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フラア・ネフティス編3 別れ


母親は、

アイザスの言葉を聞くと、安心して再び視線をフラアに戻した。

 「さ、聞いたかい、フラア?

 ・・・お前はこれから、本来の自分に戻るだけなんだよ・・・?

 お前は・・・私たちには過ぎた娘だ・・・

 まるで本物の宝物のような子供だったよ・・・、

 お父さんも本気で、そう思っていた・・・。」


 「・・・おかぁさん、いやだよぅ!

 あたし、・・・あたし一人になるぅっ!

 お願いだから一人ぼっちにしないで!!

 何でそんな悲しいこと言うのよぉ!!」


 「大丈夫・・・後ろをご覧?

 優しい王様と・・・、

 正しいお心をお持ちのディジタリアス・・・様と、

 それに、こんなに頼りになるナイトがいるじゃあないの・・・。

 ・・・みなさん、

 ・・・この子を・・・お願い・・・します、

 守ってやってください・・・。」

 

 

元から涙線の緩いツォンは泣き始めてるし、

国王アイザスすらも、その瞳から涙を落していた・・・。

幼いころに母親が病没し、

昨年、前国王・・・父親を亡くしている彼ら兄弟も、

肉親を失う悲しさは知っている。


・・・だが何と言っても、

このフラアの家族の命を奪ったのは、直接は法王庁と言えども、

救い切る事が出来なかったアイザスやディジタリアスには、

後ろめたさからか、

この悲しい母娘に積極的な言葉をかけてやることなどできはしなかったのである。


 「(ボソボソ)・・・ディジタリアス、

 この場はどうすれば良いのだ?

 余は彼女たちに何と言葉をかければいい?」

 「(ヒソヒソ)あ・・・兄上、その・・・

 それは私にも・・・、

 ん? ツォン殿はいかがですか?」

 「(コソコソ)えええっ、

 お、おいらにだってどうしたらいいか、わかんないよっ!」



この場にいる彼ら全員、人付き合いのうまい方ではない。

せめて誰か女性でもいれば話は違うのだろうが、

フラアの悲しい心を埋めてくれるもの・・・それもいない今、

彼女の孤独感を癒す事など誰にもできなかったのである・・・。

 



 「・・・お母さん・・・ ?」


無能な男どもが言いあっている間、

部屋の中央では事態に変化が生じていた・・・。

医師たちもテキパキと次の行動を取り始める。


フラアはそれ以上何も言えず・・・

何も反応できず、

医師たちの邪魔にならないように、体は引いてみせるが、

もうその視線も表情も変化させることができない。


母親の精神力も限界を超えてしまったのだろう、

もう意識も反応もない・・・。

ディタリアス達にもそれがわかり、

自分達の無駄なやりとりすらできなくなっていた・・・。

これまでの行動から、

フラアも母親への呼び掛けを連呼するかに見えたが、

もう、彼女も体力の限界がピークに達しているせいもあるのか、

何も言えず、唇を震わせるのみなのだ・・・。

 

 

やがて医師のリーダーは、

母親の脈や瞳孔を調べ・・・

そして最後の宣言を行う・・・。


 「・・・残念ですが・・・・・・。」




静かな時間が流れる・・・。

医師達が起こす、無機的な器具を取り扱う音しか聞こえない。

フラアはその決定的な言葉を聞いても、

体を動かす事など出来やしなかった。

数十秒も経ってから、

蚊の泣くような小さな声で・・・


 「 う そ・・・」


それだけしか反応できなかったのだ・・・。

だが・・・その放心状態も・・・

やがて津波のように押し寄せる、感情の爆発の前触れに過ぎない・・・。

 



 

 嘘よ・・・こんなの信じないっ!

 お か し い・・・

 おかしいよ? どうして・・・

 私たち、何も悪いことしてないのに・・・?

 何でこんな事にぃ?


そしてその抗議はついに口から溢れ出す。


 「・・・だれ? どうして?

 だれがこんな酷い事を!?

 教えてっ!

 誰か答えてっ!!

 答えなさいよっ!!

 誰もいないのっ!!

 誰のせいでこんな事になったのよっ!!」


フラアは立ち上がって叫び声をあげた。

まるで気でも触れたかのように・・・!


急いで看護婦たちが、

数人で彼女のカラダを抑えるが、

まるで暴れ馬のように跳ねるフラアをなだめることなど誰にできようか?

 



医師は急いで鎮静剤の用意もするが、

元々フラアにそんな暴れる体力など残ってもおらず、

ひとしきり暴れると、ぐったりと力を抜き、

かすれた声で自らの意志を主張する・・・。

 「放して・・・

 放してっ!

 もう・・・暴れないから・・・

 放っておいて・・・!」


看護婦たちは互いに顔を見合せながら、

フラアの強い意志に逆らえず、

ゆっくり腕の力を放してゆく・・・。


既にフラアの意識の中に他人は存在していない。

自分と目の前にある母親や父の遺体だけだ。

後ろに王様がいようと知ったこっちゃない。

自分を助けるのに尽力してくれた、ディジタリアスやツォンについても同様だ。

ただただ何も考えられず、

この場の現実とどう向き合えばいいのか・・・、

いや、それすら意識もできずに時間を費やしていくだけだったのである。

 


もうピークは過ぎました。

フラア登場編、後はエンディングに向けて…。

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