緒沢タケル編2 タケルと愚者の騎士 深夜の話し合い
とりあえず、タケルはそのまま階段がある方に向かおうとする。
別に咎められるようなことを仕出かした覚えは何もない。
何もなければ大丈夫だろう・・・。
途中、美香の部屋の真ん前で、
姉の様子をもう一度窺うと、
部屋の電気の光が飛び込んでくる・・・。
やっぱり起きてたのか・・・
てか、それよりも・・・
薄いTシャツに短パンだけかよ・・・。
タケルの視界に、
姉の細い、美しい肢体も飛び込んできた・・・。
太ももの隙間から部屋の奥が見える。
風呂にも入った後だろう、
セミロングの黒髪が湿り気を帯びて照明の光を反射させる。
まぁ、別にどうってことないが・・・。
「美香姉ぇ、
この時間起きてるの珍しくねぇか?」
「うん・・・ちょっと考え事しててね。
タケル、ご飯食べてからでいいけど、・・・少し話があるの?
いい?」
「ああ、・・・それは構わないけど・・・?」
「じゃあ、10分ちょっとしたら下に降りるね?」
「わかった・・・。」
それだけ会話すると、タケルは下のダイニングに向かった。
話・・・? 何だろう?
ま、まさか、あの探偵の話にからんでくるんじゃねーだろうな・・・?
それとも襲撃事件の方か・・・?
それまで少しタケルは酔っ払っていたが、
急に酔いが醒めて来た。
下手をすると、かなり重大な話かも・・・。
だったら、こっちもあの探偵の話の真偽を聞き出すチャンスか?
とりあえず、食うものは食っとくか・・・。
早メシ大食いも彼の得意技の一つだ。
美香も、タケルの食事スピードは把握しているのだろう、
ちょうどタケルが、味噌汁を飲み干した所で階段を下りてきた。
タケルは気を利かせてお茶を入れようとするが、
美香は軽く笑って断った。
「ありがと、
・・・でも寝る前に飲むと顔がむくむから・・・。」
「へぇ、りょーかい・・・。」
さてと・・・一体どんな話を・・・?
「で、美香姉ぇ、話って・・・?」
「うん・・・、タケル、こういうの聞くの、恥ずかしいんだけど・・・。」
「は?」
いきなり予想外のセリフが来た。
完全に意表突かれた・・・、
まさか恋バナじゃないだろうな・・・?
「・・・タケル、あなた、
私がつらい時、困っている時、
・・・手を差し伸べてくれる?」
さすがにそっち方面ではなかった。
だが美香の目と、話し振りは真剣そのものだ、
しかも普段なら有無を言わせぬ命令口調だが、今夜に限ってしおらしい・・・。
意表を突かれまくるタケルだが、
たった一人の家族の真剣な言葉を拒否できるわけもない。
「当たり前だろ? 何かあったのか?
こないだの事件の事か?
オレにできることなら何でもやるぜ!」
その言葉を聞いて美香はくすっと笑う。
「ありがと、・・・じゃあさ、タケル、
緒沢の・・・『スサ』の総代替わって? って言ったら?」
「な!?」
・・・幾らなんでもそれは・・・。
「みっ、美香姉ぇ、
家督を継ぐのがイヤになったのか!?」
「ううん、そんなことないわ、
私はもう、これでいいと思っている。」
「じゃ、なんでそんなこと・・・。」
「冗談よ・・・、でもホントはね、
私にも『それ』を守るのが重く感じるときがあるの・・・。
あなたが、一緒に背負ってくれたら・・・って思ったの。」
タケルはしばらく黙って考えた・・・。
探偵・日浦義純の話が事実だとして・・・、
美香が世界中の信者を纏め上げねばならない立場だというのなら、
そして、内部に訳の分らない権力闘争まであるというのなら、
いくら美香だって背負いきれるわけもない。
「あ、あのよー、
美香姉ぇ? オレはさ・・・!
オレにできることなら何でもするぜ?
ただ、オレは死んだ爺ちゃんに『不適格者』のレッテル貼られたろ?
『スサ』の年寄りどもが、オレを見る目もおんなじなんじゃねーのか?」
美香はその言葉を聞いて、
ちょっとだけ寂しそうな表情を見せる。
「ねぇ? タケル、
あなたは自分で自分をそんなものだと思ってるの?」
「う・・・、いや、つーかさ、
そのスサの跡継ぎってヤツには何が必要なんだ?
美香姉ぇと比べられるのは仕方ねぇ、
でもよー? まだオレは若造だぜ?
周り見回したってそんな大層な人間、そうそういるかよ?
・・・そりゃ、オツムはよくねーぜ、
世間知らずだって言われればそうだろうよ、
取り柄といえばこの図体だけだ、
だけど、ご先祖様は代々、そんな偉かったのかよ?」
「・・・タケル、
別に緒沢家を継ぐのに能力とか適性とか、
そんなものは重要じゃないのよ。」
「嘘だぁ~?」
「強いて言えば、祖先の・・・
先祖の血を色濃く受け継いでいると思われる者が跡を継ぐの・・・。」
「先祖ぉ?」
「忘れた・・・?
私たち緒沢家の始祖の名前を・・・。」
タケルの脳裏に浮かぶのは、
子供の頃から聞かされた緒沢家発祥の縁起・・・、
だが、その記憶に日浦義純の話が重なって思い出される・・・。
「タケハヤ スサノヲノミコト・・・」
「ちゃんと覚えてるじゃない?」
「いや、(そりゃ、聞かされたばっかりだしな)まーな!
でもよぉ、この現代にあんまり非科学的な教義もなぁ?」
「タケル・・・私達の伝える伝説が事実だと言ったらどうするの?」
「はぁ? ちょっと待てよ?
そりゃ、美香姉ぇは立場上、
それを否定するわけには行かないんだろうけど、
この場は、俺ら二人だけしかいねぇんだから、ホンネと建前ぐらい分けようぜ?
・・・まさか、本気で爺ちゃんや親父達の話を信じてるのか?」
次回、美香にバレます。