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緒沢タケル編2 タケルと愚者の騎士 発覚


美香の目は真剣だ。

だが、タケルは美香の話を信じられない。

無理もないだろう。

彼は緒沢家の伝説は名目上の作り話だと思っている。

これが西洋諸国なら、

キリスト教文化の下で、天地創造や人類の誕生の物語を信じる者もいるだろう。

だが、タケルの宗教観は平均的日本人のものと大差はない。

ましてや、これまで彼は緒沢家の秘儀に関わる暮らしは経験してこなかったのである。

信じろという方が難しい注文だ。


 「・・・そうね、私も緒沢家の伝説が100%事実かどうかはわからないわ、

 でも、自分で調べていくうちに、

 かなり歴史的事実に基づいている事を知ったわ、

 少なくとも、私たちはこれを受け継いでいかなければならない、

 と思うだけの根拠はあるの。」

 「俺らが神様の子孫だってか?」


素っ頓狂な声をあげるタケルに美香は丁寧に答える。

 「そこは・・・何とも言えないけど、

 緒沢家の遺伝子には不思議な物が混じってるわ・・・。」

 

 「不思議な物?」

 「信州の分家の方で、ちょっと、・・・おかしくなっちゃった人いるでしょ?

 今は養護施設にいるんだけど・・・。

 それと、もう亡くなってるけど、遠縁の諏訪に住んでたおばさん、占い師だったのは知ってる?

 曾お爺ちゃんが手品めいた不思議な技を持ってたって言うのは、

 お爺ちゃんから聞いてるわよね?

 私たちはどう?」

 「えっ? 私たち!?」

 「世間一般から見て私は普通の女の子?

 世間一般から見て、タケル、あなたは普通の男の子?」


それは・・・。

タケルも美香も、幼少の頃から厳しい教育を施されてきた。

タケルはそれに見合うだけの才能を開花させる事はなかったが、

美香の神童ぶりは、

剣術・学問・非の打ち所がない。

剣道学生チャンピオンの男と練習試合を行っても、

今まで一度も打ち込まれた事がないのだ。

冷静に考えれば、ある種化け物じみた強さなのである。

・・・そして、弟タケルは・・・。

 

 

子供の頃は、剣術も未熟で泣き虫だった・・・。

中学で竹刀を握る事を止め、

逃げるように空手道場の門を叩いたが、

以来、格闘技の才能をめきめき伸ばし、

それをきっかけに多くの武術で無双の強さを身につけつつある。

姉へのコンプレックスは相変わらずだが、

改めて問われれば、ほとんどの格闘家と闘っても負ける気はしない。


 「俺ら・・・?」

 「そう、私たち。」


とは言え、ここはどう言えばいいのだろう?

普通じゃないと言われれば普通じゃないのか・・・?


 「で、でもよ?

 そんな大騒ぎするほどのもんでもないだろう?」

 「かもね?

 でも、緒沢家の秘儀を知れば・・・、

 タケル、あなたもそんな事は言えなくなると思うわ。」

 「秘儀って・・・

 オレは見ちゃいけないんじゃないか?

 資格がないんだろう?」

 

 「ううん、そんなことないわ、

 総代の私が許可すればいいだけ。

 まあ、他所に口外してくれたらタダじゃ済まないけど。

 と言うより、私に万一の事があった場合、

 ・・・タケル、あなたが緒沢家を継ぐことになる・・・。

 そういうことよ・・・。」


またもやここで、日浦の話が思い起こされる・・・。

 「・・・万一って・・・、

 あのさ、オレ、スサの人たちの事ほとんど知らないけど・・・、

 変なヤツっていうか、みんな信用できるのか?

 美香姉ぇの座を狙ってるヤツとかいないのか?」


その言葉に美香の目つきが変わる。

 「何で?

 何でそんな事を聞くの!?」

 「えっ、い、いや、何でっていうか、

 ホラ、・・・こないだ襲われたのと何か関係ないのかなぁ・・・と。」


ここでタケルは思い出した、

美香の勘の鋭さも尋常なものでないことに・・・。

 「誰かに何か言われたの!?」

 「えっ!?」

 

ヤバい、ばれたかも! 

 「い、いやっ、ただ何となく思っただけで・・・。」


だが、美香の追及はやまない。

 「タケル、あなたの嘘や隠し事を、

 これまで何度見抜いてきたと思ってるの?

 正直に言いなさい、

 さもないと木刀を持ってくるわ!」

 「だぁぁあ、やめてっ!

 え・・・と、ある探偵さんがそんな事を・・・!」

 やべっ、言っちまった・・・!


 「探偵・・・!?

 まさか、日浦さん!?」

 「あちゃ・・・、

 やっぱり知り合いだったのか・・・!」

美香は思わず、テーブルに手をついて立ち上がる。

 「あなたが偶然、日浦さんに会うわけもないわね!?

 あの人から近づいてきたの?」


もう観念するしかない、

タケルは包み隠さず、日浦とのやり取りを説明した。

あらかたタケルが喋った所で、

美香はため息をついて、ようやくイスに座りなおした。

 「はぁ~、まったくもう・・・。」

そのまま彼女は頬杖をついて、

何か諦めたようだ。

もしかしたら、こんな日が来ることも想定していたのかもしれない。

 

もう開き直ったタケルは直球で美香に質問する。

 「そ、それでどうなんだ?

 おれはあの人の言う事も一理あると思ったんだけど・・・。」

果たしてスサの内部に、総代の座を狙うような危険人物がいるのだろうか?


美香はすぐに答えず、頬杖ついたままタケルを一瞥するだけ。


 「・・・それとも、オレはあの人に騙されたのか?

 信用できそうな人だと思ったんだけど・・・。」


タケルには美香の心情はわからない・・・。

姉は今、何を考えているのだろう?

 「・・・美香姉ぇ・・・。」


美香はしばらく同じ体勢のまま、部屋の隅を眺めていた・・・。

別に何を見ているわけでもない、

ただ、じーっと空を見つめ、

そのまま表情も変えず、ようやく口を動かした・・・。

 「タケル、

 ・・・私もあの人はいい人だと思うし、信用できると思うわ、

 ・・・でも、だからといって、

 あの人の話までも信用できるとは限らない・・・。」

 「えっ? どゆこと・・・?」


ここで美香は強い確信の意思を以ってタケルに向き直った。

 




深夜会談は次回で最後。

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