表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/676

最終話

小タイトルの白い妖魔登場です。

・・・再びね。

 


 (・・・そうだ、

 わたしはあそこから飛び降りて・・・

 では ここは 何処なのか・・・?)


そして話は現在にと戻る。

メリーは赤い車の後部ドアを押し上げた・・・、

ロックはかかっていないようだ。

目の前に自分の鎌もある。

彼女は、

ゆっくりカラダをずらしながら外に出る。

そこは日本の何処にでも見られる、普通の一般家庭の庭だった・・・。

塀のある、普通の庭・・・

ちょうど車二台分でやっとというところだろうか?

陽は傾いていた・・・。

メリーは、

その目に映る物の情報、全てを読み取ろうとした。

その時である。

メリーの耳に若い女性の声が飛び込んできた。


 「気がついた・・・?」


・・・これも遠い昔にどこかであった出来事のようだ・・・。

まだ混乱しているのだろうか?

メリーはその声を発する方向に振り返り、

その女性から観察することにした・・・。

少なくとも、

この女性は自分が命を奪う対象ではない・・・、

また、そのエネルギーもない・・・。

 


 

 「・・・驚いたわ、

 一日足らずでカラダが元通りになっているのね?」


その女性の言葉に、

メリーは自分のカラダを確認する。

他人の感情から、

メリーの活力に変換されるエネルギーは、

人形のボディを自動修復する分には正常に働いていたようだ。

また、そのメリーの仕草で、

女性の方も自分の言葉がメリーに通じていることを悟ったようである。

しばらく、

互いに無言の状態が続いたが、

今度はメリーの方から切り出した・・・。

 「わたしを助けたのは・・・何故?」


女性は表情も崩さない、

・・・彼女の綺麗な肌も白い。

遠目に誰かがこの光景を見れば、

どちらが人形なのか判別つかないかもしれない。

 「・・・申し訳ないけど、

 あなたを助けたつもりは無いの・・・。

 あのままだと、

 先に警察があなたを回収するでしょう。

 その後どうなるかは分らないけど・・・、

 確実にあなたのことが世間に広まる・・・、

 そうなると、

 わたしの夫はまたあなたを追いかけるかもしれない。

 自分の命を危険に晒して・・・。」


メリーはしばらく黙っていた・・・。

この白い女性の姿・・・、

また、

この家に染み付いてる住人の匂いを分析していたのだ・・・。

そしてメリーは、

この女性に向かって途方も無いセリフを口にする。


 「あなた・・・、

 人間じゃないのね・・・?」

 



その言葉に、

女性――その言動から主婦であることは分る――その主婦は反応した。

 「失礼ね、

 人形のあなたに言われたくはないわ?

 ・・・それに間違いなく人間よ。

 あなたの言う人間とは・・・、

 種族が異なるだけよ。」


彼女の抗議は、

メリーにとってはどうでもいいことだった。

そして、

メリーはその家に誰が住んでいるのか、

ようやく分析を終えたようだ。

人形メリーは、

小さく、しかしはっきりとした声でつぶやく・・・。


 「・・・ここに住んでいる人を、

 わたしは知っている・・・。

 優しくて・・・暖かい人・・・。

 あなたは・・・あの人を殺してしまうの?

 例えあなた達でも、

 わたしの鎌は、あなた達の命を狩り取ることができるわ・・・。」


主婦の白い顔が険しくなる。

 「やれるものなら・・・やってみなさいよ?

 でもね、

 これは私達の種族と家族の問題。

 赤の他人のあなたに干渉される筋合いはないわ。

 天地の法?

 ・・・笑わせないで!

 そうね?

 確かにわたしがあの人を殺したら殺人罪にはなるでしょう、

 でもね?

 わたしの種族が、

 あなたの言う人間を殺すのは自然の摂理!

 あなたの鎌は殺された者の恨みや憎しみで動くのでは? 

 もし・・・、

 わたしがあの人を殺す時が来るならば、

 その時、夫はわたしを恨むのかしら?

 あなたのカラダを動かすほど、

 わたしを憎んでくれるのかしら・・・ね?」


メリーの心に、

この主婦の感情が入り込んできた。

その感情には、

メリーに対するわずかな憤りが含まれていたが、

それよりももっと大きな感情が、

この女性から感じ取れていた。

報復衝動など発動するはずがない・・・

むしろこれは・・・。




 

・・・そのおかげなのだろうか、

メリーの四肢にわずかに力が戻ってきた。

ここに長居する必要はない。

主婦の問答に付き合う義務もない。

メリーは主婦に背中を向けて、

その場から立ち去ろうとしたが、

何か言い足りないことがあったらしく、

クルっと首だけ戻した。 


 「あなたにもお礼を・・・、

 『赤い手袋』・・・ありがとう・・・。」


今までのメリーからすれば、

発するはずのない言動だったかもしれない。

昨晩の混乱から、

完全に立ち直っていないだけかもしれなかったし、

人間だった時の記憶をほじくり返されたせいかもしれない。

・・・再び静寂があったが、

白い主婦は、

ほんの少しだけ恥ずかしそうな顔を見せる。


 「それもあの人の為よ、

 あの人を殺すとしたら・・・それはわたし。

 あなたなんかに彼を殺されたくはないもの・・・。」


それを聞いて、

何故か人形は満足そうだった。

勿論、そんな表情は見えないが・・・。

最後にメリーはポツリと言った。


 「あなたも永い時を生きるのね・・・

 『知恵の実』を食べなかった人達・・・。」

 

 

主婦は静かに微笑む。

 「あなたほどじゃないわ?

 『生命の実』を食べたからといって、

 永遠に生きるわけじゃない、

 老いもすれば死にもする。

 ただ適当な時期になったら、

 世間から姿を隠さなければならない。

 私の母もそうだったように。

 少し先の未来が見通せる能力があったとしても、

 私達には私達の原罪がある・・・。

 その鎖からは永久に逃れられない。

 あなたの持つその鎌が・・・

 運命を断ち切れる鎌ならよかったのにね・・・。

 あなた自身も・・・。」


メリーはその言葉に、

自分の鎌を見下ろした・・・。

そして、

もう一度だけ主婦を見つめたが、

すぐにメリーは後ろを向いて、

小鳥のように地面に沈み込んだ後、

信じられないほどの跳躍をしてその場を立ち去った。


   うぅ らぁ らぁ・・・


・・・しばらくその主婦はメリーの姿を見送っていた・・・。

程なくして、

その家の玄関の扉がチャイムと共に開く。

 「ママー? ただいま~!」

ランドセルをしょった女の子が帰ってきた、

・・・この家の小学生だろう。

主婦は穏やかな表情で、玄関の方へと向かう。


 「お帰りなさい、

 今日はパパ帰ってくるって。

 うがいして手を洗ったら、

 戸棚におやつあるからね、

 ・・・麻衣。」

 




と、ゆーわけで、

彼女は赤い手袋がどうなったのか、全てご存知でした。

洗濯物をたたんでいた間、舌を出していたのは内緒です。


この後、登場人物紹介。

そして次回の話の前に、パラレルワールドの物語を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