緒沢タケル編2 タケルと愚者の騎士 実験動物
またもや、
ぶっくまありがとんです!
タケルが三人・・・いや、
四人の体をソファやイスに寝かせている間、
日浦は中央監視室のメインモニターや機械をチェックしている。
建物のセキュリティ構造を頭に叩き込んでいるようだ。
時々スィッチを操作している・・・。
「・・・よし、これでしばらくはオーケー・・・っと。」
「もう、安心なんですか?」
「とんでもない、
巡回に行っている人間もいるだろうし、
交代もあるだろう、
時間の問題でばれるだろうから急がないとね。」
うわわわ、それは早くしないと。
日浦は早速部屋を出てエレベーターに向かう。
エレベーターの中にもカードリーダーが備えてある。
ここでも偽造カードを使うが、日浦は失敗したかのように顔をしかめる。
「やっぱりこのカードでは無理か・・・警備員のも試してみるが・・・。」
やはり結果は同じだったようだ。
「日浦さん、エレベーター動かないんですか?」
「いや・・・、ここにあるカードは地下二階までのものなんだ、
行きたい所はその先、
最深部に秘密の研究室があるらしい。
彼ら警備員でも入れない、てことなんだな。」
「え・・・、じゃあアウトですか?」
「ん~ん? まだまだ・・・。」
今度はさっき、警備員から奪ったマスターキー、ドライバーセット、
そして何かの端末機械・・・。
日浦の動きは何の淀みもためらいもない。
みるみる操作パネルを開き、
端末機械のプラグを差し込んでキー操作を始める。
恐らく3分とたっていまい、
エレベーターはピン! という音とともにロックをが解除されたようだ。
階数表示ランプに地下5階までの表示が現われた。
「さぁ、行こう!」
まずは地下3階からだ。
そのフロアには何があるのだろうか?
日浦が後片付けをしながら、携帯を確認する。
エレベーターの中では、もう電波は届かない。
もはや外部からの協力は得られないようだ。
「タケル君・・・。」
「はい?」
「さっきの警備員はここまで来ることが出来ない、
てことはどういうことか分るかい?」
「え・・・、
下には誰にも見られてはいけないものがある・・・
ってことですよね?」
「それはそうだ、
だが、そんな事じゃない、
ここは、『さっきの警備員は地下に行く必要はない』と考えるんだ。」
どういうこと?
「え? 誰もいないってことです、か?」
「そう思える?
これだけ周りを厳重にしてるのに?
キミは楽観的なんだなぁ?」
「ちょ、ちょっと待って下さい、
じゃあ誰かいるとして・・・
で、さっきの警備員の仲間ではなくってことは?」
「ことは?」
「・・・特別なガードマン・・・?」
「そうだ、どんなヤツがいるか分らないけど・・・、
そういうのも含めて覚悟してね。」
そう言っている間にエレベーターは地下三階に着く。
意外と廊下は明るかった。
既に真夜中だが誰か残って研究しているのだろうか?
部屋は随所にあるが、それぞれロックされている。
用意してあるカードや鍵では開ける事が出来ない。
「全部ダメかな・・・?
タケル君、マスターキーで部屋を片っ端から開けてみてくれないか?」
そうは言われても、ほとんどの扉が暗証番号つきだ。
唯一マスターキーで開けれた部屋はあるが、そこはただの更衣室のようである。
「日浦さん、更衣室は開きましたけど・・・。」
「何だって!
そいつはいい、何かあるかもしれないな!」
二人がかりで更衣室を漁りまくる。
今のところめぼしいものはないが・・・。
「日浦さん、ロッカー鍵かかってますけど、
これなら無理やり破壊すれば・・・。」
「やれるかい?」
「え、物理的には多分可能ですけど、
完全にバレるってか、大ごとになりますよね?」
「いや、もう今更だろ?」
と言って日浦は地上の方を指差す。
そりゃそうか、
警備室であんだけ大立ち回りしてるんだから、これ以上コソコソする意味はないだろう。
普通のスチールのロッカーだ、
タケルは少し距離をとって強烈な足刀を叩き込んだ!
