緒沢タケル編2 タケルと愚者の騎士 日浦からの誘い
ジリリリリリリン!
タケルの携帯がなる。
誰だ?
派遣のバイトの呼び出し・・・じゃーねーなぁ?
「もしもし?」
『・・・あーもしもし? タケル君かい?
先日は失礼したね? 日浦だけれども・・・。』
「あー、どーもー・・・。」
悪い人間ではないとはわかっている。
だが、タケルはまだ、この怪しげな探偵に対し、
どういう態度を取ればいいか判断できない。
日浦には悪いが、
少し慎重な態度で臨むのが賢明だろう・・・。
ここは、こないだの襲撃者達の話題に持っていくか・・・。
「例の事件、何か分ったんすか?」
『事件・・・ああ、アレね?
まぁボチボチだ。』
なんだ、その中途半端な答えは?
タケルが突っ込めない状態でいると、日浦は自分の用事を優先させる。
『・・・それはそうと、タケル君、
美香ちゃんに・・・しゃべったね・・・?』
「あっ! す、す、す、すみません!
てか、やっぱごまかし通すの無理ッす!」
卑屈・・・卑屈すぎるぞ、緒沢タケル・・・!
『ああ、別に構わないさ、覚悟はしていたし。
昨日、彼女から電話をもらってね、
いやぁ、なじられた、責められた・・・ははっ。』
「・・・すいません、あの、その、
何か、あんま深刻そうに聞こえないんですけど・・・。」
先日の話では、
二人の関係は険悪ではないにしても、穏当なものとも言えなそうだった。
互いの組織は対立しているのではなかったのか?
『そうかい? 結構へこんだけどね、
まぁ、最後は美香ちゃん、笑って許してくれたよ、
・・・もっとも、スサの仲間を疑う事だけは許してくれなかったけどね・・・。』
「じゃあ、事件の進展はないってことですか?」
『んん、まぁそういう事になるかな?
だが、実はね?
今日キミに電話したのは、その件とはあまり関係ないんだ。』
「え?」
『美香ちゃんは、僕らの組織について何か言ってたかい?』
そういえば、そっちの話は聞かなかったな・・・。
「いえ・・・、もっぱら『スサ』の話を・・・。」
『なるほどね、で、タケル君、
・・・キミは今後、
スサの活動に携わっていく事になるのかい・・・?』
タケルはしばし考える。
美香姉ぇはオレに何をさせるつもりだろう?
普通に、彼女が忙しい時とかの代理とかだろうか?
「あ、いや、どうなんでしょう?
多少の手伝いはすることになりそうだけど・・・。」
『実際、どうなんだろうね?
本格的に・・・例えば他の仕事に就かず、
スサの内部の事に専念するとかは・・・?』
「あ、そこまではないと思います。
姉貴はオレに早く定職に就け!と急かしてくるぐらいですから。」
『・・・そうか、ありがとう、それでえーと・・・』
日浦の話はまだ続きそうだが、
タケルもあまり、
今の自分の立場で話を進めるのは賢明ではないと判断できるようになっていた。
「あっ、あの、ホントにオレからスサの話聞いてもムダっすよ?
姉貴と電話できるぐらいなら姉貴から聞いてくださいよ?
オレもバイトとかしなきゃいけないし・・・。」
最後の言葉は嘘である。
別に忙しくはない、
話を切り上げる口実だ。
『ああ、済まない、
いや、スサのことはいいんだ、
僕が聞きたいのは君の事でね。』
「へ? オレ?」
『今、バイトって言ったね?
どうだい? いい稼ぎの仕事があるんだが・・・?』
ん?
話の雲行きが変わってきた。
緒沢家は両親の遺産が生活に困らないだけは十分にある。
その気になれば信者からの寄進もある。
・・・が、節制に厳しい美香が、
家計及びおこづかいを厳格に管理しているのだ。
タケルの遊行費も満足なレベルとは言えない。
「え? どんな内容っすか!? 時給は?」
ほら、食いついた。
『一晩10万円!』
「はいぃぃぃぃ!?」
破格である、死体洗いだってそんなには出まい。
「やりますやります!
