緒沢タケル編2 タケルと愚者の騎士 深層へ
あああ、分量が中途半端・・・。
いつもの量だと明日分が少なすぎる・・・。
ええい、今日は多めに投下!
日浦とタケルは別の部屋を探してみる。
研究室にはいろんな書類や実験データなどの資料が置いてあるようだが、
勿論タケルにはチンプンカンプンの内容だ。
部屋の中や書類を見回しても何の意味もない。
日浦だけが、時折デジカメで資料を写したり、
部屋の内部を収めたりしている・・・。
「・・・日浦さん、結局何を見つければいいんですか?」
自分も、何か役に立ちたいというか、
早くこんな場所から去りたいためか、
その両方の理由でタケルはそわそわしている。
まぁ無理もないだろう。
「そうだね、今、僕が写している資料・・・
これにはいろんな動物の脳細胞についてだが、
あわせて、ヒトの免疫データとか、
拒絶反応とかの数値や理論が書かれている。
もし、これがこの研究室で実践されていると言うなら・・・。」
「なら?」
静かな間が訪れる・・・。
「先に行こう、百聞は一見にしかず、だ。」
「えええ~?」
タケルは不満げだが、次へ進むなら仕方がない。
日浦もそこは考慮したようだ。
「なら、そこの左の扉を開けてくれないか?
・・・恐らくそこに・・・。」
何があると言うのか?
タケルはドキドキしながら扉を開けた。
ピーッ
ロックが外れる。
当然、この部屋も真っ暗だが、
変な匂いは・・・いや、消毒液の匂いだけだ。
日浦が入ったところで電気をつける。
!
ここにも動物が・・・!?
いや、これは死体・・・標本だろうか?
ホルマリン漬けになっているかのように、液体の中に浮かんでいる。
何の為に・・・?
「ナンだ、こりゃあ・・・!?」
タケルは息を呑む・・・。
みんな・・・どの動物も頭部を切開されて、
中の脳みそが一部切除されているのだ・・・。
動物の種類は、先ほどの生きているもの達とほぼ同種だ・・・。
爬虫類は今のところいないようだが・・・。
「気味悪ぃっすね・・・、何の実験なんですかね?」
タケルでなくても当然の疑問だろう、
日浦も何か考えているようだ。
しばらく部屋を観察してから日浦は口を開いた。
「これはもしかしたら、
僕らが考えていたものより、
相当、恐ろしい実験を繰り返しているようだな・・・。」
「実験・・・?」
「ああ、先を急ごう、ここももうカメラに収めた・・・。」
部屋を出て、
さらにフロアの他の部屋も確かめたが、
あとは、重要と思われるものは見当たらなかった。
・・・いや、日浦は事細かに調べているようだが、
タケルにはどれが重要で、どれがそうでないかは判断できない。
静かに、彼らはエレベーターまで戻り、さらに地下へとフロアを下った・・・。
チィン!
・・・ここも上のフロア同様、廊下は明るい。
さて、どの部屋から・・・と日浦が辺りを見回していると、
タケルの耳に何か異様な音は聞こえてきた・・・。
「日浦さん・・・何か聞こえてきません?
音と言うか・・・もしかして叫び声・・・?」
「何だって!?」
二人は耳を澄ます・・・確かに聞こえる。
「誰かが叫んでいるようだな・・・、こっちかな・・・?」
「上の部屋同様、動物がいるんですかね?」
「タケル君、・・・動物の声に聞こえるかい?」
日浦の言いたい事は、
タケルも一瞬、感じていたのだが、
その考えはあまりにも不合理な気がしていたので、
つい「動物」と言ってしまったのだ。
「ま、まさか・・・。」
「・・・行ってみよう。」
叫び声らしきものは、常時響き渡っているわけでもない。
断続的にだったり、
しばらく静かだったかと思うと、何回も連続で沸き起こったりしている。
部屋の特定は簡単だった。
もう、間違いない。
人間の声だ。
時折歌のような物も聞こえる。
「この部屋だね・・・、
一応突然、襲われてもいいように気をつけてなよ?」
今度は日浦が扉を開けてみる。
ピッ・・・ガチャ
日浦はゆっくりとドアノブを回す。
中から聞こえる声に変化はない。
・・・そして彼はゆっくりと扉を開けた・・・。
この部屋も異臭が漂ってるが、
上のフロアのような獣じみた匂いではなく、
どちらかと言うと、浮浪者に近づくとこんな匂いか・・・。
今の所、何も襲ってもこない、
日浦はそのまま、電気をつけた。
「・・・な!?」
すぐに二人の目に部屋の状況が飛び込んできた・・・
だが、
それを頭ですぐに理解するのは困難だったと言えよう・・・。
・・・人間・・・。
数人の男たちがそれぞれ檻に入れられ・・・いや、少年もいる、
頭髪を剃られ、頭頂部には痛々しい手術痕もある。
そんな人間達が、無感動な目で・・・
いや、時には血走ったような目で、
部屋に入ってきた侵入者を眺めていた・・・。
彼らは簡単な白衣を着せられ、寝転んでいる者や、
檻を掴んでカラダを揺すったり頭を打ち付けたり・・・。
タケルが叫ぶ・・・。
「何ですか、こいつら!?」
「どうやら・・・人体実験の犠牲者だな・・・。」
「じ、人体 実験・・・この日本で!?」
タケルの興奮に触発されたか、檻に入れられた人間達も騒ぎ始めた。
ただ唸り声を上げるものもいれば、
普通に日浦たちに訴えかける者もいる。
「おい! おい! ここから出してくれよ!
