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第2話

外伝は短いので次回で終了です。



何だろう? 

目的の家の近くで不審な少年を見かけた。

小柄なカラダで、

襟までかかる綺麗な髪をした少年は、

家の入り口をうろついたり、窓を覗こうとしている。

私が近づくと彼も私に気づいたようだ。

こちらから彼に話しかけてみようとしたのだが、

その瞬間私は息を飲んでしまった。


・・・後ろからだと、

体型から男だろうと思えたのだが、

その顔は、

女性と判別がつかないほどに美しかったのだ。

こんな綺麗な顔をした少年には今まで出会ったことはない・・・。

ちなみに私にそっちの趣味はないことを断っておく。

だが、戸惑いを見せていた私に、

彼は笑みを浮かべて話しかけてきた、

まるで私の心を覗いたかのように・・・。


 

 

 「ああ、怪しいものじゃないよ。

 ただ、この家の奥さんが気になってね、

 それというのもホラ、

 今、世間を賑わせてる連続殺人事件あるだろ?

 緑のもやに包まれるっていうの。

 知ってたかい?

 この家の人だけでなく、

 一連の事件の被害者の奥さんは、

 決まって子供の頃、

 行方不明になったり神隠しに遭ったりしてるんだよ。

 あれ? やっぱり初耳だった?

 それよりこの家に用があるんだろ?

 なら気をつけたほうがいい、

 何せ、あなたの顔には死相が出ているんだから・・・。」


 「おい待ってくれ! 君はいったい・・・!?」


わけがわからない。

それがその時の正直な反応だ。

それは仕方ないだろう。

こっちが呆気に取られている間に、

その少年は、

不気味な言葉だけを残して去ってしまったんだから。

私はまともに問い返す事もできなかった。

どう見ても17,8の少年だったのに、

まるで、こちらの全てを見透かしているような・・・。

また不思議なことに、

大人しそうな彼の雰囲気にも関わらず、

私は怖れを感じてしまったのかもしれない。

まるで彼には、

神か精霊のような荘厳さがあったのだ。


それにしてもどういう事だろう? 

被害者の妻が・・・?

少年が言ったことは、

私には不思議な真実味があるように思われた・・・。

 


その家では、

これといった情報は何も得られなかった。

しかし、この未亡人と話している間、

先程の少年の言っていたことがずっと気になっていた。

果てして聞いて良いものだろうか、

黙っているべきだろうか?

いいや、構うものか、

どうせクチバシの黄色い高校生のたわ言だ、

尋ねてまずいということはあるまい。


 「失礼ですが奥さん、

 あなたは幼少のころ、神隠しに遭ったことはないですか?」


その時である。

それまで穏やかだった彼女の顔が、

見る見る変化を遂げ、

別人にでもなったかのように、

恐ろしい形相に変わっていったのだ・・・!

 「誰にそんな話を聞いたのです・・・?」

ゆっくりとした言葉だったが、

その響きには凄まじい殺気が込められていた。

 「い、いや、

 さっきこちらの家の前をうろちょろしていた高校生がそんなことを・・・、

 じょ、冗談だと思っていたものですから・・・、

 た、立ち入ったことを聞いて申し訳ありません。

 ・・・え?」

 「その少年の名は何と言ってました・・・?」

もともと名前などは知らないが、

すっかり慌ててしまった私は、少年の身を案ずる余裕もなく、

ついうっかり少年の特徴を言ってしまった。

その若き未亡人は彼を知っているようで、

顔をこわばらせながらこう言った。

 「まさか・・・、

 もう一人の天・・・いえ、こんなに早く・・・?」


 「え? なんですって?

 ご存知なんですか・・・? 彼を?」

彼女のつぶやきは小さく、はっきりとは聞き取れなかった。

やはり知り合いだったのだろうか?

しかし結局、その少年のことも、神隠しのこともわからないまま、

私はその家をあっけなく追い出された。

 


その日からか、

以来、私は例えようのない不安に襲われ始めた。

・・・まさか、

いや、そんな馬鹿な・・・、

そんな事があるはずがない・・・。


ある日、私は電話をかけてみる決心をした。

近所の電話ボックスで・・・。

五回ぐらい、

ルルルルルル・・・という呼び出し音が繰り返された。

こうでもせねば、

胸に重くのしかかる不安は消せなかったのである。

相手が受話器を取った。

 『はい、安曇です。』 

妻、百合子の実家・・・。

しばらくの間、

そこで何を話していたのか良く思い出せない。

ただ、この一部分だけは頭にはっきり残っている。


 『あ~、そんなことあったなぁ~。』

 『あった、あった、

 確かあの子が二つのときだったかやぁ?

 家族がちょっと目を離した隙にいなくなっちゃって、

 そうさ、

 三日間ほど見つからず大騒ぎだったんさ。

 近くの山を流れる川の岩場で見つかってねぇ・・・。』


私のカラダからは汗がどっと噴き出した。

そして私は何かの気配を感じ、

ほとんど反射的に後ろを振り返っていた。



挿絵(By みてみん)



・・・白い、

妻、百合子の顔が私を見つめていた。

その紅い唇は閉じられ、

その機械のように冷たい瞳は、

私に向かって固定されている。

まるで蛇が獲物を見据えるように・・・。

その顔からは何の感情も読み取れない、

それだけに、いっそう不気味なものを感じる。

電話の向こうでは何か喋っていたが、

私は一方的に別れの挨拶をして受話器を置いてしまった。

 「ゆ、百合子、どうした、買い物か?」


・・・何故こんなことになったのだろう、

私は妻を疑い始めている。

しかし今まであれほど明るかった彼女が何故・・・?

