フラア・ネフティス編3 真実
国王アイザスは驚愕の表情を露わにする。
「な、なんだとッ!?」
予想だにしない言葉が侍従長の口から出て、
アイザスは途端に慌てふためきだしたのだ。
一方ディジタリアスは、
身じろぎもせずに一人、自らの口を開く。
「・・・やはり、か・・・。」
国王アイザスは席を立ちあがり、
更なる説明をボルドニー侍従長に要求した。
「それは一体どういうことか!?
余にわかりやすく説明せよっ!!」
別に、侍従長は悪い事をしたわけでも失敗したわけでもない。
ただ平身低頭、自分ですら信じがたいこの事実を、
どうやって説明すべきか悩みながら、
精一杯、質問されたことに真摯に答えようとする。
「は、はっ!
ご存知のように、せ、先代国王には2人のご姉妹がいらっしゃいました。
先々代国王は、その息子である先代国王にダイヤの指輪を・・・、
長女マルリーン様にはサファイヤの首飾りを・・・、
そして末娘であられるアスタナシア様には、
この王家の紋章でもある月と狼をあしらった台座の、
ルビーの髪飾り・・・『一滴の真紅』を贈られたのです。」
興奮冷めやらぬ国王アイザス。
無理もない、
想定だにしない出来事が次々と目の前で起きているのだ。
「だが待て!? 余の叔母達は・・・!」
「は、はい、左様です、
マルリーン様は突然、宮廷内から姿を消され、
アスタナシア様は・・・、
当時の王宮親衛隊長クリューゲルと、
あろう事か恋に落ちてしまい、
二人して王宮を抜け出して・・・、
そして、今挙げた方々はいずれも行方不明、
その手掛かりすらも掴めず今に至っておるのですが・・・。」
何がどうなっているの?
まるで他人事のように繰り広げられている今の状況・・・、
フラアに理解できたのは、
母親から17の誕生日に貰ったあの髪飾りが、
ウィグル王家のものであるという信じがたい事実。
それがどうして、母の手に渡り、今まで自分がつけていたのか?
思わずフラアは、
自分の隣で半死半生で柱に括りつけられている母親の姿を見やったのである。
母親のその表情は、
過酷な拷問の末の痛みによるものか?
いいや、明らかに狼狽している・・・。
お 母 さ ん・・・?
フラアはその視線を母親と父親へ交互に向けていた。
母親はその視線を避けるように・・・、
いや、父親に助けを求めるようにも見えるが、
肝心の父親はさらに重傷なのだ。
何もできないフラアの元へ、ゆっくりディジタリアスが近づいてくる。
「・・・フラアと申したな?」
とりあえず返事するしかない。
自分には何もわからないのだ。
「は、はい。」
「今のやりとりは理解できたな?
何故、王家の宝をそなたが保有していたのだ?」
「あ、あの、だから・・・
いえ、・・・ですから、私の17の誕生日に、お母さんからもらって・・・。」
悪い話なのだろうか?
でも・・・死刑が決まってしまった今なら、
これ以上状況が悪くなることもないし・・・。
ディジタリアスは青白い顔のまま、追及を続ける。
実は長時間立っているのも辛いのだが、
この柱にくくりつけられた夫婦よりかはマシだと自らを奮いおこす。
彼も必死なのだ・・・。
「そうか、
・・・ならやはり、父母たちに話を聞くべきだ、な・・・。
だが、まだ喋れるのか・・・?」
国王アイザスは、
刑場の兵士たちに金網の外の野次馬を静かにさせるように命じた。
この騒がしい会場の中では、
虫の息の父母たちの声は聞こえないからだ。
どちらにせよ、
質問を行うディジタリアスも、そんな大声を出せるわけでもない。
辺りが静まるのを待ってから、
ディジタリアスは母親に再度、同じ質問をした。
だが、母親もすぐには喋れない。
「あ・・・ああ・・・。」
母親が脇を見ると、父親が彼女を凝視している。
意識はあるようだ・・・。
そして父親はついに、彼女の前に首を頷いて見せた。
母親は意を決し、全てを・・・
17年間隠し通してきた事実を打ち明ける。
「す・・・すべてお話、します・・・。」
辺りは静寂に包まれる。
裁判官やアイザスはおろか、
法王ランドレットも、この事態の進展を予測できなかった。
一体いかなる秘密が隠されているのか?
母親はゆっくり、一度フラアに視線を注ぐと、
後ろめたさからなのか、
すぐに視線を落し、
それから一つの事実だけを口にした・・・。
「娘は・・・
フラアは私たちの娘ではありません・・・。」
お 母 さ ん・・・
え?
いま なんて・・・?
「私たち夫婦は・・・
当時生まれたばかりの、う、息子がおりましたが・・・、
三人で東の田舎町に暮らしておりました・・・。
幼い子供を抱えての生活は苦しいものでしたが、
それでも・・・笑い声だけは絶やさないようにしよう・・・、
そう、夫と話し合っていました。
それから、
・・・ある冬の日・・・雪が降りしきる、とても寒く風の強い日だったと思います・・・。
家の外では、物置やいろんなモノが風でバタバタ音を立てて、
夜中に誰かが玄関の戸を叩いていたとしても気付かないような・・・
そして明け方・・・夫が玄関の扉を開けると、
分厚く積もった雪の下に、
・・・一人のご婦人が倒れていたのです・・・。」
既に母親には長い話を続ける体力がない。
途絶え途絶え、
ゆっくり、記憶を呼び覚ましながら話を続けるしかなかった・・・。
「あの・・・それで、
もうその時にはご婦人は冷たくなっていました・・・。
持病があったのか、
凍死されてしまったのかはわかりませんが、
夜の間に亡くなっていたのだと思います・・・。」
王族が二人も王宮から消えて見つけられないとか、
この国、かなりヤバくないですかね。
しかも今回は・・・。