目をこなしていさえすればそれで良かった・・・。
でも、これからは・・・少し・・・、
自分の夢を見ても・・・。
「タケル・・・。」
「んぉ?」
「ありがと・・・。」
美香は顔も起こさず・・・
手だけ振ってタケルに応えた・・・。
タケルはその言葉の真意を理解したわけではなかった。
単純に、
美香の身を案じたことへの礼かと思ったようだ。
顔をこっちに向けないのも、
単にこっぱずかしいだけなんだろう、
そう思うだけだった。
「ああ、じゃな。」
そしてタケルは再び階段を昇る・・・。
美香はしばらくすると、
祖父の部屋に入り、
あの・・・、
緒沢家の継承者の証、
いぶし銀のネックレス・・・、
「紋章」と「天叢雲剣」を引っ張り出した。
祖父母の部屋には、
曽祖父の写真も、両親の写真も飾られている・・・。
美香はそれら一人一人に、両手を合わせお祈りをした。
彼女は一体、何を願ったのか・・・、
それとも自らの先祖に、
何かを誓ったのだろうか・・・。
それは誰にもわからない・・・。
ある日のレストランでの会話
日浦
「そう言えば美香ちゃんは、
緒沢家の総代やってなかったら、
何かやりたい事とかあったのかい?」
美香
「えっ? や、やりたい事ですか?
えーとぉ、そーですねー、
子供の頃は確かパン屋になれたらとか思ってたかも・・・。」
日浦
「パン屋さん? また何で?」
美香
「そ、それはあのー、自分でも美味しいパン食べ放題かなって・・・。」
日浦
「あはは、何だいそれ!
ある意味すっごい女の子ちっく!」
美香
「・・・ううう、言わなきゃ良かった、
恥ずかしぃ・・・。」
タケル
「・・・いいふいんきじゃねーかーっ!!」
(タケルには何故か変換できない)
次回!!
騎士団側で動きが・・・。
もうほのぼのシーンはありません。