緒沢タケル編2 タケルと愚者の騎士 侵入
どうも小タイトルつけ忘れるなあ。
深夜、
と言っても、まだ日付は変わってないが、
終電が近いせいか、人影もまばらになってゆく・・・。
電車を降りて、駅前のロータリーへとタケルが向かうと、
街灯に照らされた一台の車のドアが開かれる。
「おーい、こっちだよ、タケル君。」
さすがに2メートル近い身長のタケルを見つけるのは簡単だ。
タケルはゆっくり車のところまで来ると、静かに日浦に挨拶した。
「・・・どもっす、よろしくお願いします。」
日浦は笑って車の中に招き入れる。
「美香ちゃんには何て言ってきたんだい?」
「ああ、友人のバイト手伝うって言ってきました、
・・・あんまり詳しく言わなかったんで、たぶん、ばれてないかと・・・。」
「そうかい、あ、これ、サングラス、
手袋もはめておいた方がいいな?」
「あ・・・今更ですけど、もしかして、捕まるとどうなるんすか?」
「・・・着くまでには話すよ。」
車はゆっくり発進する。
時刻はそろそろ12時を越えようとしていた・・・。
通りの飲食店のネオンや看板も、だんだん見つけるのが難しくなってゆく・・・。
「実はね、タケル君・・・。」
「あ、はい。」
「・・・例の襲撃事件あるだろ?」
えっ、そっち!?
「なにか!?」
「電話では何もわかってないような事言ったんだけど、
実は襲撃犯はもう特定できてるんだ。」
「そうなんですか!? それで!?」
「・・・やはりフィリピンのチンピラだったよ、
金で雇われていたんだ。
前金はたっぷりもらっていて、
ターゲットを少々怖い思いをさせればいい、という依頼だったそうだ。」
「えっ、依頼って・・・誰に!?」
「そこがわからない、
彼らも相手の正体を知らないそうだ、
日本人ではなかったようなんだが、
・・・結局これ以上は調べようがなくてね・・・。
だから、相手が次のアクションを起こすまでは事実上、捜査はストップさ。」
「・・・そうっすか・・・。」
タケルは段々、
自分が「こっち」の世界にのめりこんでいくような錯覚に陥りつつある。
今までは争い事なんて、拳法の練習や試合、
・・・そして個人的なケンカだけだったのが、
危険と緊張を、常に強いられるような日常に埋没していくかのような・・・。
美香が重荷として感じているのは、
こういった危険と隣り合わせの生活の事なのだろうか?
「タケル君?」
いつの間にか自分の考えに集中しすぎていたらしい、
日浦の声が届いていなかったようだ。
「・・・あっ、すいません、はい?」
「色々、不安に感じるかもしれないが、
そろそろ、こっちの件にも集中してもらおうか?
目的地が近づいてきた・・・。」
「あ、はい・・・。」
タケルは日浦から渡された薄い手袋をはめる。
そして指や手首の関節を滑らかに動かし始める・・・。
体調は万全だ。
首筋から足の裏にかけて心地よい緊張が走る。
車は近くのコインパーキングに停まった。
日浦が何やら、運転席の操作パネルのようなものを開いている。
「何、やってんすか?」
「いろいろ、とね、
キミも警察には捕まりたくはないだろう?
念には念を入れてるのさ。」
「あ・・・やっぱ、これから俺らがやるのって犯罪なんすね・・・。」
車を降りる際、日浦はタケルを振り返った。
「目的を遂げられず、向こうに捕まれば警察沙汰だ。
だが、目的を遂げて、
逃げおおせる事ができれば、キミは絶対に捕まらない。
一番の最悪は、彼らの秘密を掴んだ上で捕まることさ。
あ、車のナンバーは偽装してあるから安心してね。」
「日浦さん、もったいぶらずに教えてくださいよ!
オレは何をするんですか!?」
日浦は黙って歩き出し、
少し先を行ったところで、タケルに振り返る。
「・・・この辺りがどこか知ってるかい?」
「さっき、長い塀がありましたね?
刑務所はこの辺りじゃないし・・・、なんかの工場ですか?」
暗くて見えないが、日浦はニッコリ笑う・・・。
「そう、○○製薬って知ってるかい?」
「え、あのCMでガンガン宣伝してるところですよね・・・?」
「そう、そこの製薬工場、
研究施設もあるんで、その会社の最大出荷工場ってわけじゃないけどね、
数年前にある多国籍企業に買収されたんだ。」
「はぁ、それで・・・。」
「その辺りから、製薬会社に黒い噂が立ち始めた・・・。
役員が外国籍の人間になるのは仕方ないにしても、
その役員の来歴がかなり胡散臭い・・・。
また、研究員にしても、海外からどんどん人間が入れ替わり立ち代わり・・・、
使途不明金も増大しつつある。
元々、僕ら騎士団はその多国籍企業を監視していたんだ、
かなり前からね。
当然、関係のある人物は全てチェック済みさ。
そんな人間がどんどん日本の・・・
この企業に招かれ始めたり、この研究施設に着任したり・・。」
「そいつら、具体的に何を・・・?」
「それをこれから暴く訳だけど・・・、
その多国籍企業の最大の収益手段は軍事産業さ・・・。
世界各国の政府や軍、武装組織やマフィアがその商売相手なんだ。
それがこの日本の製薬企業で・・・何をするつもりなのか?
・・・どうだい?
興味がわいてきただろう?」
そうは言われても、世間知らずのタケルにはピンと来ない。
どう反応していいかわからないのだ。
・・・日浦もそれは感じ取ったようだ、
どうやらタケルの態度に少し失望したらしい。
再び前を向いて歩き始める。
実際タケルには、
製薬工場に忍び込んで何をどうすればいいのか、全く想像すらできていない。
邪魔する警備員を投げ飛ばすぐらいだったら、十分役には立つだろうが、
日浦の口ぶりではそれだけでは済まないようだ。
「で、どうやって中に入るんですか?
まさか、正面突破なんて・・・。」
「するわけないだろう?」
日浦は「ほい」と言って、
オペラグラスのようなものをタケルに渡す。
何か見ろというのだろうか?
日浦を見ると、あごでその工場の壁に注意を向けさせる。
「うお!?」
「赤外線センサーさ。」
タケルがオペラグラスで壁を見上げると、
高い3メートル程の壁の上に薄い光の帯を認識できた。
「まじかよ? ホントにスパイ映画みてぇ・・・!」
「よし、じゃあ行くよ!」
「えっ!? 行くって・・・!?」
日浦はいつの間にか携帯電話を耳に当てている、
誰かと会話を?
「やってくれ、遮断しろ!」
タケルはまさかと思い、もう一度オペラグラスで塀の上を見る。
・・・光の帯は消えていた・・・。
「日浦さん、どうやって・・・!?」
「僕らは組織だって言っただろう?
二人だけでここへ来てるわけじゃあないんだ、
下準備もばっちり、なんだよ。」
その言葉に、タケルはほっと、肩を撫で下ろした。
「少しは安心したかい?」
「そりゃそーっすよ、中にも仲間が?」
「いーや、外からハッキングして、
セキュリティシステムをいじくっただけさ、
ダミーの信号が流れるようにはしてあるけど、
すぐに回復させないと気づかれる。
さ、行こうか?」
日浦の腕にはロープが巻かれている。
彼は登山家でも舌を巻くような、
鮮やかな手つきで壁の向こうへとロープを引っ掛けた。
皆さんは、
人様の敷地には無断で立ち入らないで下さいね。
捕まりますよ?