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フラア・ネフティス編3 フラア捕縛


 「あのー、家にあった昔の銀貨なんですけど、

 これで二人分の食事、お願いできますか?」


勿論、通常に換算すれば、

二人分どころか10人分のお代には間に合うはずだが、

正確な対価を換算できない飲食店なら、これは妥当な交渉だろう。

ウィグル麺屋の主人らしき男性は、

一風変わった交渉に目を丸くしながら、

コインのデザインやフラア達を交互に見つめる。

最初は渋い顔をしていた店主だが、

彼はコインが収納されていた革袋に目をやって、「他にもあるのかい?」と詮索してきた。

全部さらけ出すと、さすがに物騒なので、

フラアはツォンに目くばせした後、自分で革袋に手を突っ込んで、

一握りのコインを掴んで広げて見せた。

金貨・銀貨・銅貨ばらばらで10枚ほど・・・。

店主は更に驚いたが、これらが昔のお金・・・

間違いなく大量に流通していたものだと理解したかったようだ。

 「オーケー、お嬢ちゃん達、

 この銀貨で、二人の食事と飲み物を用意しよう。」


 やったーぁ! 交渉成功!

ちなみにこのウィグル麺屋では、

日本のうどんのような麺と、大量の野菜を油で炒めてでてくる。

スープはセットの別皿だ。

 

 

 「・・・それでね、

 いきなりあたし達が、王宮や法王庁に直談判に行っても、

 とっ捕まるだけだと思うの。

 ツォン君だって、

 突然『シリス様の従者だー!』って言っても信用してもらえないだろうし・・・

 って、ねぇ、聞いてる!?」

 「モグモグ・・・んん!

 ひぃてるよ(聞いてるよ)!

 お、美味しい!」


フラアは頭を抱えつつ、自分も麺をすする。

やはりキントクラウドで王宮の上空を飛び回るのが一番効果的だと思う。

しかしそれすらもリスクがある。


例えば、キントクラウドが、

「召喚された悪魔だ」とか何か言われたらどうしよう・・・。

そうなるとやはり実力行使しか思い浮かぶ手はない。

フラアにとって最優先すべきは家族の命、

もう「魔女」のレッテルが外れるかどうかなんて大した問題じゃない。

そんな事を考えていれば、箸のスピードだってゆっくりになる。

 


 

一方、早飯のツォンは、

さっさと食べ終わると、他所の店先にも興味がわき始めたようだ。

 「フラアねーちゃん!

 あっちも見てきていい!?」

 「あのね・・・、

 ふぅ、遠くに行かないでよ?

 それと・・・あたしが食べ終わるまでに戻って来ること。」

 「りょーかぃぃ!

 じゃ、ちょっくらそこまでぃ!!」


ダメだ、ツォンは・・・。

やっぱり自分で何とか考えつかないと・・・。


悩みながら食べまくるフラアは、この時、完全に無警戒だった。

良くも悪くも、ここのウィグル麺屋の店主は「魔女騒ぎ」など知らない。

単純に若い女子供が大量の古銭を持っていたことに不審を思い、

自分の妻に、そのコインを持って駐在所に行かせた。

そしてフラアにとって最悪なことに、

法王庁は、管轄の異なる市内警察にも手をまわしていたのだ。

その報告は迅速に、該当エリア内の警官を呼び寄せ、

まだツォンがフラアの下に戻らぬうちに、

このウィグル麺屋の周りを取り囲んだのである。

 

 「突入!」

指揮官が号令をかけると、

数人の警官が店内になだれ込んだ!

 「えっ!?」

フラアが状況を把握した時はすでに手遅れだった。


 「ちょっと、これ、 何の・・・!

 ツォン君!

 助け・・・いやぁ! 放して!!」


あっという間に数人の警官に抑えられ、分厚い縄を巻かれてしまう。

そんな・・・

せっかくチャンスができていたと言うのに・・・!


ツォンはその頃、

角の向こうの甘味処に興味を湧かせていた。

今も古銭は自分で持っているが、

一人で交渉できるかどうかで悩んでいたのだ。


 やっぱりフラアねーちゃんに交渉してもらおうか・・・。


そう結論付けた時は既に時遅しである。

足早にツォンがウィグル麺屋に帰ってくると、

どこにもフラアの姿が見当たらない。

それどころが店主が警官らしき男たちに事情を説明している。


 あ!?

 店主がこっちに気づいた!


すぐに残っていた二人の警官はツォンに気づき、

怖い表情のままツォンに近づいてくる。

 

 

 「おい、小僧!

 ちょっと来てもらおうか!?」

相手がウィグルの役人なら、ツォンは友好的に会話したかったのだが、

その威圧的な態度はツォンのスィッチを切り替えた。


 「ああん! なんだ、お前ら!

 フラアねーちゃんをどうしたっ!?」

 「貴様、ガキのくせに歯向かうか!?」


警官はツォンをとっ捕まえようと両腕をあげる・・・!


 舐めるなぁ!!


ツォンのウェストに装備されている50センチほどのニョイロッド!

完全戦闘モードだと圧縮レーザーを放出できるが、今は通常戦闘モードで十分!

居合抜きのような素早さでニョイロッドを1メートルほどの長さに伸ばすと、

目にもとまらぬ棒捌きで、警官達のみぞおちに非情の一撃を叩きこむ!


・・・だがフラアの姿はどこに・・・


戦闘には自信があったツォンだが、それ以外はからっきしだ。

彼はキョロキョロ迷子のように辺りを見回すと、

宛てもなくラシの街中へと飛び出した・・・。


 

・・・ここは法王庁最高権力の中枢・・・

ヤズス会マグナルナ派法王ランドレットの居室・・・。

そこに、昼ごろ「逃走した魔女を捕縛した」との一報が舞い込んできた。


 「ランドレット猊下!

 昨夜逃亡した魔女フラア・ネフティス、

 ただいま拘束したとの報が入りました!」


長い鬚を垂らした法王ランドレットは、

その報せを聞いて、微笑みながら豪勢な自らの椅子に腰を下ろす。

 「ほう・・・、

 一時はどうなる事かと思ったぞ・・・?

 思えば・・・昨夜の不祥事には憤りのあまり倒れそうになったものだ・・・、

 審問官死者二名・・・

 審問所のボヤ・・・

 被疑者の死亡・・・、

 そして、城壁外の遺跡では大勢の怪我人を出し・・・、

 光りながら空飛ぶ異様な物体の出現・・・?

 まさしく魔女や悪魔の所業によるものかと・・・

 よりによってアイザス王戴冠の儀式直後に、

 このような・・・。」

 

 「もう、これ以上の被害は出ぬよう、厳重に・・・!」

 「当たり前じゃ!

 ・・・良いか、もう形式的な取り調べなど必要ない!

 今日中にその魔女の自白を引き出すなど、その気になれば容易かろう!

 最短で刑を執行する準備を整えろ!

 書類もこっちに回さなくて良い!

 余の認印は役所で押してしまえ。

 そのまま王統府に提出して、アイザス王の認可を取らせるのだ!

 このままでは法王庁の沽券にかかわる!

 魔女はこのウィグルに一人として存在してはならぬ!

 ただちに刑を執行するのだ!!」



この時点で・・・

フラア一家の運命は決定づけられたと言えよう・・・。

魔女裁判そのものに疑念を抱いていた王弟ディジタリアスも、

これだけのスピード決済など予想できる筈もなく、

結果・・・フラア達家族の審判は、

一家全員死刑との方向で流れは決まってしまったのだ・・・。

 



ここから先はおふざけなしです。

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