緒沢タケル編3 永遠の別れ 儀式終了
「・・・ふぅぅ~。」
「み、美香姉ぇ!?」
見れば美香の足元もおぼつかない。
タケルも我に返って美香に駆け寄る・・・
って足が痺・・・!
「イテテテテテッ!」
「あははは、
・・・座りっぱなしはつらいでしょ!?
・・・ておっとぉ?」
あまりの痺れに、
タケルは思わず前につんのめり、美香にもたれかかってしまう。
なんとか腕を床について、
激突と言うほどの事態は避けられたが、
カタチとしては、タケルの左腕が、
美香の肩を抱きつくような体勢になってしまった・・・。
「あっ! 美香姉ぇ、わりぃ・・・!」
美香は多少、のけぞりながらも弟の巨体を受け止める・・・。
「・・・タケル、大きくなったわねぇ・・・?」
恥ずかしそうにタケルはカラダを起こした・・・。
「な、なんだよ? 今更・・・。」
美香は弟の腕を掴まえながら、
今一度、タケルの瞳をじっと見つめる。
「刻み付けた・・・?
『祓い』の舞を・・・?」
「・・・何ていうか・・・、
ああ、一応は・・・。
オレもこの後、あの舞の練習をするのか?」
「・・・今は必要ないわ、
すぐに練習しようと思っても、
なかなか型どおりにはカラダを動かせるはずもないし・・・。
この後はイメージトレーニング・・・。
しばらくは頭の中で、私の動きを何度も何度も反復させなさい・・・。」
「わかった・・・
りょーかい、やってみるさ・・・。」
しばらく二人はその体勢を解かなかった・・・。
タケルも足のしびれが取れないし、
美香も動きっぱなしで疲れていた・・・。
そして何よりも、
この二人っきりの姉弟の、
気持ちが通じ合う時間そのものが、これまで滅多になかったからだ。
二人とも、たまにはこんな事もありかな、とでも考えていたのだろう・・・。
実際、時間としては2分も経っていなかったかもしれない。
二人はどちらが先に、ということもなく立ち上がった。
「足は大丈夫?」
「ああ、なんとか、まだ感覚が変だけどどうにか・・・。
美香姉ぇは?」
「咽喉渇いたわ・・・、
このまま着替えたら、お茶でも飲みたい所。」
「じゃあオレ、先に着替えて白鳥さんに伝えてくる。」
「お願いね、
すぐ行くけど、タケルからも白鳥さんにお礼、言っといてね。」
「あー、わかった、それじゃあな。」
そして、タケルは出て行った・・・。
美香は一人、道場で佇む・・・。
これで・・・
タケルに伝わったろうか?
お爺ちゃんや、お父さんから受け継いだもの・・・。
私は・・・、
タケルに伝える事ができたのだろうか・・・。
スサには、私ですら未だに解き明かせない謎がある・・・。
それを解明しようとするかどうかは、
継承者の自由だけれども・・・。
そういった不思議な部分は置いといても、
タケルにその鎖を繋いで行く儀式は、
これで・・・終わったのだ・・・。
後は・・・。
そのとき・・・、あの老人の・・・
『お嬢さん・・・、
アンタの・・・生まれてきた役目を果たす時が近づいて来たよ・・・。』
美香の脳裏に、
いつかの浮浪者の言葉が何故か甦った・・・。
私がすべき事・・・。
生まれてきた役目・・・。
いいえ、それはきっと・・・。
「お? 終わったのかい? お疲れさん。」
白鳥は応接間でテレビを見ていた。
ニュース番組をやっていたが・・・。
げ!
例の製薬工場の火災の報道だ・・・。
まぁ、特にやばい情報は漏れてないみたいだが・・・。
タケルは何も気にしてないかのように当初の目的を告げる。
「あ、あの・・・、
ええ、おかげさまで、
そ、それでお茶かなんか、用意できたらと思って・・・!」
「ああ、わかった、すぐに用意するよ、
ん? どうしたんだ? 」
「い、いえ、なんでもねぇっす・・・!」
ニュースは速報というものでもないので、
とりたてて、ショッキングな内容を含んでいるものではない。
死者が出ているものでもないので、
番組の中ではたいした扱いでもなさそうだった。
ローカルなニュース番組らしく、
その後には、近所の小学校でニワトリ小屋が荒らされて、
タマゴが盗まれたとか、
そんな報道も流されている。
気にするほどでもないだろう。
「あ、そうだ、白鳥さん、
道場貸してくれてありがとうございました。
お茶、おれが自分で煎れるっすよ?」
「なに、言ってんだ、
ここではお前らが客なんだから余計な気を使うな?
大人しく座って待ってろ。」
そうこうしている内に、
美香も着替え終わったようだ。
ちょうど湯飲みを暖めている最中に、
この部屋へと彼女は現われた。
再び、三人で取り留めのない世間話が始まり、
いつと言う事もなく、今日のイベントはお開きとなった。
帰りも白鳥が車で送る。
そして・・・
白鳥亮が美香と会話を交わせたのも、
この日が最後になるのであった・・・。
ヤギ声の男
「生卵ウンメェェェェッ!!」
タケル
「市販の卵じゃないぞ? よく腹壊さねぇな?
てか、羊の脳みそ移植されてるくせに卵喰うのかよ?」
日浦
「そっちは人間としての嗜好じゃないか?」