そんだけでるなら肉体労働でも、高層ビルの窓拭きでもやりますよぉ!!」
と言い切って、タケルは一瞬「しまった」と考えた。
「・・・えと・・・風俗とかじゃないっすよね!?」
まさか、おばさん相手とか・・・
ホ○相手とかだったりしたら、その金額でも・・・!
『はっはっは、大丈夫だよ、
そんなことさせたら、それこそ美香ちゃんに殺される。
もっとも、美香ちゃんに内緒ってのは今度こそお願いしたいんだ・・・。
少なくてもバレたら、二度と口を聞いてくれないだろうね・・・。』
「え・・・と、じゃあ、内容教えてもらいます?」
『そうだね、では僕の生業がらみといえばいいかな?
僕の受けた仕事を果たすのに手を貸して欲しい、
粗っぽい事になりそうなんだ、ケガをするかもしれない・・・。』
「ヤクザとか暴力団とか・・・ですか!?」
『そう思ってくれてもいいよ、
途中で身の危険を感じたら逃げてもいい。』
タケルの身に緊張が走る。
確かにカラダは鍛えてある。
本気でやりあって後れをとるつもりもない。
だが、相手がもしプロならば・・・?
タケルの考えがまとまらないうちに、
日浦が追加の一言を発する。
『キミが今まで見たことのない世界を見せてあげるよ、
場所は府中・・・、
この世の悪と犯罪を暴く仕事さ!』
見かけはちゃらんぽらんでも、
両親と美香の厳格な家庭の中で育ったタケルの心の中は、正義と慈愛の念に溢れている。
日浦の言葉に嘘がなければ、刺激に飢えているタケルにとっては魅力的な話でもある。
「でもなんでオレに?」
『キミの事も調べたのさ、
強いんだってね?
さすが緒沢家の血を引くだけのことはある・・・。
事のついでにキミの力を見せてもらおうと思ったのさ、
それと、・・・これが大事なんだが、
キミは緒沢家の一員でありながら、まだスサのメンバーではない。
僕ら騎士団の中央と、スサという組織の関係には、
未だ、きな臭い部分もある。
前も言ったが、スサの総代を美香ちゃんが務めている間は何も心配はない。
だが、今後も互いの関係は良好のまま続けられるのだろうか?
僕はね、キミにも騎士団がどういうものか知っておいて欲しいんだよ・・・。』
「え・・・とつまり・・・?」
『あまり深く考えなくていいよ、これは僕の独断だし・・・。
ま、ぶっちゃけると、スサと騎士団が仲良く出来ればいい、
これをそのための第一歩にしたいんだ。』
「・・・なるほど・・・よくわかりました・・・。
え、と、それで、相手は素手ですか?
武器なんて持ってないでしょうね?
拳銃装備だったら勘弁してくださいよ?」
『勘違いしてるようだね?
ヤクザの事務所に行くわけじゃない、
ガードマンは沢山いるが、銃は持ってないさ、
せいぜい警棒だけさ・・・。』
「なにもんなんすか?」
『普通の民間企業さ、・・・表向きはね。
ウラで何やってるかは自分の目で確かめるんだね?』
ここまででタケルの腹は決まった、
しょせんは好奇心と冒険心旺盛な若造である。
だが、この後、自分が体験する恐怖と衝撃は、
この時点で全く想像できるものではあり得なかった。
二人は深夜落ち合う時間を決め、日浦は早速その準備に取り掛かり始めた。
・・・タケルがそれまでにすべき事、
美香に悟られないよう口実を考えておく・・・
彼にとって大事なのはそれだけだ。
いよいよ次回からイベント開始。
タケル
「あれ、適当に流されちゃったけどオレらやったの立派な犯罪ですよね?」
日浦
「ん、んん、そうだっけ、まぁいざとなったら握りつぶせるし・・・。」
美香魔神
・・・ゴゴゴゴゴゴゴ
「あーんーたーらーはーっ!!」
日浦
「い、いや! 違うんだ!! 美香ちゃんこれはそのっ!!」
タケル
「美香姉っ! ちょ落ち着いて!! 木刀ダメッ絶対!! グッ!ぎゃぁっ!?」