緒沢タケル編3 永遠の別れ 伝授
ぶっくまありがとんです!!
天叢雲剣?
そんな曰くあり気なものがなんで緒沢家に!?
「ちょっ・・・待ってくれよ!?
もしかして・・・スサってぇのは・・・
オレが考えてる以上に・・・。」
「分る?
私たちが今まで受け継いできたものが、いかに大きいものなのか・・・。
それにまだ驚くのは早いわ・・・。」
美香は剣をタケルの足元に差し出しながら、詳細を説明する。
「この剣の縁起は・・・覚えてるかしらね?
私達の祖神スサノヲが、
ヤマタノオロチを成敗した時に、
その体内から出現したと言われる伝説の剣・・・。
どこまでが事実でどこまでが伝説か、
・・・私にはわからないけど・・・。
一つ確実な事は、この剣がどうやって作られたのか、
いかなる金属組織で鍛え上げられたのか、
古代の鋳造技術では絶対に説明不可能ということ。」
「ええ!?」
「その気になれば、
スペクトル分析などで、調べる事は可能なんでしょうけど・・・、
外に出せない極秘中の神器だからね、そう簡単には・・・。」
「でもじゃあ、どうやって・・・。」
「・・・青銅でも鉄でも鉛でもない・・・勿論黄金でもない。
何らかの合金か、・・・
かつては、これが伝説のオリハルコンとか何か騒がれたわ。」
「オリハルコン?」
「大西洋に沈んだアトランティスの物語よ・・・、
真実性は・・・不明だけどね。」
その美香の言葉に酔うかのように、タケルは恐る恐る右手を伸ばす。
タケルの指が剣の柄を・・・
ビリッ!
青白い何かがほとばしった。
「うおっ!?」
静電気?
いや・・・違う、何だ、今の?
美香の目がタケルの顔を覗き込む・・・。
「それからね、タケル・・・
この剣は普通の人間には持てないわ・・・。
剣が拒絶するの・・・。」
「ええっ!? そんなんあるのかぁ!?」
だが、美香はその言葉と裏腹に自らの腕を伸ばす。
「お、おぃっ!?」
美香の右手が天叢雲剣をガッシリと掴んだ!
そして、そのままゆっくりと立ち上がる。
心配するタケルは体勢を崩すが、美香はそれをたしなめる。
「座ってなさい・・・!
それから、これから緒沢家門外不出の秘儀、
『祓い』をあなたに見せます。
他の事を考えてはダメ・・・、
私のこれからの舞を、今、この場で覚えるの・・・!」
「でも、・・・今、普通の人間には持てないって・・・?」
「だからこそ、緒沢家当主の資格がいるの・・・。」
ヒュオッ
・・・美香はいきなりタケルの眼前に剣を滑らせた!
あと数センチで顔面が切られる所だ・・・!
それは無言の合図だった・・・、
もはや一切の思考や行動をタケルに許さないという・・・。
そして 美香は、
流れるような動作で舞い始める・・・。
度肝を抜かれたタケルだが・・・それはほんの一瞬、
すぐに姉の動きに集中し始める。
これが・・・
緒沢家代々伝えられてきた・・・祓いの舞・・・。
演舞・・・といった様式は、
タケルが身につけている中国武術でも多々あるものだ。
その意味で、
姉の舞い踊る様は、タケルにとって理解しやすい行動である。
しかしその動きは、
今までタケルが目にしてきた動きとはいずれも異なる。
時に激しく・・・時に静かに・・・
そして荒々しく・・・そして厳かに・・・、
美香は何度か、舞いの節目ごとに距離をとり、
その動きの全体像をタケルに見せ付ける。
そしてまたしばらくしると、タケルの眼前にまで詰め寄り、
その圧迫感を持ってタケルの目に刻み付けるのだ。
・・・その動きの本質を・・・。
この世の不浄や荒魂を鎮める「祓いの舞」・・・。
目を背けるなんて事はできやしない。
舞い踊る最中、
美香の瞳はほとんどタケルの目に注がれている。
まるで、
その目はタケルに視線をずらす事すら許さないかのようだ。
指先や足の運び具合をも見るなというのか?
・・・ただ姉の気迫と意志の力を、
その瞳から見ることによって、
舞の流れ全体を感じ取れとでも言うのだろうか?
タケル・・・あなたに届いてる!? この動きを!
魂で感じる? この流れの意味を!
大空を羽ばたく鷹の様に大胆に・・・
地を駆ける獅子のように激しく・・・
艶かしい天女のように優雅に・・・
そして天の声を聴く巫女のように神々しく・・・。
緒沢家はもともと、武家でも武士階級でもない。
あくまで祖神スサノヲを奉じる神職の家系だ。
そのスサノヲに仕える儀礼の一環から、
この「祓いの舞」は生み出された。
邪なるもの・・・不浄なるものを洗い流す聖なる舞踏・・・。
今や二人は完全に、
別の世界へとはまり込んでしまったかのようだ。
美香は、まるでシャーマンのように魂を遊離させ、
タケルは催眠術にでもかかったかのように、
姉の動きに魅入られている。
いや、意識がおぼろげとなる催眠術とは似て非なるものか、
いまや二人の意識は、
まるで一つに統一されてしまったと言っても過言ではない。
それほど、彼らの集中は尋常ではなくなっていた・・・。
30分・・・
いや一時間も過ぎたのだろうか・・・。
美香の舞が終わった・・・。
最後は、
一連の動作をゆっくり、
だんだんゆっくりと動きをスローにするにつれ・・・、
そして剣を握る腕を、床へと力なく垂らして、
この神聖なる「祓い」が終了したのである・・・。
改めて見ると、美香は汗だくである。
無理もない、
これだけの時間、精神を集中させて動きっぱなしだったのだ。
どれほど体力を使ったか分ったもんじゃない。
だが、・・・これで終わったのだ。
もし仮に・・・万が一、
美香の身に何か起きたとしても・・・
その役はタケルが継ぐであろう。
いま、この瞬間、タケルはその資格を手に入れたのである。
そう、いつ、何が起こったとしても・・・。
「祓いの舞い」・・・「顔のない人形」編でお見せしましたね。
霊体・邪なるものに特効です。
また、1対集団の戦いでは防御に特化しています。
剣撃としての攻撃力は一切ありませんが、
聖属性の全体効果を付与します。(もちろん攻撃に転じることは可能です)
・・・なお、
違和感をお持ちの方はいらっしゃいますかね?
スサノヲの末裔とやらが「聖属性」を扱う事に・・・。
もっとも、もうどこかで、誰かがそのカラクリを説明していたかもしれません。
それとこの物語では、
アトランティス大陸など存在しないという立場です。
それはまた別の機会に。