いや、違う、

・・・そうだ!

彼女の様子がおかしいのは、

事によると私のせいなのかもしれない。

私が彼女を疑っているのを感じ取っているのだ。

結局、この時、

百合子はあまりしゃべらず、

私の言うことにただ機械的に反応するだけであった・・・。

 


 

その夜、私はふと目が覚めた。

午前三時・・・、

隣では、

百合子が昔と変わるところなく、

安らかな表情をして眠っている。

彼女は見たところ、

体型も顔つきも二十歳ごろからあまり変化がない。

まるで時間というものが、

彼女には何の効力も持たないかのようだった。

私はむっくりと起きて、

麻衣の様子を見に行った。

麻衣の部屋はまた落書きの数が多くなっている。

字を覚え始めたのはいいが、

机とか壁とかに書くのは何とかやめて欲しい。

何回言っても聞かないんだから・・・。


 おや?

 今、気がついたが、所々同じ単語が書かれている。

 何だろう、リ・リ・ス・・・?

  リリス?


私は何故か、その単語が非常に気になった。

どこかで・・・。

私は部屋に戻り、

布団に戻って思い出そうとした。

どれぐらい時間が経っただろう、

私はついに思い出した。

そうだ、あの、

いつか得体の知れない生き物の夢を見たとき、

あの時、誰かがリリスと叫んでいなかっただろうか・・・?



翌朝のテレビのニュースでは、

今年最初の台風が発生したことを報じていた。

沖縄が暴風域に入る可能性があるらしい。

その時、

何の気なしに、部屋のラクガキの事を麻衣に聞いてみたら、

麻衣が答える前に、

台風のニュースに熱中していた百合子が間に割ってきた。


 「あたしが教えたのよ、

 リリスって言うのはね、

 天地創造の話に出てくる人類最初の女性よ。

 彼女はアダムと一緒に作られたの、

 ところが彼女はアダムに従うことに耐えられなかったため、

 エデンの園から逃げちゃったの。

 しょうがないから、

 その後釜にイヴが作られたってお話ね。

 その話を麻衣にしただけよ。

 なぜかって?

 別に深い意味はないわ、

 ただあたしが気に入ってるだけよ、

 リリスを・・・。」

 

それから数日後の話になる。

あれは・・・百合子じゃないか?

家の近くの川原で独りで何をしているんだろう?

 「おーい、ゆりこー!」

 お? 気がついたな、ん?

・・・彼女はどういうわけか逃げ出した。

 何故だ?

 人違いだったかな?

 しかし確かに百合子だったが・・・。


私は気になり、彼女を追って走り始める。

時が経つのも忘れ、

ふと気づいた頃には、

私は、いまや使われなくなった廃墟の工場の、

雑草の生い茂った原っぱのど真ん中にいた。

既に百合子の姿は見失っていた。


 どこに行ったんだろう?

 おや・・・?

 何かが向こうの茂みの中で動いた・・・?

 猫? いや・・・


風でもない・・・。 

それは良く見ると、

私のほうへ段々と向かってくるようだった・・・。


後ろの方でも何かが動く気配がする。

一つ、二つ、三つ、

・・・六つ、いや、


最低でも七つの物体が私の周りを取り囲んでいる?

その時、

最も近いところにいた「そいつ」は、

茂みの隙間から正体を現した。 


あ れ は な ん だ ?


わたしにはその光景が現実のものなのか、すぐに受け入れることなどできない!

黒いぬめぬめした気味の悪い粘膜が、

太陽の光を受けて不気味に輝いている・・・。

 ・・・奴らは!

いつだったか夢の中で、

地の底から這いずり出てきた生き物じゃないかっ!?


私は逃げた、

奴らは這っているだけでそんなに大きくはない。

囲まれても飛び上がれば、かわして逃げることもできる!

私は、

向かってきた生き物の頭の上を

(頭と呼ぶに相応しいかは分らなかったが)必死に跳び越えた。

 


 

その時、

初めてその生物の全体像が視界に飛び込んできたのである。

あれは絶対、神によって作られた生き物じゃあない!

邪悪な存在によって産み出された呪われた何かだ!

四肢は退化して、

アメーバーのようにカラダを伸縮させて動き、

感覚器のようなものは全く存在しないかのように見えた。


 逃げろ、 逃げるんだ!

私はわけが分らなくなってただひたすら走り続けた。

・・・行き止まりだ。

奴らのスピードは異様に速く、

あれだけ走ったというのに、すぐそこまでに追いつかれていた。

必死に助けを呼ぼうとしたが、

咽喉はかすれて声が出てこない・・・。

奴らの口と思しき器官がパックリと割れ、

群青色の唾液が牙の間からこぼれていく・・・。


 誰かっ!!

 誰でもいいから助けてくれっ!!


その後、

・・・何が起こったのか良く覚えていない・・・。

気を失う瞬間、確かに光を見た。

気がつくと、

おぞましい生き物は姿を消し、

私の目の前にはいつかの少年が佇んでいたのだ・・・。

 


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