フラア・ネフティス編3 抗議
もっとも、
そんな二人の関係などこの場のフラアにとってはどうでもいい。
「・・・納得できません!
それじゃあ王様の冠なんか、ただの飾りじゃないですかっ!
国を治めるのが王様の務めじゃないのですか?
王様の権力は何のためにあるのですっ!?」
辺りの召使いたちが肝を冷やしている。
例え王族同士とはいえ、
王そのものをここまで非難できる事など今まで誰一人いない。
フラアが王族でなければ、
再び、檻に入れられそうなほどだ。
そして、誰よりその事に長年悩んできたのは、ディジタリアスなのだ。
まるで彼は、自らに説明するかのように、フラアに向き合う。
「フラアよ、
その通りだ・・・権力者などと言うのは、
時としてただの飾りなのだ・・・。
そこにあるだけでいい・・・。
いや、今この場にあって『それでいい』とは言えないが、
国の形において、そのトップというのは、民衆を安心させるためにある、
ただそれだけの存在なのだよ。」
そんな!?
「フラア・・・
そなたは思い出したくもないだろうが、
今回、そなたを魔女に仕立て上げたのは・・・、
誰だった?
・・・それが答えだ・・・。」
「えっ!?」
それは・・・!
最初に言い出したのはコーデリア・・・
でも彼女は本気でそんなことなど、思ってやいやしなかった。
ただの・・・口喧嘩の延長で・・・。
私たち家族を魔女に仕立て上げた者たち・・・
それは・・・町のみんな!?
最初は・・・誰か野次馬か・・・、
その場にいた顔見知り程度が流した噂・・・。
それがどんどん、大きくなって・・・、
仲の良かったご近所さんや、お兄ちゃんの友達ですら・・・
「フラアよ、
・・・恐らく町に住む善良な人々も・・・、
この王宮内で働く生真面目な役人も・・・、
一人一人は、何の力もなく、そこそこの正義感を持ち、
自分は立派に生きていると自覚があるのかもしれない。
だが・・・それが集まり暴走し始めると、
もう、それは誰にも止められなくなってしまうのだ。
もし仮に、
今回のような事がなく、
魔女裁判が残虐だから止めろと、
私やアイザス王が待ったをかければ、
暴走している民衆は、王族をも磔に掛けようとするかもしれない。」
そんな事が有り得るのだろうか?
下町に住み続けてきたフラアにはそんな情景など想像もできない。
ディジタリアスはさらに言う。
「『王様が魔にたぶらかされたっ!』と騒ぎ出す者たちすら現れる可能性もある。
・・・確かに我らに力が無いだけなのかもしれないが・・・、
一度火がついた集団を止めることは並大抵のことではないのだ。
それこそ、国そのものが崩壊する危険すらある。
いや、言い訳に聞こえるだろうな・・・?
フラア、そなたの言う通りなのだ。
そなたが正しい。
例え少しづつでも、
我らはこの国を変えていかなくてはならない義務がある。」
・・・この時、喋りながらではあるが、
ディジタリアスには、ある思いが生まれていた。
それは小さな心のひっかりであったが、
後にはっきりとした疑問となり、口述される事になる。
それは天使シリスが憂いた「魔」の正体・・・。
勿論、それは想像の域を出ないし、論理だてて推測されたものと言うわけでもない。
それに今は・・・、この場の話の続きを見よう・・・。
さて、この部屋で最も衝撃を受けている者は、
他の誰でもない、実はアイザスだ。
彼はいつも、おだてられつつ王座に座っているので、
そんな難しいことなど考えた事は一度としてなかったのだから・・・。
ディジタリアスは話を続ける。
「ただ・・・今回の不祥事に関わった人間、
特に法王庁にはそれなりの厳罰を要求すべきだと思う。
責任の所在が誰にあり、
これまで、違法な取り調べを誰が行い、
どんな罰を与えるべきなのか・・・、
それによって、議会の方にも新しい法律か何か、
立案させるべきかと・・・。」
ここでディジタリアスの視線はアイザスに向かう。
慌てて体面を取り繕わなくてはならないアイザスが痛々しい。
「っむ!・・・むむ、そ、そうだな、
さ、早速、そのことを取り上げよう!」
フラアはまだディジタリアスの話に納得していない。
いや、話を飲みこむだけで精いっぱいと言うところか。
しばらく無言の時間が流れるが、
アイザスも場の主導権だけは握らねばと、なるべく自分の中で正論と思えることを思いついた。
短慮な彼はすぐさまそれを口にする。
「そ、それではフラア!
いま、弟が申したように、
我らには王族として至らぬ点がたくさんあると思う、
どうか、今まで民の中で暮らしたそなたの視点を、
この神聖ウィグル王国発展のために生かしてはくれまいか!?
これからすぐにでも、そなたの居城も作ろう。
しばらくは国賓用の居室で過ごしてもらうだろうが、
大勢の召使いを用意するし、日替わりで着れるドレスもしつらえるだろう。
我々も、そなたのように美しい家族ができること、
これほど嬉しいことはないのだ!」
やっぱりか、
・・・冗談ではない、
誰がこんな息苦しい所で生活できるものか・・・。
「イヤです・・・。」
「魔」の正体・・・それは。