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フラア・ネフティス編3 拒絶

 

確かに豪勢なテーブルには違いないが、

良く見ると脂っこいものは少なそうだ。

デザートや飲み物も沢山用意されている。

見たこともない食べ物の方が多いけども。


アイザスに視線を返すと、

ハンサムな顔に優しそうな笑顔を浮かべていた。


 ・・・これが別の形でこういう席につけていたら最高だったのかもしれないが、

 もうそんな夢を見ることもない。


隣では早速ツォンががっつき始めている。

 「お、おいら肉がいいな!

 贅沢は言わないけど、もし食わせてくれるなら!」


ある意味、こういう人間がいると重い空気も和らげられるだろう、

アイザスは手を上げると、

給仕に「肉を。」と静かに指示を出した。


 ひゃっほうっ!

小躍りするツォン・シーユゥ。

もはや、笑顔を浮かべる事も忘れたフラアだが、

無邪気なツォンの姿を見るのは不快ではない。

とりあえず飲み物だけでもと口にした。

 


 

しばらく、白々しいアイザスの独演会のような時間が続いていたが、

ディジタリアスがいい感じで話をツォンに振り、

旧世界のウィグルや、天使シリスの姿、

また、なぜ400年も経って、

この今、神聖ウィグル王国に現れる必要があったのか、

改めてツォンからの情報を聞き出すと、

場の空気はそんなに不自然なものではなくなっていた。


・・・ただ、フラアは時々辺りを見ながら、会話には参加しない。

興味深そうに会話のやりとりに目を向けることもあるが、

けっきょくそれだけだ。

たまに自分に話が向けられても、

「はい、いいえ・・・」の簡単な返事のみを繰り返す。

まぁ、それはそれでいい、

大事なのはこの後だ。


そして・・・食事もほぼ終えたころに、

アイザスは肝心の話をフラアに始める。

 「さて、・・・フラアよ・・・。」

フラアはゆっくり反応する。

 「・・・はい?」

 

 

アイザスが明かすのは、今日の会議の結果である。

 「む、ゴホン、

 ・・・それで、今日の会議の大まかな内容だが・・・、

 法王ランドレットは退位することになると思う。

 マグナルナ派の人事については、

 我ら王族と言えども関与することはできないが、

 順当に行けば、現在大司教の地位にいるケルンが代わりに就くだろう。」


横からディジタリアスが合の手を入れる。

 「・・・確かケルン殿はマグナルナ派の中でも穏健派でしたな・・・?」

 「うむ、・・・これからはあまり魔女裁判なる慣習は減るとは思う・・・。」


 はあ?


しばらくフラアは黙って聞いていたのだが、

このやりとりの中で、

どうしても言わずにはいられない衝動が自分の中にある事を発見する。

そして、

彼女はその衝動に身を任せた・・・。


 「『減る』? 

 減るって・・・

 あんな迷信に何の意味があるのですか!?

 王様や、ディジタリアス様は、

 どうしてあのような非道な集団をあのままにしておくのです!?

 私の・・・」

 

 

一度フラアは言い淀んだ・・・。

自らのカラダに受けた侮辱的な凌辱行為を思い出したのだ・・・。

だが、そんなことは話すことではない。

言わねばならぬのは、

家族達が受けた痛みや苦しみ・・・

あの残虐な拷問の数々・・・!


 「私の!

 私の家族がどんな辛い目にあったのか、

 王様たちはご存知ないのですか!?

 あんなものは取り調べじゃありませんっ!!

 ただの・・・いえ、あいつらこそ本物の悪魔じゃないですかっ!

 なぜ・・・王様は・・・

 天使シリスの作ったこの国に、

 あんな奴らをのさばらせておくのですっ!?」


フラアの思わぬ糾弾に、

完全にアイザス王は呑まれていた・・・。

勿論、王族として生まれてから、

今に至るまで何の挫折も疑問もわかずに育ってきた彼に、

フラアの問いに答えるすべなどない・・・。

ただただ、オロオロうろたえるアイザスに、

思慮深いディジタリアスが代わりにフラアに答えを返した・・・。

 

 「・・・申し訳なく思う、フラア・・・。」


彼女はその敵意をたたえた視線をディジタリアスに向ける。

その代り、これ以上は口を開きはしない。

この後のディジタリアスの言葉を待ったのだ・・・。

 「・・・我々には力がないのだ・・・。」


 はぁ!?

 何を言ってるのっ?

 ディジタリアス様はともかくとしても、

 アイザス王はこの国で一番偉いはずではないのっ!?


彼女の疑念はそのまま表情に出ている。

更なる説明を要することは誰にでもわかる。

勿論、ディジタリアスはその先を言う。

 「政治的実権を与えられていない私は勿論だが・・・、

 兄上、アイザス王はそのように育てられたのだ・・・。

 良くも悪くも、この神聖ウィグル王国は、

 法王庁と議会が発達して、

 王の手を煩わせることなく、国が円滑にその政を行えるよう、成熟している。

 ・・・それがいささか暴走しすぎているという危惧は、私も常々あったのだが、

 今に至るまで・・・私も勇気がなく・・・

 言いわけにもなるが、

 誰の味方もいない私ではどうすることもできなかった・・・。」

 

 

その言葉に驚いているのは、

どちらかというとアイザス王の方だ。

兄弟とはいえ、ディジタリアスも一国の王アイザスに遠慮して、

自らの本音をぶつけることもできなかった。

それが今、こんな形で告白されようとは・・・。

 「ディジタリアス・・・そなた!?」


うなだれるディジタリアス・・・。

 「兄上・・・申し訳ありません・・・。」


人間的にはアイザスは良くできている方かもしれない。

それは兄としてもだ。

弟の諫言に、感情を荒げるタイプではない。

ただ・・・

一国の王としては未熟なだけなのだ・・・。

 

 



フラア編フラア・ネフティス プロローグは間もなく終了です。

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