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フラア・ネフティス編3 プロローグの終わり

 

翌日・・・、

王統府の会議でディジタリアスの提案は可決された。

本音を言えば、

王統府の各大臣・役人ともども、フラアをどのように扱えばいいのか、

その対策で十分な時間を必要としていたのである。

ある意味、北のザラスシュトゥに課題をぶん投げるのは、

彼らにとってもありがたかったのだ。


そして午後には、密葬に近い形ではあるが、

フラアの家族の葬儀が営まれた。

通常は、マグナルナ派の神父なり司祭なりが執り行うのだが、

さすがに今回は彼らの出番はない。

国王アイザス自らが、彼らの代わりに葬儀を主導する。

ツォンもディジタリアスも神妙にフラアの後ろを支えていた。


葬儀の最中、彼女は泣かなかった。

特に強い意志を持っていたつもりもない。

ただ、涙を出しつくしていただけだと本人は思っていた。

それとも、

これ以上、何も考えられなかっただけなのかもしれない。

 


だが、

・・・さすがに家族達の遺品を棺に納める瞬間になると、

感情の抑えも効かず、

もう流す事などないかと思われた涙が再びこぼれ始める・・・。

父親の造り上げたアクセサリー・・・

母親が気に入ってた余所行きのドレス・・・、

まだ、

それほど使いこまれていない、兄ピエリご自慢の工具・・・。

得てして、そういうつまらないきっかけが、

人間の感情を掘り起こしてしまうのか・・・。


ツォンが優しく彼女の体に寄り添い、

ディジタリアスは目をつぶる・・・。

フラアの家族達は、神聖ウィグル王国にその命を奪われ・・・、

そして今また、国によって彼らは送り出される・・・。

彼らの命は何のためにあったのだろう?

・・・その養女フラアを育て上げるために・・・

彼女に愛情をたっぷり注ぐ事だけがその命の意味だったのだろうか。


・・・いずれ・・・そのフラアも・・・、

また誰かの為に・・・

そうして命を繋いでゆくのであろうか・・・。

 

 



数日後、

フラア、ディジタリアス・・・そしてツォンは王都ラシを離れ、

北の街、ザラスシュトゥに出立する。

ディジタリアスにしては、

その静養地への出発は、時期としては少々例年より早いものであるが、

特段、王宮に大した貢献もしていない彼ならばこそ、

問題もなく予定は繰り上げられることとなった。

むしろ、フラアの教育係の責任者としての役割を与えられ、

珍しく責任を負うこととなる。


その日、長い馬車の行列が、

王都ラシのメインストリートを通り抜けてゆく・・・。

馬車のやや高い位置から、フラアは街の至る所を見渡すが・・・、

他人に説明できるような感慨は湧いてこない。


 ここで自分は育ったんだな・・・

 この街でお母さんたちと暮らしたんだな・・・、

 しばらく自分は遠くへ行くことになるわけだけども、

 またここに戻ってくるとき、

 自分はどんな感情を覚えるのだろう?

 


 

そんな事を思いつつ、

フラアはずーっと、ラシの町並みを見続けていた。

途中・・・、

どこかで見たような女の子達が馬車の窓から見えた。

 ああ、みんな・・・

 ハハ、コーデリアもいる・・・。

 

フラアは口元をやや、緩ませて・・・

ゆっくり、

とてもゆっくりと手を振った。

みんな眉を歪ませてフラアを見送ってくれている。

思いっきり手を振り返してくれる子や、

大声で「元気でねー!」

と叫んでくれる子も・・・。

コーデリアは思った通りだ・・・、

無表情に・・・何の動きも見せずに見つめ返すだけでやんの。


変わらないでいてくれる友人(?)がいる。

それだけでも嬉しい・・・。

そしてしばらくすると、その友人たちの姿も小さくなり、

やがてフラアたちの一行は、城門を抜け王都ラシを後にする。

この後・・・

彼らは一路、北の街ザラシュストゥへと旅立つのだ・・・。


 今度こそ、しばらくさよなら・・・だね、

 王都ラシ・・・。

 





 

・・・これで、

物語・・・第三部フラア・ネフティス、人間の章プロローグは終わりを迎える。

今後フラアは、北の街で新たな人間たちと様々な出会いを繰り返す・・・。

後に、彼女の右腕となる悲劇の将レンや、

最後の時まで彼女に仕えた暴れん坊ハンス・・・、


そして、新たな出会いは物語の舞台を再び組み上げていく・・・。

運命の出会い・・・、

それは西の国からやってくるもう一人の天使の子孫・・・、

あの男・・・忌まわしき過去を持つランディが、

ザラスシュトゥのディジタリアスの元にやってくるとき、

さらに恐ろしい運命の扉が彼らに開かれるのだ。


それは全て計画されたこと・・・。

ツォンがこの時代に目を覚ましたこと・・・、

ツナヒロが何者かによってこの世界に送り込まれたこと・・・。

全ての条件が重なるこの時を、

「あの男」は全て最初から「予定」していたのである。

「彼」は自らが味わった「苦しみ」・「悲しみ」を、

今また、この時代の英雄たちに味あわせる・・・。


それはある意味、通過儀礼のようなものなのか、

その試練をくぐり抜けた者こそが、

「彼」の意志を引き継ぐ資格があるとでも言うかのように・・・。

 


 

今また、計画どおりに時代がうつろいゆく様を、

「彼」は大地の底でほくそ笑む、

その黄金色きんいろの瞳を輝かせて・・・。


そしてもう一つ・・・地中に横たわる「彼」を、

機械のように見下ろす無機的な銀色の瞳・・・。


二人の天使は、

同じ居場所から今も人間たちを見守り続ける、

自らの養い手を離れた子供たち、

いずれ、その父親の力を凌駕する運命を持つ怪物たち、

その名は「盲いたるエピメテウス」・・・。

彼らを見つめる目にあるのは、

果たして「慈愛」か・・・それとも「悪意」なのか・・・。

人間たちの未来に待つのは、「栄光」か、

はたまた「破滅」なのだろうか・・・。

それは・・・

誰にもわからない。

 


フラア編、長い間お読みいただきありがとうございました。

最後の文は、ネタバレ的にもなってますが、

レディ メリーの最終話の文章とリンクしています。


フラア達のその後は、今後、少しずつご紹介する機会があればいいかな、と思ってます。


そして明日からは、

第一部「緒沢タケル」の物語です。

本来、こっちが一番先のお話です。



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