フラア・ネフティス編3 面影
悪夢が終わった・・・。
いや、これが夢なら目が覚めた時には全てが元通りになっている筈である。
けれど現実に変化はない。
フラアが家族を失ったという現実・・・。
だが、「国家」は・・・
この神聖ウィグル王国という「生き物」は、
止まる事を許しはしないのだ・・・。
それが良いことか悪いことなのかは、別の話になるのだけれども。
翌日ただちに議会が招集され、
フラア・ネフティスの地位の確認、
法王庁の処分などが討議された。
元々、法王庁に関しては議会が干渉できる権限はないのだが、
喚問という形で、
王統府の議会に数人のマグナルナ派の重鎮を呼び寄せた。
その日の会議だけで何が決まると言うわけでもないのだが、
法王庁に属する彼ら自らの口で、
自分達の組織の在り方を見直すという言質が取られたようである。
・・・そこには勿論、天使シリスに仕えたツォンが、
「魔女裁判」なるものに否定的な発言をしたことが大きかった。
曰く、旧ウィグル王国のカラドック王の母マーゴが魔女なのに、
なんでそんな事を気にするのか分からないと。
その言葉が決定打となり、
恐らく、今後しばらくは同様の裁判は起きないと言えるだろう。
肝心のフラアの方であるが、
勿論、一日二日で心の傷が洗われる筈もなく、
そこは宮廷関係者も慎重に気遣いをし、
その日の内々の夕食会に、彼女を参列させるので精一杯であった。
当然、フラアはそれすら拒んでいたのだが、
「ご両親に、王族として着飾った自分を見せ、安心して旅立たせてあげては?」
という懸命の説得に、少し心を動かされたのも事実である。
そして、宮廷に長年仕える女官達も伊達ではない。
沈むフラアの気持ちを、少しでも宮廷になじませるために、
効果的な策をもってフラアに臨んだのだ。
「・・・フラア様、いかがですか、このドレスは?」
「・・・こんなの着なきゃいけないの?
きついし・・・カラダが動かせないわ・・・。」
「ご安心を・・・着付けは我らにお任せ下さい、
歩き方は・・・
一朝一夕には身につかないでしょうが・・・、
せめてしずしずと歩いていただければ・・・。」
普通に会話しているように見えても、
自分が王族として振舞う事にフラアは強い抵抗があった。
周りが自分の事を王族だとか言い出したって、
本人が一番、信じられないでいる。
自分はラシのダウンタウンで育った、礼儀もろくすっぽ知らない小娘なのだ。
それに家族の命を奪ったウィグルに、
どうして自分が王族として生きて行かねばならないのか。
これから夕食会だと言うが、
行って全てのテーブルの料理をひっくり返してやろうか、
直前までそんな風に思っていたのである。
直前まで?
その時一つだけ、彼女の気を変える出来事があったのだ。
アイザス王やディジタリアス、
そしてお呼ばれしたツォンが席に着くそのテーブルに、
侍従官が大きな絵画を手にしてやってきていたからだ。
そこにあるのは、一人の美しく若い女性が描かれていた・・・。
その女性の姿は・・・!?
そこにいる全ての者・・・
テーブルについていた者たちだけでなく、
壁に控えている世話人やら、料理を運ぶ給仕も含め、
全ての人間が、
その絵に描かれた女性とフラアを交互に見比べていたのだ・・・。
その女性のドレス・・・
煌く黒髪・・・
そして大きなルビーと思しき髪飾り・・・。
それはまさしく今、その場にいるフラアと同じ姿なのである。
「あたしが着てるこのドレス・・・、まさか?」
フラアの背後で着付けを手伝った年配の女官は、微笑みながら口を開けた。
「ええ、あなた様の母君、
アスタナシア様が、王宮を飛び出す前に着ていらっしゃったドレスです・・・。
正直、私めも驚いております。
まぁ絵の方は、微笑むアスタナシア様の表情しか描かれておりませんが、
凛々しいフラア様の姿は瓜二つですよ、当時のアスタナシア様に・・・。」
これが・・・
自分の本当の母親の肖像画・・・。
自分では本当に似ているのかどうか、
はっきりとは分からない。
思わず部屋の奥にある鏡を見つけて、自分の姿と見比べてみたが、
肝心のドレス姿の自分が、自分自身の着飾った姿と認識すらできていないのだ。
驚いているのは、ヤローども三人も一緒である。
血縁者と言えども、アイザスは鼻の下をのばし、
ディジタリアスも頭では分かっているが、まんざらでない。
(こんな美しい女性だったのか・・・!?)
いつまでもフラアが立ちつくしているわけにもいかないので、
女官はフラアをテーブルにつかせると、
静かな夕食会が始まることとなった。
内々だけの食事にしたのは、
マナーを知らないであろう、フラアを慮ってのことだ。
・・・それから当然、ツォンもテーブルマナーなんか知らない。
見るからにそわそわして辺りの者たちの顔を窺い、
「食べていい?食べていい?」と口には出さなくても、
その挙動全てが彼の欲求を露わにしている。
アイザスは苦笑を浮かべ、
弟ディジタリアスに合図を送る。
「・・・それではお腹を空かせている方もいるようだから、食べながら歓談しよう。
・・・いや、楽しく歓談という訳にもいかないだろうが、
フラア、そなたの事も話さぬわけにはいかぬので、
気を楽にしながら食事をとるといい。
今朝からちゃんと食べているか?
食事は胃に優しそうなものを用意しておいた。」
誰かVRoidでドレス作ってくれないかしら・・・。