廊下じゅうに響き渡る破壊音とともにスチールの扉が開いた。
日浦は廊下で誰も来ないか注意を向けるが、
今のところ誰も出てくる気配はない。
その間、タケルはロッカーの中身を確かめる。
「日浦さん!」
日浦が戻ると、タケルの手には白衣と紙切れ・・・。
「カードケースの中にこれが・・・。」
カードそのものは入ってないようだが、
4桁の数字が書いてある。
暗証番号だ!
「でかした! これでどうにかなるな!
問題はこの暗証番号が一部屋だけに対応してるのか、
それとも全部屋共通なのか・・・!?」
すぐさま、手近な部屋にカードを挿し、暗証番号を入力してみる。
ピィン!
開いたようだ・・・。
日浦がゆっくりドアノブをまわすと・・・、
中は照明がついていないが・・・
この匂いは!?
日浦とタケルを、
けたたましい咆哮が歓迎した。
猛犬、騒がしい家畜、・・・興奮した猿・・・。
いや、勿論、全部が凶暴なわけではないだろうが、
そこには多くの動物が檻に入れられ、
廊下の光とともに入ってきた日浦とタケルを見て興奮したのであろう・・・。
タケルは度肝を抜かれたが、日浦はすぐに落ち着いた。
・・・ゆっくりと部屋の電気をつける。
ガウガウッ!!
ウウウウウウッ! キーッ!
改めて見回すといろんな動物がいる。
まるで動物園だ。
檻には汚物を流すためであろう穴が各所にあり、
それは部屋の中央の排水溝に流されるようだ。
ここは動物達を集めるためだけの部屋なのだろう、
鼠、兎、犬、猫、豚、猿、『羊』、
恐らく全て実験動物だ。
その内の一角を見て日浦は息を呑む・・・。
「タケル君、・・・あの奥。」
「奥・・・?
ええっ! ライオン!?」
こちらを警戒しているのが見て取れる。
無闇に興奮してはいないようだが・・・。
「何で医療品の実験にライオンを!?」
しばらく二人は、
部屋のあちこちを観察する事しかできなかった。
部屋は、檻やガラスケースが陳列されている棚で通路が作られている。
・・・それにしてもひどい匂いだ。
日浦は別の陳列コーナーを見つけた。
「こっちのコーナーは・・・爬虫類だよ、
蛇やトカゲ、ワニに亀・・・
温度管理はしっかりしてるようだけど・・・。」
改めてタケルも、この製薬企業の異常さに気がついてきた・・・。
厳重な警備も、
産業スパイから守るためとか、動物治験も製薬会社ならアリかな?
と、心の片隅では思っていたのだが、
いくらなんでも・・・こんな。
日浦とタケルは一通り部屋の中を確かめたが、
日浦が求めるものはここにはないようだ。
彼はタケルを外へと促した・・・。
部屋を出る前に、
タケルの視線は一瞬、ある物に注がれた。
何か気になったというほどでもない・・・、
無意識に視線を向けただけである。
そこには、大きなガラスボックスの中に、
大量のニシキヘビが太い枝に絡み付いていた・・・。
勿論、爬虫類の彼らが、
どんな意図で反応を示しているのか、そう判断は容易くない。
特に近づかなければ、蛇たちは無反応だと思うのだけれども・・・。
だが、彼らニシキヘビ達は、
まるで自分達の望む何かが現われたかのように、
部屋の中を巨体で通り過ぎる緒沢タケルに向かって、
一斉に鎌首をもたげていたのである・・・。
そして、再び照明は消され、この部屋の扉は閉じられた・・・。
何故『』でくくったか、
お分かりですよね?
「彼」がここにいます。