フラア・ネフティス編3 キントクラウド発進!
まぁ、王女様に似てると言われて悪い気はしない。
だが、今はそんな事より・・・。
ツォンの言っている事はにわかに信じがたいが、
そのシリスの言葉にすがるしか今のフラアに選択肢はない。
「・・・ねぇ、ツォン君!」
「ん?」
「もしその・・・シリス様の言われる通りなら・・・あたしを助けて!
お母さんやお父さんが・・・お兄ちゃんが捕まってるの!
あ、もしかしたら無事に逃げだせたのかもしれないけど、
追手が私に追いついてるってことは、きっと・・・!」
そこでフラアはこれまでの状況を事細かに話した。
ただし・・・
ツォンは意外と頭がよくないのか、全部を覚えきれないようだ。
とにかく「助ければいいんだな!?」と頼りのない反応をする。
大丈夫なのかな、この人・・・。
一応、その気になってくれてることは間違いない。
「じゃ・・・じゃあ、早速お願いできる!?」
フラアは期待と喜びで目を輝かすが、
どうもツォンのノリが悪い。
「ど、どうしたの?」
「ん・・・いやぁ、その・・・どうやって助けるの?」
へ!?
「ど、どうやってって・・・
この空飛ぶお船って空から光を放って、地上の敵をやっつけれるんでしょ?
って確かウィグル王列伝に・・・。
だったら・・・それで!」
「おいらが?
ウィグルの街を攻撃するってのかい?」
あ・・・!
そう、フラアの家族を助けるのはいいが、
下手をすると、
ツォンにとっては忠誠を誓った筈のウィグル王国に、反旗を翻してしまうことになるのだ。
つまり荒だったマネはできない、ということに・・・。
これは雲行きが怪しくなってきた!
なんとかツォンを説得しなければ!
「あ、そ・・・、そうじゃなくて、
ウィグルのお城や町は壊さなくていいのよ?
アタシの家族が囚われてるところを・・・それでみんなが助かれば・・・。」
「でもさ・・・フラアねーちゃんの家族は、ウィグルの兵隊に閉じ込められてるんだろ?
おいらにウィグルの兵隊さんを攻撃できないよ・・・。」
「じゃ、じゃあせめてこの船でみんなを脱出させて・・・。」
「ダメだよ、見て分かるだろ?
この船は本来、おいら一人用!
小柄なフラアねーちゃんだから、今この場にいれるんだ。
少し大柄な人が乗り込んだら、邪魔でこの船は操縦できないよ。」
なんてこと!?
それじゃ全然役立たずじゃない!
そういえば、ウィグル王列伝に書いてあった。
ツォン・シーユゥって、
確か「おつむ」がアレで、
決して物分かりがいいと言うわけではない事を・・・。
けれどその分、特殊な思考回路を持っているので、
この空飛ぶ船の操縦を任されたとか・・・。
「じゃ、じゃあどうすればいいのよぉ~!?」
「うーん、フラアねーちゃんだけ助かればいいってのはダメなの?」
「ダメに決まってるじゃない!
それじゃあ意味ないわ!
このままじゃあたしの家族、死んじゃうのよ!?」
「もぅ~、じゃあ作戦考えてよぉ~・・・あ。」
「そんな事言ったって、あたしじゃ・・・あ? 『あ』って何よ?」
ツォンは急にもぞもぞし始めた。
ま さ か ・・・。
「トイレ。」
「はぁぁぁ~!?」
まぁ400年ぶりにカラダが機能し始めたのだから無理もない。
食事も摂って、一気にカラダが目覚め始めたのだ。
「こ、この建物たしか、向こうにトイレあったよね?」
「ダ、ダメ! 知らないけどダメ!
今、追手がこんなにいるのよ!?
第一、この建物、もう完全に廃墟と化してるし、トイレ使えるの!?」
「廃墟ぉぉぉ!?
偉大な英雄たちを祀ってるこの建物を廃墟にしたってのぉぉ!?」
「あたしに言われたって知らなーい!
ここは今まで誰も立ち入れなかったんだからぁ!」
「それよりおいらはどこでしろってんだよぉぉ!?
この船の中じゃできないよぉっ!」
「あたしだってごめんだわぁ!!」
二人とも外の状況を完全に忘れてきっている。
完全防音だから、この騒ぎを外の連中に気づかれる恐れはないけども・・・。
埒があかないので・・・
いや、二人ともようやくその結論に達したので、
5分間互いに叫びあった後の行動をこれから述べる。
フラアは体力の限界・・・、
ツォン・シーユゥは我慢の限界・・・。
そこで一つの合意が形成された。
聞けば、二人が乗っているこの船は垂直離陸ができるという。
部屋の銅像に直接被害を与えずに船を動かすにはそれしかない。
・・・じゃ、どうやってこの船、ここにいれたの?
