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フラア・ネフティス編3 母親

 

時刻は既に真夜中に近い。

だが、

この部屋では誰も眠りにつく準備など出来やしない。

数人の医療スタッフが、

全力を尽くしてフラアの母親の治療につくも、

この時代の医療レベルで出来ることはたかが知れている。

21世紀の治療技術があったなら、なんとかなっていたかもしれないが、

それは今更無理な話だろう。


治療室には二つのベッドが並べられ、

片方には、

今や物言わぬ父親の遺体が、頭からすっぽりシーツをかぶせられている。

そしてもう片方には、

荒い呼吸で、カラダを小刻みに揺らしている母親がいた・・・。

今の常識では面会謝絶の状態であろうが、

もう担当医も、長年の経験で、この患者がこれ以上もたないという予想はついていた。

感染症の危険の認識より、

母娘の、最後の時を一緒に過ごさせてやるべきだと判断したのだろう、

フラアが母親に寄り添い、

その手を握りしめ続けている事を禁止させるような事もしない。


それどころか、少し離れたところでは、

ツォン・シーユゥ、ディジタリアス・・・

そしてアイザス王までもが責任を痛感して、

フラア達の様子を見守り続けていた。

ディジタリアスのみ、もう立ち続けている事ができないので、

安楽椅子に座らせられている。

 

 

既にこの家族は、

何の罪もないのに二人の命を失っている。

母親の方は、まだ体力があったのか、

それとも拷問もギリギリだったのか、

この時間まで命を永らえさせていたが、

既にその顔には死相が浮かんでいる。

だが勿論フラアに、

そんな事を認めることなど出来やしない・・・。

 「・・・お母さん、もう、大丈夫だからね?

 だから気をしっかりしてねっ・・・!

 きっとよ、・・・きっとだからねっ!」


医師たちは、

既に出来得る限りの治療を施した後である。

今夜が峠、と言うべきところなのだが、

もう母親にその峠を乗り越える体力はない・・・。

やむを得ず、麻酔効能のある薬を投与して、

痛みと苦しみだけでも緩和させていた。

その分、意識もおぼろげになりかけてはいたが、

いまだ娘に対し反応は保ち続けている・・・。

 

 

薬のせいか、母親の表情は意外と安らかだ。

土気色の顔に、笑みさえ浮かべているように見える。

自分の娘が無事でいることに、満足を覚えていたのかもしれない。

そして母親は、

娘の呼びかけに弱々しく口を開ける・・・。


 「まだ、・・・私を母さんと 呼んでくれるのかい・・・?」


恥も外聞もなくフラアの髪は左右に振り乱す。

 「何言ってるのっ!?

 あたしの家族はお母さん、お父さん・・・それにお兄ちゃんだけよっ!

 王族だか何だかなんて知ったこっちゃないわよっ!」


 「・・・そんなことをお言いでないよ・・・、

 きっと・・・お前の本当のお母さんも、

 今の私と同じ気持ちだったのかねぇ・・・?

 お前が元気でいてくれれば、何も心配ない・・・、

 満足だよ・・・。

 私たちは幸せだった・・・、

 そして、これからお前には、お前にふさわしい舞台がある・・・。」

  

 「ダメっ! お母さん!

 おねがい・・お願いだからそんな事は言わないで!?

 私、お母さんの子供がいい! 

 贅沢なんかできなくてもいいからあの家でみんなで暮らしたいっ!

 帰ろう!?

 ね、帰るのよぅ・・・!

 またみんなでご飯を食べようよぅっ・・・!」


母親は少し困った顔をすると、

必死に首を動かし、その視線をアイザス達に向ける。

 「あ、あの・・・王様・・・。」


この状況で身分の違いなどに拘るほど、空気の読めないアイザスでもない。

ディジタリアスに視線を一度送ると、

すぐにベッドの方へ足を一歩踏み出した。

 「余はここだ・・・、

 何なりと申してみよ・・・!」


 「あ、ああ、ありがとう、ございます、

 これから・・・フラア・・・フラア様は・・・。」

 「安心するがよい!

 もう誰も彼女に危害を加えさせはしない!

 彼女は弟ディジタリアスに次ぐ、王位継承権第二位にいる立派な王族なのだ!」


実際、それを断言できるのは、

王統府の高官たちの慎重な会議の承認を得てからの話になるが、

ここまで来たら、それが覆えることはないだろう。

王宮の者にとって、今回の一件は、それ程の衝撃的な展開なのだ。

 


 

そこには「一滴の真紅」という物的証拠・・・。

そして後の話にもなるが、

王女アスタナシアの生前の肖像画・・・その面影とフラアの似姿・・・。

更に何と言っても、旧世界からやってきたツォン・シーユゥの存在は大きすぎる。


実際・・・

天使シリスは「フラアを守れ」とツォンに言ったわけではない。

ツォン・シーユゥの勝手な解釈である。

だが、勿論第三者にその事を正確に伝えたとしても、

ツォンが守るべき者が、

フラア以外に存在しているとは考える事もできないだろう。

子供の頃から、

一個の人間として誰にも存在価値を認めてもらえなかったツォンは、

誰かの役に立っていること・又は誰かに与えられた使命を果たすことだけが、

己の人生の生きがいとなっている。


天使シリスに仕え、

後の国王カラドックや、加藤恵介と共に行動をし、

時にはラヴィニヤや朱武の娘などを守ったり・・・、

そして今は、このフラアを守ること・・・

既にそれが自分の使命と確信していたのである。


・・・後にディジタリアスは回想する。

  

 月の天使シリスがツォンに「守るべき」と言った者・・・、

 それはもしかしたらフラアの事などではなく・・・、

 実のところは・・・この世界の人間・・・

 いや、地上の生き物全てに対しての言葉だったのかもしれない。

 だが、それら全ての命ある者、地上の全人類を救う、

 その鍵となる行動を果たしたのは、

 間違いなく「あの場」で王族と認められた、フラア・ネフティス以外の何者でもないのだ。

 アルヒズリのエア王・・・雷公将軍ランデイ、

 イズヌの鬼人ミカヅチ・・・

 21世紀の宇宙飛行士ツナヒロ・・・暗殺者ザジル・・・、

 そして他ならぬディジタリアス自身・・・。

 ・・・誰が抜けても人間は死に絶えていたのかもしれないが、

 その中心にフラアがいた事・・・、

 全てが・・・「神」の・・・いや、

 「神々」のシナリオ通りだったのかもしれない・・・。



その推測は、この後、

旧世界スーサの王アスラが残した遺産・・・

「アトランティス」が発見されるその時に、

ディジタリアスのみならず、そのアスラの子孫たるランディですらも、

ディジタリアスと同じくその考えを持つに到る事になるだろう・・・。

 



「アトランティス」は古代文明の意味合いで名付けたわけではありません。

アスラ王の、ただの感傷・・・というやつです。


そしてその物語はフラア編の後に・・・。

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