フラア・ネフティス編3 フラア陥落
身の毛もよだつような恐ろしい責めの内容だ。
自分がそれを受けたらと、考えるだけで卒倒しそうなほどだ。
・・・だがそれをこの母が・・・!
「ひ・・・酷い・・・っ
お母さん! 大丈夫!?
あ、あたしのせいで・・・ごめんなさい! ごめんなさい!!」
本当だ・・・、
フラアに向かって伸ばされた母親の指先はどす黒く変色してる。
満足な治療も受けてはいない、
そのまま野ざらしの状態でここに・・・。
だが母親は、
自分の娘に向かって、彼女を責めるような言葉も表情もない。
ただ、ひたすら優しい笑みを浮かべようとするのみだ・・・。
それが一層、フラアを追い詰める。
「お母さん、うぁぁっ!
おかあさんごめんなざぃぃ!!」
もはやフラアの心は子供のころに戻っている。
悪戯をして父親に怒られたときに、
いつもかばってくれた母親を求めて・・・。
もっと母親の傍にいたいが、
審問吏は容赦なくフラアを引き立てる。
「・・・もういいだろう、こっちも暇じゃない。
次は父親だ。」
まるでこれが最後であるかのように、引き剥がされる事に抵抗するフラアだが、
それもこれまでだ、
すぐに別の棟に移動させられ、フラアはまた別の牢屋へと連行された。
だが・・・そこから先は更に悲惨だった。
その棟の部屋には何人かの囚人がいたが、いずれも父親ではない。
彼らは比較的、弱ってそうにも見えないが、
怯えて部屋の隅にうずくまっている者がほとんどだ。
では父は?
奥か・・・。
そう、そのブロックの、
一番奥の部屋に彼は閉じ込められていたのである。
・・・母親やピエリの状態とは異なり、
「その部屋」にいた者は、床に寝っ転がってはいなかった・・・。
部屋の中央に天井から垂れ下った物体・・・
いや、その囚人は、両腕を縛られて「吊るされて」いたのである。
まさか・・・これが「お父さん」!?
今もなお、父親は責め苦の真っ最中なのだ。
眠る事も許されず、蓑虫のように吊下げられて・・・。
そして彼の頬は異常なほどに腫れあがっている。
殴られた痕のようでもなさそうだが・・・。
「お父さん!? しっかり!!
あたしよ! フラアよ!」
なんと、既に父親の視線はあらぬ方向に固定されている。
意識はあるようだが、全ての事への反応が鈍い。
聞きなれた娘の声に、
ようやく父親は、はっきりとした反応を見せたようだ。
・・・だが・・・その力はもう・・・。
「ぅ ・・・あ・・・あ・・・。」
その瞬間、またもやフラアはショックを受ける・・・。
父親の口の中に歯が見えない・・・。
まさか・・・。
後ろで審問吏が高笑いしている。
「確かこの男は前歯を4本ほど、引っこ抜かれたようだな、
他にも見えない部分が凄いことになってるらしいぞ?
確か、貴様には骨を貫く責め具を見せた筈だよな!?」
道理で・・・
父親の顔は、青ざめていると言うレベルではなく、
紫色から既にどす黒く変色している。
これはもはや・・・
治療を行ったとしても、二度と社会復帰できなくなるのはないだろうか!?
もう・・・もうやめて・・・
こんなものを見せないで・・・!
既にフラアには言葉を紡ぐ力さえない・・・。
一体どうして、ここまで酷い仕打ちを受けねばならないのか?
何故、こんな酷い現実に晒されなければならないのだろう・・・。
審問吏が、
わざわざフラアを家族に会わせたのには目的がある。
それは、少し前に指示を受けた、法王ランドレットからの命令に依るものだ。
審問吏はフラアを鉄格子から引きはがし、
不自然なほど異様に、
「優しい」言葉を彼女の耳元に注ぐ。
「・・・そう嘆くな、
今からお前に嬉しい話をしてやる・・・。」
今さらそんな事を言われて信じれるものか?
だが、審問吏は構わず言葉を続ける。
「これからのお前の行動次第で、
母親や父親への責めを全てストップさせる。
勿論、お前にも昨夜のような痛みや苦しみは与えない・・・。」
さすがにその言葉にはフラアは反応した。
自分の事はどうでもいいが、
父母への痛みや苦しみがなくなるのなら・・・!
「ほ・・・本当!?
お父さんやお母さんを助けてくれるのなら何だってするわ!?
だ、だけどこのままじゃ、お父さんたち、死んじゃう!
傷の手当てもすぐにやって!!」
「ああ、そうだな、約束しよう。
ここでできる治療は限られたものだが、
それでもできる限りの事をやってやる・・・、
だがな。」
「わ、私に何をしろって言うの・・・!」
「何、怯えるな、
紙切れにサインするだけでいい。
自分が魔女である事を認めるだけだ。
難しくないだろう?」
それは死刑宣告にも似た意味を持つ。
だが、
もうフラアに他の選択肢はあり得なかった。
老練なる法王庁の戦術は、いたずらに拷問を続けるより、
もっと素早く、効果的な自白を引き出す方法を行使したのである。
当のフラアに迷いはなかった。
兄を見殺しにしてしまったことの罪悪感、
自分を産み育ててくれた父母への謝罪の気持ちから・・・、
もう自分の命を代償にせねば、
家族に報いる方法など考えもつかなかったのだ。
そしてついに、
フラアは、自らが「魔女である」という供述書にサインをしてしまう。
いよいよフラア、プロローグ最後の山場です。