と、突っ込んでいるヒマはないはずだが、
はっきり言えばツォンが船を操作し始めたらフラアはヒマだ。
ツォンは器用に船の計器をチェックしながら彼女の問いに答える。
「当時はちゃんとルートがあったんだ。」
じゃあ燃料は?
とも聞くべきだろうが、
この時代に生きているフラアにそこまで考えが回る筈もない。
かつて、ウィグル建国以前、天才技術士ウランドン・ジェフティネスは、
シリスが・・・
いや、その名が斐山優一であった頃に遭遇したと言う、正体不明の生命体をヒントに、
斐山優一と共同開発でこの船のプロトタイプを創り上げた。
それはいわゆる電磁コイルを応用したもの・・・
と言っていいのかどうか不明だが、
ある種の永久機関に近いものだそうだ。
ただし「永久機関」とは理論上のものであって、
現実的には、船を構成する各補助システム・部品のメンテナンスなどの必要から、
完全なシステムではないらしい。
いま・・・こうして再起動し始めた飛行物体だが、
そう遠くない内に、
この地上を飛び回る事は不可能になるだろう。
もう、その文明は失われているのだから・・・。
さて・・・いよいよ400年ぶりに、
飛行船キントクラウドが発進する!
もう、誰が名前つけたんだとか、空気を読めない突っ込みも禁止だ!
船内のモニター類、計器は異常なく動き始めている・・・!
ブォォォン・・・
当初から聞こえていた震動音も確実に大きなものになっていた。
もはやこの部屋にいる追手の兵士たちは、
彼らも迷信深く、何が始まるのかと恐怖の感情を浮かび上がらせていた・・・!
「おい! 近づくな!
火傷するかも知れん!」
「い、いったいこれは・・・
旧世界のカラクリなのか!?」
「まさか・・・
神聖なるシリス様が祀られている館に容易く入り込んだ我らを罰するものでは・・・!?」
彼らとて、
この建物が怪奇現象の噂ある場所である事は十分に知っている。
上からの命令である事と、
集団心理でなんとか勢いでここまでやってきていたのだ。
ここでターゲットのフラアも見つけられず、
こんな予想外の現象に出くわして混乱するなという方が難しい。
一方、ツォンは兵隊たちに怪我させたくないし、
この館の損害を最小限にすべく、
船の外部スピーカーのスイッチを入れた!
『・・・ウィグルの者よ!
おいらはシリス様の忠実なる僕! ツォン・シーユゥ!
神聖なる英雄廟を汚す者には恐ろしい罰を与える!
命が惜しけりゃあ立ち去れぃぃ!』
・・・様になってるじゃん・・・。
ちょっとフラアは感心するが、ここで一つの事実に気づく。
あれ?
最初から脅かすだけで良かったんじゃ・・・。
いや、そしたらツォンは、
フラアの家族を助けるのをやめてしまうかもしれない。
彼が気づいていないならこのまま・・・。
・・・ツォンにしてみれば細かい事を考えている余裕はないのだ。
早く・・・トイレ・・・!
兵隊たちが穴の上に戻るのを待ってなんかいられない!
ついにツォンは操縦かんを動かしたのである!
・・・フゥゥゥァァアア!!
柔らかい音はそのまま周波数が高くなり、
同時に小型飛行船キントクラウドは床から浮き上がる!
そして一気に天井まで上がったかと思うと、
そのまま一気に天井を押し上げ・・・、
メキメキと破壊していく!!
「うわあああっあ!!」
この部屋全てが崩れ始めた!
かつての・・・
400年前、世界の運命に多大な影響を与えた英雄たち・・・、
シリスや・・・アスラ王・・・、
騎士団総司令官アーサーや、四人の使徒朱武の彫像が、
瓦礫や土砂で埋もれてゆく・・・!
浮かび上がる船に興奮しているのはフラアも一緒だ!
目の前のスクリーンでは、あり得ない光景が映し出されているのだ。
・・・そして船は・・・
この廃墟となった建物の天井を突き抜け・・・
虚空の空に向かって400年の時を超え飛び立っていった。
最初に物語のコンセプト作ったときには、そんな名前じゃなかったような気がしたんだけど、
キントクラウド・・・。
それはともかく西遊記って絶対どこかに元ネタありそうですよね・・・。
桃太郎もそうですけど・・・。