明るい光の元に連れてってくれ!
それに、オレの仲間たちはどこに行ったんだ!?
一緒に草原を駆け回りたいんだ!!」
「もう、注射・・・いや・・・です、
口や鼻に、痛い の入れられるのも・・・。」
こっちはの男は歌を歌っている・・・甲高いヤギのような声で・・・。
「へへへ・・・きぃーらぁきぃーらぁ、ひーかーるー、
おーほしーさーまー、ひーとーつー♪」
日浦は、ある程度会話が成立しそうな相手を見繕って声をかける。
とは言っても、みんな目の光り方からしてヤバそうな連中ばかりだ。
「ああ、ゴホン、キミ達はどうしてここに閉じ込められているんだ?」
話しかけられた男は、檻を掴み目を血走らせながら答える。
「奴らは俺たちが怖いんだ!
だからこんなところに閉じ込めている!
今に見ていろ、この牙で奴らの咽喉元をかっさばいてやる!!」
「そうか、では・・・キミ達は何をされたんだ?
何の実験を受けているんだ?」
「奴らは俺たちを銃で撃った!
仲間は殺された!!
見ろ! もう仲間はどこにもいない!!」
ここにいる他の連中は仲間でないのか?
男は他の檻に入れられた者達を、日浦達に見せつけるように話をしている。
ただ、会話が微妙に成立してないというか、
この状況にそぐわないような違和感がある・・・。
やはり頭がおかしくなっているのか・・・。
日浦の会話を側で聞いていたタケルは、
周りを見回して、とんでもないものを発見する。
「ひ、・・・日浦さん、コイツの手を見てください!」
「何だい?」
やせ細った・・・、
甲高い声で歌っている男の右腕から、
鉤状の金属物が露出している。
・・・こんな物でもし顔面をひっかかれたら・・・。
日浦は眉をしかめて尋ねる。
「キミの腕には何だってこんなものが生えているんだい?」
男は質問に反応したのか、口を真一文字に歪ませながら答えた。
「ンェェェェ! メリーさんについていく為さぁぁぁ!
メリーさんの行く所、僕はどこでもついていく!!
ついていく! ついていくっ!!」
タケルは頭を振って、あからさまに嫌悪感を示す。
「早く出ましょう?
こいつらみんなおかしくなってる・・・、
頭に傷があるのを見ると、脳手術でも受けたんですかね?」
「おそらく・・・ね、
タケル君、上のフロアで頭部を切開された動物を見たね?」
「ああ、ホルマリン漬けの・・・
え・・・、そ、そんなまさか・・・!?」
タケルの脳裏に一つの恐ろしい考えが浮かぶ。
まさかあの動物達の脳みそが・・・。
「勿論、脳全体じゃない、
恐らく脳組織の一部だけだろうけど・・・移植されているみたいだな・・・?」
タケルは、日浦の言葉を聞くのも汚らわしいとでも言うように感情的に叫ぶ。
「そ、そんな!? 何のために!?
何かの医療に役立つってンですか!?」
「僕も医者じゃないからそこまではね・・・、
ただ、免疫学やら脳神経やらの研究で、様々なデータを抽出する事はできるだろうけど・・・、
それよりも彼らは・・・。」
「彼らは・・・?」
「人間としての意志を失っているんじゃないか?
ここの母体企業は軍事産業・・・。
例えば兵士や自爆テロ要員に彼らを利用するのなら・・・。」
「ありえないっすよ!
何でこの日本でわざわざそんなモン研究するんですか!?
言っちゃ悪いすけど、外国だったらもっと研究しやすいところあるでしょう!?」
日浦はカメラを撮りながら、合間を見てタケルに答える。
「・・・なんで日本でわざわざ、か。
一つには日本の治安の良さ、物資の運搬が簡易・・・
そんなところがあげられる。
そして大事な事なんだが、
この日本という国は、長く平和が続いたために、
テロやスパイを摘発する機能や法律が完備されていない。
他の先進国だと、こんな研究しているなんて情報が入ったら、すぐに国家機関の摘発を受ける。
・・・日本なら安全・・・てことだよ。」
「そんな・・・。」
絶句するタケルに日浦は再び口を開きかける。
「タケル君・・・、あ、いや・・・。」
「はい?」
「すまない、何でもない、先を急ごう・・・。」
「はぁ・・・。」
日浦は冷酷な事実を告げようとして思いとどまったのだ・・・。
緒沢美香が総代を務める「スサ」も、
ほとんど同じ理由で、この日本に本拠地を構えていると言う事を・・・。
というわけで、
過去の「メリーさんを追う男」の裏舞台がこちらとなっています。
まぁ本来、こっちが表なんですけどね。
そして、
こちらの世界では「麻衣ちゃん」は生まれていません。
・・・今のところ。