緒沢タケル編3 永遠の別れ 白鳥邸へ
ぶっくまありがとんです!!
いよいよ騎士団編前半最大の山場の章です。
日曜日になった。
・・・あの事件は、その後、
新聞やテレビでニュースとして取りあげられたが、
普通の火災事故として扱われた。
薬品精製過程における管理ミス、及び機材の老朽化が原因だそうだ。
タケルは「ほっ」と肩の力を抜いたが、
反面、そんなんでいいのか? とも思ってる。
まぁ・・・死人は「いなかった」とされていることからも、
捜査は、真相には辿り着けないであろう事は想像に難くない。
タケルは無気力になっていた。
やる気が湧いてこない・・・。
まるでこないだの事が夢のようだ・・・。
10万円は確かに日浦からもらった。
手元に万札が10枚ある。
だが、嬉しいとか、何に使おうとか、
そういう気持ちすら湧いてこないのだ。
そこへ、窓の下、というか家の外から車の音が聞こえてきた。
「?」
エンジン音が聞こえなくなった。
自分の家の前に車が止まったのだろう。
ふと、窓を開けて下を見下ろすと、
白い乗用車が緒沢家の塀に沿って止められていた。
少しすると、車の中から長身の男が出てくる、
・・・もちろん長身と言ってもタケルには及ばない。
せいぜい175~178cmというところか。
ああ、もうそんな時間か、
今日あの人の家に行く事になってたっけ、
剣道大学選手権全国大会優勝者、白鳥亮・・・さんだ。
出かける事を思い出したタケルは急いで身支度をする。
えーと、何が要るんだっけ?
そうこうしてる内に、家のチャイムが鳴らされた。
隣の部屋から、美香が先に反応して下に降りていく。
彼女は準備万端だったのだろう、
何の慌てる事も、焦りもないようだ。
しばらくすると、
美香が階段を登って来て、タケルの部屋を叩く。
「タケルー? 行けるー?
白鳥さん、迎えに来てくれたわよー?」
「あ・・・ああ、すぐ行くけど、何か用意するもんはぁ?」
「特にないわ、
向こうの道場にお邪魔するから、その時用の服装ぐらいかしらねぇ?」
「いま、拳法着ぐらいしかないけど・・・。」
「ミスマッチねぇ、ま、でもそれでいいと思うわ、
他に誰か来るわけじゃないし、
じゃあ私、下で白鳥さんにお茶出してくるから。」
「りょーかい、すぐ行く!」
タケルも白鳥亮には会ったことは何回かある。
中学の時は道場にもお邪魔した。
その時、白鳥は高校生だったが、既に無類の強さを発揮していた。
当然、タケルも何度か手合わせしたことがあるが、
それこそ子供扱いされていて、全く相手にならなかった。
今ならどうだろうか・・・。
荷物をまとめて、タケルが下に降りていくと、
美香と白鳥が二人で談笑していた。
がっちりした骨格に、一分の贅肉もないしまった体、
短髪に少しウェーブが入った長身の男がそこにいる。
100年に一人の天才剣士と言われた白鳥亮だ。
多少、おおげさな表現だろうとは思う。
実際、この先の剣道界を担ってもらう上での期待も含まれているのだろう。
しかしその強さは確かである。
「あ・・・どもっす、
白鳥さん、お久しぶりです・・・。」
「よぉ、タケル久しぶり・・・
おい! またでかくなったんじゃないか!?」
別に白鳥が苦手とかそういうのはないんだが、
昔、道場でしごかれた記憶がある。
その時の態度や言葉遣いはそのままだ。
なお、白鳥は旧家の跡取り息子らしく背筋も姿勢もきちっとしているが、
タケルの印象では、そこら辺のチャラ男の格好させたら似合いそうだなぁ、とも思っている。
或いはモヒカンにして「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁー!」とか言ってみてくれないだろうか?
まぁ無理だろう。
「はぁ、これ以上はでかくなんないすよ、
・・・白鳥さん、こないだの大会も優勝したんですって?
おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう、
・・・でもまだ勝てないヤツもいるしなぁ?」
階段を下まで降りきったタケルは、
思わず姉の顔を見る。
「何よ?」
ようやく、タケルも笑いがこみ上げてきた。
再び白鳥に向かって話しかける。
「まだ姉貴には勝てねぇっすか?」
「・・・無理!
オレも後輩やら、お偉いさんの目があるところでやりたくないから、
滅多に打ち合う機会はないけど・・・
何度やってもダメだ!」
「人を化け物みたいに言わないで?
大体、亮、
・・・あなたはそう思い込んでるから、
いつまでたっても殻を破る事が出来ないのよ。」
一応、美香より白鳥の方が年上である。
だが、まぁ幼馴染というほどでもないが、
昔からの付き合いだ。
また白鳥も、スサに深く関わる立場であり、
公上、美香は白鳥の目上の人間になる。
とゆうわけで、スサがらみの時はともかく、普段はお互いタメ口らしい。
一方、一人っ子で育った白鳥は、
この二人の姉弟が好きだった。
弟のタケルと会うのは久しぶりだが、
こうやって、二人の家にお邪魔すると、
まるで彼らの家族にでもなったかのような気がして、
単純に嬉しいのだ。
・・・恐らく美香と二人っきりだと、
こんな彼女の姿は見れないだろう。
どこかよそよそしい普段の彼女と、
弟タケルに見せる、容赦のない説教だったり何気ない会話・・・。
・・・無論、彼も美香に心を惹かれている一人である。
だが、剣術でいまだ美香を越える事ができないため、
彼もまた、積極的に行動する事が出来ないのだ。
「じゃあ、そろそろ、行きましょうか?
あ、ちょっと、失礼するわね? すぐ来るから。」
タケルがぶっきらぼうに言う。
「トイレくらい、先に済ましちゃえよ。」
「・・・がう!」
美香はその場で、噛み付く振りをする。
こんな姿、外では絶対にお目にかかれない。